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Pull法またはPush法による経皮内視鏡的胃瘻造設術手技の工夫
- チューブ位置確認を目的とした内視鏡再挿入の必要性に対する検討
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蟹江治郎*,山本孝之**,赤津裕康,
葛谷雅文***,井口昭久***
* ふきあげ内科胃腸科クリニック,** さわらび会福祉村病院 内科
*** 名古屋大学医学部大学院医学研究科 老年科学
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在宅治療と内視鏡治療 2002; 6: 17-20 |
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要 旨 |
Pull法またはPush法によって経皮内視鏡的胃瘻造設術を行う際,チューブの設置を行った後に再度内視鏡を挿入し,胃内固定版が正しい位置に設置されているかの確認が必要とされている.今回我々は,従来と異なり内視鏡を用いない方法で胃内固定板の適正な位置を確認し,2回目の内視鏡挿入を行わず胃瘻造設を行った症例についての検討を行った.その結果,内視鏡1回挿入で胃瘻造設を完了した430症例のうち、手技の簡略化による合併症の発症を認めた症例はなかった.よって今回我々が行った,2回目の内視鏡挿入を行わないPull法およびPush法によるPEGは,従来の方法に比して安全で苦痛の少ない優れた方法であるものと考える. |
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T 緒言 |
近年,嚥下障害を有し医学的恒常状態にある症例に対する栄養管理法として,内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous
Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)を用いた経管栄養管理が,他の栄養管理法に比して多くの利点を有するため,急速に普及しつつある。このPEGの手技にはとしては、Ponskyらの報告によるPull法(1),Suckes-VineTM
Gastrostomy Kit等の使用によるPush法(2),およびIntroducer法(3)(4)の三法に分類がなされている.このうちPull法およびPush法(以下Pull/Push法)は,胃瘻チュ−ブが口腔を経由して挿入する点,挿入設置された後に内視鏡を再挿入して位置確認を行う点で共通した手技である.
Pull/Push法の原法においては,前記のごとくチューブの設置を行った後に再度内視鏡を挿入する必要があるとされている.この2回目の挿入は,胃内固定版が正しい位置に設置されているかの確認の目的で行われている.今回我々は過去にPEG施行症例の経験より、内視鏡の再挿入を行うことによる胃内固定板位置確認の必要性について検討を行い、その手技の省略の可否についての可能性について検討を行った。 |
U 対象と方法 |
平成4年10月から13年5月までに,Pull/Push法にてPEGを行った433症例について対象症例とし検討を行った.それら症例のうち,Pull/Push法の原法にそった方法で2回目の内視鏡挿入により胃内固定板の位置確認を行った症例は,Push法での造設を行い始めた当初の3名のみであった.それ以後に行った430名の症例については,術者の判断により2回目の挿入を不要と考え,内視鏡の再挿入による胃内固定板の位置確認を省略して造設手技を完了した.内視鏡1回挿入のみの症例における胃内固定板の確認は、@PEG挿入部の位置決めの際は、嶋尾らが提唱する「指サイン」(5)により穿刺部位の確認を充分に行う、A局所麻酔を行う際、その刺入針を用いて体表面から胃粘膜までの距離を測定する、B胃瘻チューブ設置の際、チューブにマーキングされている目盛りにより,体表面-胃粘膜間距離が局所麻酔時に測定した距離と同一であるかを確認する(Figure.
