内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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経皮内視鏡的胃瘻造設術術後,経管栄養を離脱し得た症例に対しての検討

蟹江治郎*,河野勤,大澤雅子,赤津裕康,
山本孝之**,下方浩史***,井口昭久****

* 愛知県厚生連海南病院内科,** 早蕨会福祉村病院内科,
*** 国立長寿医療研究センター疫学研究部,**** 名古屋大学老年科学教室
 
在宅治療と内視鏡治療 2000; 4: 13-17 

 要旨
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(以下PEG)施行後、経口摂取が可能となり経管栄養から離脱ができた症例についての検討を行った。 対象は平成4年9月より平成11年5月までに、名古屋大学医学部老年科および、その関連病院にてPEGを施行された417名中、経口摂取が可能となり経管栄養から離脱可能であった23症例。その症例について、基礎疾患、術前栄養投与法、再胃瘻造設の有無を検討した。 その結果、胃瘻栄養からの離脱が可能であった症例の基礎疾患では、脳梗塞後遺症14名、痴呆6名、髄膜炎後遺症、脊髄損傷、脳挫傷後遺症が各々1名で、脳梗塞後遺症を基礎疾患に持つ症例が有意に高頻度であった。胃瘻施行前の栄養投与様式では、経鼻胃管16名、中心静脈栄養4名、経口摂取3名であり、経口摂取非離脱群に比して投与様式によるPEG離脱頻度には差はなかった。経管栄養からの離脱をするも、その後再び経管栄養の適応となり、再胃瘻造設となった症例は5名であった。
 一般に胃瘻は経鼻胃管に比し違和感が少なく、構造上抜去が困難である等の理由により抑制処置が緩和され、また不穏状態の改善が見込まれるなどの理由により、経口摂取が可能になるための要因を多く持つ。しかし今回の我々の経験では、経鼻胃管症例のみならず、他の栄養投与様式の症例に対しても均等に有効性があることが認められた。一方、経口摂取が可能になったため、一旦はPEG栄養から離脱できても、再び経管栄養投与の適応となる症例もあり、胃瘻の閉鎖に対しても、適応を慎重に選別すべきであると考える。

T 緒言
 世界的に類を見ない急速な高齢化が進む我が国において、脳卒中後遺症や痴呆に伴う嚥下傷害を来たし、経管栄養管理が必要となる症例は増加の一途をたどっている。従来、経管栄養管理を必要とする症例の大部分は経鼻胃管栄養を利用した栄養管理が用いられていたが、近年、経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy 以下PEGと略す)を利用した経管栄養が経鼻胃管を用いた方法に置き換わり広く普及しつつある。その背景にはPEGが経鼻胃管に比して多くの利点を持つことに由来し、その利点の一つにQOLの改善があげられる。
 今回我々はPEG施行後のQOL改善効果を確認するために、術後、経口摂取が可能となり経管栄養から離脱ができた症例について、その頻度、背景因子、再度経管栄養が必要になった症例について検討を行った。
 
U 対象と方法
 1992年6月から1999年5月の間に、名古屋大学医学部老年科およびその関連病院にて、インフォームドコンセントを得た上で、計417名(男性168名、女性249名、平均年齢77.3歳)に対してPEGが行われ、うち嚥下傷害によりPEGの対象となったのち経口摂取が可能となり経管栄養から離脱可能となった23名(男性4名、女性19名、平均年齢76.1歳)を対象とした。(Table.1) 
 それらの対象症例について、基礎疾患および術前栄養投与法が、PEGの離脱にいかに関与したのかをカイ二乗検定を用いて統計学的解析を行い比較検討した。また経腸栄養離脱後、再度経腸栄養が必要となりPEGを行った症例についても検討を行った。

Table 1 対象症例

施行期間 1992年6月〜1999年5月
胃瘻造設症例合計 417名(男性168名、女性249名)
栄養投与目的造設症例 399名
術後経口摂取可能症例 61名(15.3%)
胃瘻造設離脱症例 23名(5.8%)


V 結果
 対象となった期間中にPEGを施行した症例は、計417名(男性168名、女性249名、平均年齢77.3歳)で、その主な基礎疾患は、痴呆、脳梗塞後遺症等であったが、悪性腫瘍による通過障害のための造設症例も18名に認めた。対象となった症例のうち、栄養剤注入目的の症例のうち経口摂取が可能になった症例は61名(15.3%)であり、うち必要充分な経口摂取量によりPEGから離脱可能であった症例は23名(5.8%)であった。(Figure 1) 胃瘻栄養からの離脱が可能であった症例の基礎疾患は、脳梗塞後遺症14名、痴呆6名、髄膜炎後遺症、脊髄損傷、脳挫傷後遺症が各々1名で、術前栄養投与法は経鼻胃管16名、中心静脈栄養4名、経口摂取3名であった。(Table 2)

