内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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胃食道逆流のある高齢者に対しTGJ tube(Transe Gastrostomal Jejunal tube:経胃瘻的空腸栄養チューブ)を用いた経管栄養管理により在宅管理が可能になった1例 

蟹江治郎,河野和彦*,山本孝之,赤津裕康**,井口昭久***

*愛知県厚生連海南病院内科
**さわらび会福祉村病院内科
***名古屋大学医学部 老年科

 
 
日本老年医学会誌 1997; 34(1): 60-64 

要旨
 経鼻胃管栄養および胃瘻栄養管理では、胃食道逆流により、逆流性食道炎による吐血と嚥下性肺炎を繰り返していた82才の男性に、経胃瘻的空腸栄養チューブによる管理を行った。その結果、経腸栄養剤が空腸内に直接投与されることにより胃食道逆流が減少し、逆流性食道炎および嚥下性肺炎の反復がみられなくなった。さらに、嘔吐、痴呆による自己抜去そして不穏等も認められなくなり管理が非常に容易となり在宅管理へ移行し得た。

T 緒 言
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)は、安全かつ有効な栄養投与手段である。しかし、経鼻胃管栄養投与法と同様に、噴門部機能低下による胃-食道逆流が著明な例においては、その管理は困難である。
今回我々は、胃食道逆流が高度なため経管栄養投与が困難な症例に対してPEGを行った後、その瘻孔から空腸に達するチューブである経胃瘻的空腸栄養チューブ(Transe Gastrostomal Jejunal tube、以下TGJ tube)を用いることにより、在宅管理が可能になった症例を経験したため報告する。

U 症 例
患 者:82才、男性。
主 訴:吐血。
既往歴:平成6年11月に脳梗塞を発症。
家族歴:特記すべきことなし。
現病歴:脳梗塞を発症後、痴呆状態および左片麻痺が出現し寝たきり状態となったため、老人保健施設に入所中であった。同施設では意欲低下による経口摂取量減少により経鼻経管栄養が施行されたが、頻回の嘔吐と自己抜去により管理が困難であった。また、経鼻胃管栄養管理を開始した後は、嚥下性肺炎や逆流性食道炎による吐血により入退院を繰り返していた。平成7年2月1日より黒色吐物を嘔吐、2月4日より頻回の嘔吐及び吐物中に新鮮血が混入するとのことで来院された。
入院時現症:身長168cm、体重78kg、血圧138/80mmHg、脈拍80 ・分、眼球結膜に貧血所見を認めず、胸腹部の訴えなし、全身状態は良好だが嘔吐は頻回であった。
入院時検査所見:WBC 12200/μl RBC 465万/μl Hb 14.1g/dl PLT 27.8/μl T.P.6.2g/dl Alb.2.6g/dl GOT 29 IU/l GPT 20IU/l LDH 195IU/l ChE 0.42ΔpH(0.6-1.2) Na 130mEq/l K 4.4mEq/l Cl 94mEq/l BUN 9.0mg/dl Cr 0.5mg/dl HBsAg(-) HBsAb(-) HCV Ab(-)
入院時内視鏡所見(Figure 1):胃噴門部は常に開口し、著明な胃-食道逆流を認めた。食道粘膜は噴門部より中部食道にかけて、地図状の強いびらん性変化とoozingを認めた。胃及び十二指腸球部は異常所見無し。
入院後経過:入院後は絶食で中心静脈栄養管理とし、逆流性食道炎の治療を行った。その病状の安定後、経鼻胃管栄養管理を再開するが、頻回の自己抜去と嘔吐により管理が困難であった。そのため平成7年2月7日PEGを施行し、胃瘻からの栄養投与を開始したが、嘔吐回数は減少しなかった。胃瘻からガストログラフィンを200ml注入した胃透視像(Figure 2)を示す。撮影時には透視台を20度ヘッドアップしているにもかかわらず、著明な胃-食道逆流現象を認めた。そのため、瘻孔の形成を確認した後の平成7年3月7日にTGJ tubeを挿入し、経胃瘻的空腸栄養を開始した。TGJ tubeからガストログラフィンを200ml注入した透視像(Figure 3)では、胃内の造影剤量も少なく胃食道逆流は認められなかった。経腸栄養開始後は良好に経過し、退院するとともに在宅管理が可能となった。
逆流性食道炎
Fig.1
Endoscopic findings on admission.EG junction was open and severe gastro-esophageal reflux was observed. Esophageal mucosa showed severe erosive changes and oozing,which was diagnosised as reflux esophagitis.
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Fig.2
X-ray findings after infusion of contrast (gastrograffin) through the gastrostomic tube. Severe gastro-esophageal reflux was observed even at 20゜head-up position.
Fig.3
X-ray findings after infusion of contrast through TGJ tube. Less contrast in the stomach and no reflux were observed.