1)、といった三点を遵守して行った。今回検討の対象としたPEGの合併症については,筆者の提唱する合併症分類(Table.1)(6)(7)(8)のうち,チューブ位置異常に起因する胃壁と腹壁の密着が保持不能になった状態(以下,胃腹壁間離解)によって生じたものについて検討を行った. |
Figure 1 胃腹壁間距離の確認方法
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Table1 内視鏡的胃瘻造設術の術後合併症
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急性期合併症 (瘻孔完成前合併症) |
慢性期合併症
(瘻孔完成後合併症) |
感染性 |
非感染性 |
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1)創部感染症
2)嚥下性呼吸器感染症
3)汎発性腹膜炎 ※
4)限局性腹膜炎 ※
5)壊死性筋膜炎
6)敗血症 |
1)創部出血
2)再挿入不能
3)自己抜去
4)バルーンバースト
5)皮下気腫
6)チューブ閉塞
7)胃潰瘍
8)術後急性期胃拡張
9)胃-結腸瘻 |
1)嘔吐回数増加
2)再挿入不能
3)チューブ誤挿入
4)自己抜去
5)胃潰瘍
6)栄養剤リーク
7)バンパー埋没症候群
8)チューブ閉塞
9)挿入部不良肉芽形成
10)カンジダ性皮膚炎
11)体外固定板接触による皮膚ビラン
12)胃内バンパーによる幽門通過障害 |
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※は胃腹壁間離解に関連し得る合併症
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V 結果 |
Pull/Push法にてPEGを施行した症例は計433名,うち内視鏡を1回挿入でのみで胃瘻造設を完了した症例は430名であった.うちPEGに先立って経皮胃壁固定を併用した症例は391名、併用しなかった症例は39名であった.術後の早期合併症は計122名(28.4%)に認め,うちチューブ位置異常に伴う胃壁腹壁間離解により発生する合併症としては,汎発性腹膜炎2名と限局性腹膜炎1名を認めた(Table.2).
汎発性腹膜炎の内1名は、術前に予め経皮胃壁固定術を行っていたことにより,胃瘻チューブ本体の胃内固定板と体外固定板による固定を,強固な胃壁固定による固定部の粗血を防ぐため,意図的に緩めた状態で手術が完了されていた.しかし原因不明に固定糸が外れて脱落し,結果として胃腹壁間離解が生じて胃内栄養剤の腹腔内漏出が発生したことが発症原因となった.
他の2名は、PEG造設時には基本手技に準じて胃壁腹壁間距離を測定し,その距離に応じた体外固定板の位置決定を行っていた.しかし腹膜炎の発症時には,痴呆である患者自身による体外固定板の不意な移動により,チューブの位置が本来の造設時の位置から胃内側に移動して固定が緩み,結果として胃壁腹壁間離解を生じて胃内容物が腹腔内へリークした事が発症の原因となった. |
Table2 胃腹壁間離解に伴う合併症の内訳 (n=433)
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合併症 |
発生原因 |
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症例 1 |
汎発性腹膜炎 |
胃瘻チューブ付属バンパーの緩やかな固定と
経皮胃壁固定の固定糸の脱落による胃腹壁間離解 |
症例 2 |
汎発性腹膜炎 |
胃瘻造設後の体外固定版の不意な
位置異常による胃腹壁間離解 |
症例 3 |
限局性腹膜炎 |
同 上 |
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W 考察 |
PEGは1980年PonskyおよびGaudererにより発表され(9)(10),長期にわたり経腸栄養必要とする症例に対し多くの利点を有する(11)(12)(13)ことから,経鼻胃管栄養に変わり現在急速に普及しつつある.しかしPEGは外科的手技により栄養管を挿管することにより,経鼻胃管にはない特有の合併症も有する(14)(15)(16)(17)(18).筆者らの経験では,PEGの術後急性期に高頻度で認められる合併症は創部感染症と呼吸器感染症であるが(15),希とはいえ術後腹膜炎はその重症度から憂慮すべき合併症であるといえる.今回我々は術後腹膜炎の一原因として胃壁腹壁間離解による発生を報告した.開腹手術によって造設される胃瘻と異なり,PEGはその瘻孔が脆弱であり(19),術後急性期の創部管理は胃腹壁間離解を防ぐ瘻孔形成において重要な意味を持つ.よってPull/Push法においては,術後に適度な強度の胃内固定板位置決定を行う意味で,チューブの挿入設置を行った後に再度内視鏡を挿入し,胃内固定板の位置を確認することが必要とされている.