Figure 1 経口摂取可能症例内訳
経口摂取可能症例内訳

Table 2  PEG栄養中止可能症例

名前 年令 性別 基礎疾患 術前栄養投与法 術後合併症

I.K. 78 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
F.M. 80 女性 痴 呆 経鼻胃管栄養 無し
N.I. 63 男性 脊髄損傷 中心静脈栄養 無し
H.T. 87 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
S.Y. 63 女性 脳挫傷後遺症 経鼻胃管栄養 無し
O.U. 89 女性 痴 呆 経鼻胃管栄養 無し
M.K. 83 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
H.A. 85 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
S.K. 58 男性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
S.S. 46 女性 髄膜炎後遺症 経鼻胃管栄養 無し
M.A. 61 女性 痴 呆 経鼻胃管栄養 チューブ誤挿入
A.M. 85 女性 痴 呆 経口摂取 無し
S.N. 82 女性 脳梗塞後遺症 経口摂取 無し
Y.H. 81 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
M.G. 92 女性 痴 呆 経鼻胃管栄養 無し
N.S. 62 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 術後発熱、チューブ再挿入不能
O.T. 71 男性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 肺炎、胃潰瘍、チューブ誤挿入
K.S. 87 女性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 無し
F.K. 76 女性 脳梗塞後遺症 中心静脈栄養 無し
H.H. 85 女性 痴 呆 経口摂取 創部感染
M.T. 85 男性 脳梗塞後遺症 経鼻胃管栄養 創部感染
S.T. 81 女性 脳梗塞後遺症 中心静脈栄養 無し
M.M. 82 女性 脳梗塞後遺症 中心静脈栄養 無し


 基礎疾患に基づく胃瘻栄養離脱例と胃瘻栄養非離脱例の差では、胃瘻栄養離脱例で脳梗塞後遺症15名(65.2%)、痴呆6名(26.1%)、その他2名(8.7%)で、胃瘻栄養非離脱例に比して脳梗塞後遺症を基礎疾患に持つ症例が有意に多く見られた。(Table 3)

Table 3  
経管栄養離脱例と非離脱例の差  - 基礎疾患の差 -
経管栄養離脱例と非離脱例の差 - 基礎疾患の差 -
 術前経腸栄養投与法に基づく胃瘻栄養離脱例と胃瘻栄養非離脱例の差では、経鼻胃管栄養16名(69.6%)、中心静脈栄養4名(17.4%)、経口摂取3名(13.0%)で、胃瘻栄養非離脱例に比して各群とも、その離脱頻度に有意な差は認めなかった。(Table 4) 経管栄養からの離脱が可能であった23名中、その後再び食思不振などの理由により経管栄養の適応となり、再胃瘻造設となった症例は6名(26.1 %)であった。(Figure 2) 

Table 4  
経管栄養離脱例と非離脱例の差  - 術前経腸栄養投与法の差 -
経管栄養離脱例と非離脱例の差  - 術前経腸栄養投与法の差 -

Figure 2
  再胃瘻造設症例
再胃瘻造設症例
W 考察
 PEGは1980年PonskyおよびGaudererにより発表され(1)(2)、その手技の容易さと管理の簡便性から、長期間にわたり経腸栄養を必要とする症例の管理を一変する方法として評価を受けている。我が国においては、近年急速な高齢化社会を迎えつつあることから、脳血管障害や痴呆性疾患などによる嚥下障害を持つ症例が急増している。従来、そのような症例に対して経鼻胃管栄養や中心静脈栄養が行われる機会が多かったが、いずれの方法も長期管理における問題が多いため、高齢者を中心にPEGが普及しつつある(3)。
 PEGの有益性について書かれた報告は、現在までも数多く見られ(4)(5)(6)(7)、決して少なくはない合併症の発生頻度(8)を加味したとしても、経鼻胃管に比してその総合的な有用性については疑いようのないところである(Table 5)。PEGの有用性は大別して患者の苦痛緩和に関連した要素と、管理の簡便化に関連した要素があるが、経口摂取の回復は主に前者の要素の関わりが大きい。つまりPEGは経鼻胃管に比しチューブ留置に際しての違和感が少なく、また胃内バンパーの存在から抜去が困難である。その結果として、自己抜去防止のための抑制処置が緩和または中止となる症例があり、不穏状態の改善が見込まれるなどの理由により、経口摂取が可能になるための要因を多く持つ。今回の対象症例は、胃瘻栄養から完全に離脱が可能であった23症例であるが、胃瘻栄養を中止しないまでも経口摂取が可能になった症例が38名存在し、この群に関しても嚥下リハビリテーションを行いつつ長期観察を行っていけば、胃瘻栄養の離脱も期待できると言える。

