内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天
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固形化経腸栄養剤の投与により
胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例
 

蟹江治郎*,各務千鶴子**,山本孝之,赤津裕康***,
鈴木裕介,葛谷雅文,井口昭久****
 * ふきあげ内科胃腸科クリニック
** 医療法人みらい 介護老人保健施設中津川ナーシングピア栄養科
*** さわらび会福祉村病院内科
**** 名古屋大学医学部大学院医学研究科老年科学
日本老年医学会誌 2002; 39: 448-451

要 旨
 症例は85才女性.介護老人保健施設にて胃瘻による経管栄養管理を受けていた.来所時は状態が安定していたが,その後,経腸栄養剤の流涎,胃瘻挿入部からの経腸栄養剤リーク,嘔吐,発熱,栄養剤注入時の呼吸困難様症状,肺炎などの症状を反復して認めた.そのため,各症状の緩和のために,粉末寒天により固形化した経腸栄養剤投与を開始したところ,投与直後より発熱以外の症状が消失し,発熱に関しても開始後2週間で消失し,良好な経過が得られた.また投与手技も簡略化され,介護者の労働的負担の軽減にも寄与し得た.
 
緒 言
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)は、安全かつ有効な栄養投与手段である。しかし、PEGには経鼻胃管に無い慢性期合併症を有し,時にその管理は非常に困難なものとなる.
 今回我々は,経腸栄養剤を固形化することにより,PEG造設術後にみられた胃食道逆流に起因する症状と,胃瘻チューブ挿入部からの栄養剤リーク(以下リーク)が改善した症例を経験した.よって,この経腸栄養剤の固形化が,経管栄養症例の合併症軽減のために有意義であると考えたため報告する.
 
症 例
患 者:85才、女性。
主 訴:経腸栄養剤の流涎,繰り返す呼吸器感染。
既往歴:平成11年1月に脳梗塞を発症。
家族歴:特記すべきことなし。
現病歴:本例は平成11年1月に脳梗塞を発症し,入院先の総合病院にて内視鏡的胃瘻造設術を受けた.経管栄養開始後は全身状態が安定したため平成12年4月28日に介護老人保健施設への入所となった.
入所時身体所見:身長150cm,体重37.0kg,血圧116/66mmHg,脈拍78回/分,胸部異常音はなし.要介護度は5で,言語による意思の疎通は不能,四肢拘縮を認め,身体障害度はC2であった.また口腔からは常に経腸栄養剤と同色の流涎を認めた.
入所後経過:入所後は定期的な体交処置を行い,経腸栄養剤は座位で注入することにより,問題のない経過を示したが,経腸栄養剤と同色の流涎は常に持続した.しかし入所後12ヶ月からは,経腸栄養剤の流涎に加え,リーク,嘔吐,発熱,栄養剤注入時の酸素飽和度90%未満の数値を伴う呼吸困難様症状,肺炎を反復して認めた.それらの症状の中で最も高頻度であったものは流涎で,次いで高頻度であったのはリークであった.また経腸栄養投与時には苦悶様表情や不穏状態をしばしば認めた.それら有症状時には介護老人保健施設で可能な範囲内の診察治療と,総合病院への通院検査治療により経過を観察していたが,合併症も頻回となったため,その防止のために固形化経腸栄養剤の投与を開始した.
固形化経腸栄養剤の投与開始後は,発熱以外の症状が固形化経腸栄養剤の投与直後より消失し,発熱も投与後2週間で消失した(Fig.1).また液状経腸栄養剤注入時に認められた苦悶様表情や不穏状態も,固形化経腸栄養剤の投与後より認められなくなった.

Fig. 1
 Reduction of symptoms after half-solid enteral nutrition via PEG

胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天

方 法
 今回使用した固形化経腸栄養剤は,市販の経腸栄養剤に粉末寒天を混入して調理を行った.寒天は調理と硬度調節が容易で,固形化した後は体温でも溶解せず,低カロリーで繊維質を多く含有するため固形化剤として選択された.実際に使用した経腸栄養剤は一般に市販されている半消化体栄養剤で,固形化にあたっては経腸栄養剤と症例にとって必要な水分混合した後に加熱を行い,粉末状寒天を水分200mlに対して1gの割合で混入し撹拌し,冷処にて保存して凝固をさせた.この調理により,経腸栄養剤の硬度は杏仁豆腐程度の硬さとなった.経腸栄養剤の投与に関しては,経腸栄養剤に寒天を混入した直後の液状化状態でカテーテルチップに吸引し,そのまま冷所にて保管して凝固し(Fig.2-a),投与にあったっては,症例に必要とされる量を数分程度かけ一括で注入するといった方法をとった(Fig.2-b).経腸栄養投与後の座位保持については,注入物が固形化製剤であり施行しなかった.経腸栄養剤の投与量は固形化の前後で変化はなく,1回量500mlを1日3回で投与を行った.
 