Pull/Push法においては,1回目の内視鏡挿入により腹壁を経由してガイドワイヤーを口腔へ導出し,そのガイドワイヤーを通じてチューブを設置した後に,2回目の内視鏡挿入を行って胃内固定板の位置を確認する.胃瘻チューブ設置時の胃内固定板の位置確認は重要であるが,一方仰臥位で内視鏡挿入を行うPEGにおいて、内視鏡の挿入は嚥下性呼吸器感染症の誘因ともなる。PEG後の嚥下性呼吸器感染症は,時に重症化して致命的なものとなることがあり,可能な限り防止すべきである.また2回目の内視鏡 挿入はPEGを受ける患者の肉体的な苦痛を増やし、PEGを行う術者の側にとっても手技の行程が増え煩雑となる。
今回報告した我々のPull/Push法での施行症例においては,その大半が内視鏡を1回のみの挿入とし,胃内固定板の位置確認のための2回目の内視鏡挿入を省略して手術を完了した.その理由は2回目の内視鏡挿入の目的である胃内固定板の位置確認は,手技上の工夫で行い得るものと判断したためである.また,内視鏡1回挿入でPEGを行った症例中で発生した胃腹壁間離解に基づく腹膜炎の発生原因は,1名は胃壁固定具の不意な脱落であり,他の2名は患者自身の体外固定版の移動に基づくものであることから,造設時に内視鏡による確認を簡略化にした事により発症したものとはいえない.そのため我々の経験においては,2回目の内視鏡挿入を行わなかったことにより安全性を損ねる事はなかった.よって今回我々が行った,内視鏡によらない胃内固定板位置確認を行い1回の挿入のみで手技を完結するPull/Push法によるPEGは、従来の方法に比して安全で苦痛の少ない優れた方法となる可能性がある(Table.3). |
Table3 Pull/Push法における内視鏡挿入回数によるPEGの利点
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内視鏡1回挿入で行うPull/Push法の利点 |
内視鏡2回挿入で行うPull/Push法の利点 |
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検査時間の短縮
誤嚥の軽減
手技の簡素化
苦痛の軽減 |
チューブ留置位置の確実な確認 |
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しかし,筆者らがPull/Push法によるPEGを開始した時点で,12例のIntroducer法によるPEGの施行例があり,内視鏡下での胃内固定板位置決定の経験を有していた.そのため今回の結果は,筆者らが経験的に胃内固定板の留置位置を体得し,合併症が未然に防ぎ得ていた可能性も否定できない.以上より2回目の内視鏡挿入を行わないPull/Push法は,理論的には十分可能であるといえるが,PEGを開始する施設においては,内視鏡を2回挿入する古典的方法で経験を積み,その手技に慣れた時点で筆者らの行った2回目の内視鏡挿入を簡略化する方法も視野に入れ,造設方法を選択することが望ましいものと考える.
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X 結語 |
造設時の局所麻酔針を利用して胃壁腹壁間距離を測定して行うPull/Push法においては、2回目の内視鏡挿入を行わなくても胃内固定板の位置確認が容易に行え、実際に合併症を起こした症例が内視鏡による確認の簡略化によって発症したものとは言えないため、安全性を損ねる事はなかった。よって今回我々が行った、2回目の内視鏡挿入を行わないPull/Push法によるPEGは、従来の方法に比して安全で苦痛の少ない優れた方法となる可能性があるものと考える。
なお本論文の要旨は,第6回HEQ研究会(平成13年8月,金沢)にて発表を行った. |
文 献 |
(1) |
Ponsky,J., Gauderer, M. :Perctaneous endoscopic
gastrostomy a nonoperative technique for
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(2) |
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(3) |
Russell, T. R., Brotman, M., and Norris,
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(4) |
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(5) |
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(6) |
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(7) |
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(8) |
蟹江治郎:経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を用いた栄養管理について[後編]胃瘻栄養管理のコツ.訪問看護と介護,1998;
3(5): 371-380 |
(9) |
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(10) |
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(19) |
嶋尾仁:胃瘻とは,内視鏡的胃瘻造設術-手技から在宅管理まで-.永井書店,大阪1-6,2001 |
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Percutaneous endoscopic gastrostomy: A methodological
issue study of examining necessity
to apply
endoscopy fir confirming location
of intragastric
bumper |
In percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG)
placement whether using Pull
or Push method,
it is widely acknowledged as
necessary process
to confirm location of intragastric
bumper
by re-applying endoscopy after
insertion
of PEG tube. We devised a method
of confirming
the location without using endoscopy
and
examined whether there was any
difference
in prevalence of complications.
Our experience
of 430 cases of not re-applying
endoscopy
had no significant difference
in prevalence
of complications after PEG placement
compared
with conventional method of re-applying
endoscopy.
Our results showed that second
endoscopy
cannot be necessary if a proper
method of
confirming the location of intragastric
bumper
is provided after PEG tube placement.
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