V 方 法
 今回の症例に対してのPEGは、ダイナボット社のサックスバインガストロストミーキットR18Frを用いた。各種のPEGキットが存在する中で本方法を用いた理由は、1.他のPush法、Pull法のキットと異なりマルコットカテーテル形状でないため、胃内部固定板が強固であり、本例のごとく不穏状態を有する症例に関してもチューブ牽引に伴う合併症発生の可能性が少ない、2.18Frと比較的大口径である、3.交換時に内視鏡を必要とする反面、交換に伴う瘻孔損傷を起こさない、の三点である。
 TGJ tubeは、MIC社のジュジュナルチューブR20Frを用いた.このチューブは構造がシンプルで、バルーンチューブの先端が延長したシングルルーメンチューブである。TGJ tubeには、ダブルルーメンの形状をとるものとシングルルーメンのものがある。今回の症例では在宅管理時の内腔閉塞に伴う合併症の可能性を極力減らしたいと考えたため、シングルルーメン構造をとる本キットを用いた。Figure 4に本キット挿入時の内視鏡像を示す。

Fig.4
Endoscopy findings after insertion of TGJ tube in stomach. The end of the tube reached to the jejunum through the pylorus ring.
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 我々の施設での挿入法について説明する(Figure 5)。1.挿入前にまず使用症例の体型に合わせてバルーン部以降のチューブを、必要に応じて切断し長さを調整する2. チューブの先端部の壁に糸を通過させ結紮する。3.挿入時にチューブが胃内でたわまないように、内腔にスタイレットを通しておく。(当院ではその硬性が適当であるため、銅線を使用している。 4.内視鏡を挿入するとともにTGJ tubeを挿入する。5.チューブの先端部の糸を生検鉗子で把持し(Figure 5a)、十二指腸球部まで内視鏡を挿入する(Figure 5b)。この際、内腔のスタイレットは前庭部の位置で留置固定しておく。6.球部で内視鏡を固定し、チューブを把持した生検鉗子のみ抵抗を感じるまで慎重に挿入する(Figure 5c)。抵抗を感じた後に、内視鏡を球部に固定たまま鉗子のみ抜去する。7.内視鏡を胃内まで抜去し、残りのチューブを内視鏡で観察しつつ挿入する(Figure 5d)。
 
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Fig.5a Fig.5b Fig.5c Fig.5d
Fig.5
Endoscopy findings during the insertion of TGJ tube.
Fiberscope was fixed in the bulbus,and the tube held by a forceps was inserted
.

W 考 察
 経皮内視鏡的胃瘻造設術は、1980年GaudererとPonskyによって初めて発表され1)2)、長期の経腸栄養を必要とする患者の管理を一変する方法として高い評価を受けている。日本でも近年高齢化社会を迎えて、脳血管障害などにより長期経口摂取が困難な症例が急増している。従来、そのような症例に対して経鼻胃管栄養や完全静脈栄養が行われる機会が多かったが、その両法とも長期管理における問題が多いため、近年PEGが注目され普及しつつある。特に、経鼻胃管栄養投与法では逆流性食道炎や嚥下性肺炎などの胃-食道逆流に伴う合併症が多く、経鼻胃管からPEGへ変更することにより、胃-食道逆流に伴う合併症の明らかな減少が認められることが報告されている3)4)。
 一方、経鼻胃管栄養から胃瘻栄養の移行に当たっての呼吸器感染の増減については各種の意見がある。小川ら5)によれば、呼吸器感染を持つ経鼻胃管症例にPEGを行ったところ大半にその改善をみたが、一部には胃壁固定による胃排出能低下による胃-食道逆流を来す症例も存在するとある。筆者自身、平成8年4月までに220名に対しPEGを行っているが、うち10例において胃瘻栄養への移行後に嘔吐の機会が多くなり、嚥下性呼吸器感染の機会が増加する症例を経験している。また、今回の症例の様に胃噴門部機能が低下し胃-食道逆流を来す症例は、経鼻胃管とともにPEGについても、その管理は非常に困難といえる。
 これまで胃-食道逆流を認める症例に対する対処には各種の方法が報告されている。今回、我々はこの様な症例に対して、胃瘻より直接空腸に経腸栄養剤を注入する経管栄養であるTGJ tube(Figure 6)を利用した経胃瘻的空腸栄養を行い良好な結果を得た。この様なTGJ tubeを利用した栄養投与法はPercutaneous Endoscopic Jejunostomy(以下PEJ)という名称で以前より報告されている6-9)。しかしこの経腸栄養投与法は”胃瘻 Gastrostomy”を介した経腸栄養投与法であり、”空腸瘻 Jejunostomy”ではない。よって筆者は、経胃瘻的空腸栄養をPEJと称する事には疑問を感じている。
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Fig.6
Schematic figiure in the use of TGJ tube.The end of the tube was fixed in the jejunum or the duodenum.
Fig. 7
Schematic figure after the insertion of TGJ tube.
The end of the tube was placed in the jejunum or the duodenum.
 TGJ tubeを利用した経胃瘻的空腸栄養の栄養投与法としての利点はPEGより多いと考えられる。その反面、管理や交換手技が煩雑であるという欠点を持つ(Table 1)。ことにその交換手技は、容易なものではない。しかし今回、我々が提案したチューブ把持およびスタイレットを利用した挿入法を用いれば、その交換手技はかなり容易なものとなるものと考えられ、結果的に在宅管理の適応も広がるものと考えられる。