Fig. 2 Administration of half-solid enteral nutrient
胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天/注入用注射器 胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天/注入風景
(a) Half-solid enteral nutrient can be contained in plastic syringe (b)Injection of half-solid nutrient via PEG tube
考 察
 PEGは1980年PonskyおよびGaudererにより発表され(1)(2),長期の経腸栄養必要とする患者の管理を一変する方法として高い評価を受けている.しかし胃瘻には長期管理を行う上で,経鼻胃管にはない特有の合併症を有する(3)(4)(5).PEGの合併症についてTable.1に示す.慢性期合併症においては筆者らの経験(6)では嘔吐回数の増加は高頻度であり,本症もその合併症を有していた.

Table1
 Complications of percutaneous endoscopic gastrostomy

急性期合併症 (瘻孔完成前合併症) 慢性期合併症
(瘻孔完成後合併症)

感染性 非感染性

 1)創部感染症
 2)嚥下性呼吸器感染症
 3)汎発性腹膜炎
 4)限局性腹膜炎
 5)壊死性筋膜炎
 6)敗血症
 1)創部出血
 2)再挿入不能
 3)自己抜去
 4)バルーンバースト
 5)皮下気腫
 6)チューブ閉塞
 7)胃潰瘍
 8)術後急性期胃拡張
 9)胃-結腸瘻
 1)嘔吐回数増加
 2)再挿入不能
 3)チューブ誤挿入
 4)自己抜去
 5)胃潰瘍
 6)栄養剤リーク
 7)バンパー埋没症候群
 8)チューブ閉塞
 9)挿入部不良肉芽形成
 10)カンジダ性皮膚炎
 11)体外固定板接触による皮膚ビラン
 12)胃内バンパーによる幽門通過障害