Table 5  
経鼻胃管管理と比較したPEGの利点と欠点

利点 欠点

1) ューブの交換手技が容易
2) チューブの交換間隔が長い
3) 自己抜去がほとんどない
4) 上記理由より、在宅管理の可能性が広がる
5) 胃噴門機能に影響せず、 胃食道逆流を減少させ得る
6) 鼻咽頭および食道潰瘍の合併がない
7) 違和感が少ない
8) 経鼻胃管からの移行により、意識状態の改善を診た症例がある
9) 経鼻胃管からの移行により、経口摂取が可能になる症例がある
10) 顔面付近にチューブが無い事による心理的好影響と美容上の改善がある
1) 胃瘻造設時に内視鏡処置および、内視鏡技術修得医を必要とし、2名の医師が必要
2) 胃瘻造設により胃食道逆流を誘発し、嘔吐回数が増加する例がある
3) 外科的処置による合併症がある


 今回胃瘻を離脱し得た23名の基礎疾患では、非離脱症例に比し有意に高頻度に脳梗塞後遺症症例が存在した。脳梗塞後遺症による症状が動揺性の経過を持つ(9)との特徴があり、その特性がこのような結果に結びついたと想定できる。そのため脳梗塞後遺症症例については、PEGの適応の可否を決定する際により慎重な判断を要し、またPEG術後は十分な嚥下リハビリテーションが必要であるものと考えられる。
 また術前の栄養投与様式による胃瘻栄養離脱率の差違では、各々の群に差違は認めなかった。PEGは前述のごとく経鼻胃管栄養に比して苦痛要素の軽減効果があり、その結果として経口摂取が可能になることは想像に足る。しかし今回の検討では、経鼻胃管症例以外の栄養投与様式の症例に対しても、経鼻胃管症例と同様の確率で有効性があることが認められた。これは従来、主に経鼻胃管との比較において論じられていた利点が、他の栄養投与法についても同様に見られるものという証明となる。
一方、経口摂取が可能になったため、一旦はPEG栄養から離脱できても、再び経管栄養投与の適応となり、再度PEGが必要となった症例も23名中6名に認めた。PEGの対象症例は多くは高齢者で、症状が不安定な場合が多い。そのため十分な経口摂取が可能となり胃瘻栄養が不要となっても、一部の症例は一時的な改善であったり、その後の原病の悪化があったりすれば、再度PEGが必要になることは当然考えられる。よって胃瘻の閉鎖に対しても、その適応を慎重に選別すべきであると考える。現在、筆者らは再増設を行った経験を踏まえ、PEG増設後に経口摂取が十分可能になりPEGが不要になった症例に対しては、直ちにPEGチューブ抜去を行わず、一定期間ボタン型胃瘻チューブなどで瘻孔の確保を行い、状態を確認しつつ瘻孔閉鎖に踏み切るか否かを判断する方式に変更して好感触を得ている。
 近年、長期の経管栄養投与法として経鼻胃管栄養に代わり、多くの利点を持つPEGが、その役割を担いつつある。本検討においては、その利点の一つである経口摂取の改善症例に着目し、その効果が幅広く認められることが確認された。一方、胃瘻栄養からの離脱が可能になった症例の中で、一部の症例が再度PEGが必要になる場合があるため、瘻孔の閉鎖に関しては適応を慎重にすべきであると考えられた。
 なお本論文の要旨は、第3回HEQ研究会(平成11年月日、滋賀)にて発表を行った。

文 献
(1) Gauderer MWL, Stellato TA. Gastrostomie: Evolution, techniques,indications and complications, Curr Prob Surg 1986;XXIII:661-719.
(2) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ,Jr. Gastorstomy without laparotomy:A percutaneous technique. J Pediatrsurg 1980;15:872-5.
(3) 蟹江治郎、河野和彦,山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性. 日老医誌 1998;35:543-547
(4) 西田宏二,加地正英,古野浩秋,緋田めぐみ,栗山正巳,牟田口義隆,ほか;老年者における経皮内視鏡的胃瘻造設術の有用性と安全性.日老医誌1991;28:634-639
(5) 山城啓,中田安彦,高須信行,大嶺雅規,名嘉勝男;内視鏡的胃瘻造設術患者の長期検討-在宅療養移行への可能性について-.日老医誌1996;33:662-667
(6) 蟹江治郎:経皮内視鏡的胃瘻造設(PEG)を用いた栄養管理について. 訪問看護と介護(医学書院),東京,1998,p299-307.
(7) 蟹江治郎,河野和彦,山本孝之,赤津裕康,井口昭久:胃食道逆流のある症例に対しTGJ tube(Transgastrostomal jejunal tube:経胃瘻的空腸栄養チューブ)を用いた経管栄養管理により在宅管理が可能になった1例. 日老医誌1997;1:60-64.
(8) 蟹江治郎、河野和彦,山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:高齢者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術における合併症:創部感染症と呼吸器感染症の検討. 日老医誌 2000;37:143-148
(9) Hachinski VC, Linnette D, Zilhka J, Ross Russel RW, Symon L: Cerebral blood flow in dementia. Arch Neurol. 1975; 32(9): 632-7.
 

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