Table1 Merit and demerit in the use of TGJ tube.

長 所 短 所

経腸栄養剤が直接空腸へ流入するため,胃食道逆流による嘔吐の危険が少ない.
嘔吐の危険が少ないため,臥位での経腸栄養投与が可能.
幽門狭窄例にも,経腸栄養投与が可能.
ダブルルーメンカテーテルを用いる場合,胃液排泄を行いつつ経腸栄養投与が可能.
経腸栄養剤が直接空腸へ流入するため,一部に下痢を来す症例がいる.
チューブ交換作業に内視鏡操作が必要で,手技的にも煩雑である.
細径カテーテルを用いるキットでは,内腔閉塞を来しやすい.


X 結 論
 胃-食道逆流が著明なため、経腸栄養管理が困難な高齢者症例に対して、PEGを利用したTGJ tube(経胃瘻的空腸栄養チューブ)の挿入を行った。PEGを利用したTGJ tube挿入は、手術による空腸瘻造設に比して簡便で侵襲も少なく造設が可能であった。TGJ tube挿入による栄養管理は、胃内への経腸栄養投与に比して胃食道逆流が少なく安全であるのみならず、QOLの向上にも寄与することが示唆された。

文 献
(1) Gauderer MWL, Stellato TA. Gastros-tomie: Evolution, techniques,indicat-ions and complications, Curr Prob Surg 1986;XXIII:661-719.
(2) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ, Jr. Gastorstomy without laparotomy:A percutaneous technique. J Pediatr surg 1980;15:872-5.
(3) 吉利味江子、篠原幸人、荒木五郎、上野文昭、久保田光弘、安田聖栄。嚥下障害に伴う神経疾患患者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術・長期経過観察における有用性の検討・。神経内科治療 1989;34:351-359
(4) 小川滋彦、小市勝之、中野由美子、池田直樹、若林時夫、川上和之ほか。経皮内視鏡的胃瘻造設術の胃食道逆流における有用性・経鼻胃管との比較検討・Gastoeterol Endosc 1995;37:727-732
(5) 小川滋彦、鈴木文子、森田達志ほか。経皮内視鏡的胃瘻造設術の長期観察における問題点・呼吸器感染症と胃排泄能 ノ関する検討・Gastoeterol Endosc 1992;34:2400-2408
(6) Ponsky JL, Aszodi A:Percutaneous Endoscopic Jejunostomy.Amer J Gastro-enterol 1984;79:113-116.
(7) Ponsky JL:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy and :Endoscopic highligh-ts.Gastrointest Endoscopic 1984;30:306-307.
(8) Baskin WN.Advances in enteral nut-rition techniques. Am J Gastroenterol 1992;87:1547-53
(9) Strodel WE, Eckhauser FE, Dent TL, LemmerJQ. Gastrostomy to jejunostomy conversion. Gatrointest Endosc 1984; 30:35-36

A CASE OF GASTRO-ESOPHAGEAL REFLUX SUCCESSFULLY TREATED BY THE INTRODUCTION OF TRANSGASTROSTOMAL JEJUNAL TUBE FEEDING
We introduce transgastrostomal jejunal feeding by the use of transgastrostomal jejunal tube(TGJ tube).The patient was 82-year-old man and suffered from reccurrent melena due to reflux esophagitis and aspiration pneumonia caused by severe gastro-esophageal reflux.
So,we constructed gastrostoma by percutaneous endoscopic gastrostomy(PEG)and fixed TGJ tube in the jejunum through gastrostoma.The result was that we observed a significant reduction of gastro-esophageal reflux by direct administration of the fluid into the jejunum,eventually, we observed no reccurrence of the complications. Moreover,no vomitting,self-extubation or restlessness from dementia were observed.And the patient could discharge and move into home care.

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