 PEG造設後慢性期にみられる胃食道逆流増加は,嘔吐や誤嚥等をきたすが,本例においては経腸栄養剤の混入した流涎も認めた.しかし,胃瘻造設後にみられる胃食道逆流の頻度増加に関しての発生機序は,現在のところ確定的な原因が証明されてはいないが,小川らの報告(7)(8)によれば胃瘻造設による胃腹壁間固定により胃排泄能が低下し,経腸栄養剤の胃内停滞時間が延長することによって胃食道逆流が発生することが示唆されている.胃排出能に関わる胃蠕動運動を増減する因子には,神経性因子と各種消化管ホルモンに依存する液性調節がある.各消化管ホルモンの中でも胃蠕動を最も強く亢進するとされているものとしてガストリンがあり,この消化管ホルモンは胃壁の伸展により分泌が刺激される.しかし従来から行われている液体を使用した経管栄養投与法においては,嘔吐を予防する意味で時間あたり150-200mlの速度で滴下することが推奨されてきた.しかしこの滴下速度では胃の充満は困難であり,胃の不充分な充満からガストリン分泌も悪く,胃の蠕動が低下して胃排泄能が低下し,結果的に胃食道逆流を助長する可能性が考えられる.またこの投与速度での滴下を行った場合,必要な水分量やカロリーを摂取するためには,長時間の座位保持が必要になる.長時間の座位保持は,PEG症例でしばしばみられる褥瘡の管理の上でも不利な処置であるとともに,介護者にとっても見守りの必要性があり一定の労働力が必要となる事になる.
 今回我々が行った固形化経腸栄養剤の経管投与では,従来の液体による投与法と異なり,注射器を使用しての注入を行い,1回の投与量を一括で注入したため,注入時間は数分程度であった.稲田らの報告(9)によれば液体の経腸栄養剤の粘稠度を高めることにより胃食道逆流を軽減し,嚥下性呼吸器感染症を予防したとの結果があった.この結果から裏付けられるように固形化した経腸栄養剤は,液体のものに比し胃食道逆流現象の頻度を低下する事がいえる.しかし液体の経腸栄養剤を入れた後に粘調化させる方法においては,一時的であれ液状経腸栄養剤の投与が必要であり,胃食道逆流の予防効果は充分とはいえない.一方,我々の方法においては予め固形化した栄養剤を直接注入することから,従来の報告より安全性が高いものと考える.また一般的な経腸栄養投与法である液状経腸栄養剤の緩徐な速度での注入法に比して,短時間での注入が行い得ることから充分な胃の伸展が得られ生理的な胃蠕動が期待できる.このことは嘔吐や嚥下性呼吸器感染症の発生予防に効果があると考えられ,現に本例においても経腸栄養の固形化が開始された後に嘔吐や嚥下性呼吸器感染症が無くなり,連日みられた経腸栄養剤の流涎も停止している.
 PEG造設後慢性期にみられるPEG挿入部からの栄養剤リークも,対処困難な問題といえる.栄養剤リークの原因には,バンパー埋没症候群を含む不適切なバンパー固定に起因する場合と,PEGの経年的変化に伴う瘻孔部の弾力低下に伴うものがある(10)(11).前者のごとく不適切なバンパー固定に伴う障害ならば,バンパー固定の適切化により症状は改善しうる.しかし後者のごとく弾力低下により発生するものは難治である.この合併症に対してチューブの口径を太くしても充分な効果は得られず(12)(13),その対処については結論が出ていない.しかし今回の症例では栄養剤リークに関しても改善効果が得られている.これは,経腸栄養剤を固形化することにより,胃内圧による瘻孔からの漏れ減少を予防していることが考えられる.
 今回の症例においては固形化経腸栄養剤を注射器に入れ,数分程度で注入している.これは固形化した経腸栄養剤が胃食道逆流を惹起しにくい形態のためである.短時間で注入し得るということは,注入中座位の姿勢を長時間保ち体交ができない従来の経腸栄養投与法に比して,褥瘡の予防管理の点から有利な要素と考えられる.また不穏状態のある症例などは,経腸栄養投与中にチューブに触れることにより,チューブが外れるなどのトラブルを起こすことがあるが,本法のごとく短時間での注入が可能なら,そのような問題点を予防することができる.また液状経腸栄養剤で行う注入中の監視の必要もなくなり,介護者の負担が軽減するといった結果を得られる事になる.
 結論として従来液体を使用していた経腸栄養剤を固形化することにより,慢性期の合併症である胃食道逆流と栄養剤リークの軽減が可能である.また管理面においても短時間の注入が行えることから,褥瘡の予防や介護負担の軽減が期待できるものと考える.
 
文 献
(1) Gauderer MW, Stellato TA. Gastrostomie: Evolution, techniques, indications and complications, Curr Prob Surg. 1986;XXIII:661-719.
(2) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ,Jr. Gastrostomy without laparotomy:A percutaneous technique. J Pediatrsurg. 1980;15:872-5.
(3) 津川信彦,佐藤仁秀,佐藤正昭,横田祐介:経皮内視鏡的胃瘻造設術の長期観察106例の検討.健生病院医報. 1993;19:23-26.
(4) 蟹江治郎、河野和彦、河野勤、大澤雅子、山本孝之、赤津裕康: 高齢者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術における合併症:創部感染症と呼吸器感染症の検討. 日老医誌 2000; 37: 143-148.
(5) 蟹江治郎,河野和彦,山本孝之,赤津裕康,井口昭久:胃食道逆流のある症例に対しTGJ tube(Transgastrostomal jejunal tube:経胃瘻的空腸栄養チューブ)を用いた経管栄養管理により在宅管理が可能になった1例. 日老医誌1997;1:60-64.
(6) 蟹江治郎、河野和彦,山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性. 日老医誌 1998;35:543-547.
(7) 小川滋彦、小市勝之、中野由美子、池田直樹、若林時夫、川上和之ほか:経皮内視鏡的胃瘻造設術の胃食道逆流における有用性・経鼻胃管との比較検討.Gastoeterol Endosc 1995;37:727-732.
(8) 小川滋彦、鈴木文子、森田達志:経皮内視鏡的胃瘻造設術の長期観察における問題点・呼吸器感染症と胃排泄能に関する検討.Gastoeterol Endosc 1992;34:2400-2408.
(9) 稲田晴生:胃食道逆流による誤嚥性肺炎に対する粘度調整食品REF-P1の予防効果.JJPEN 1998; 20(10): 1031-1036.
(10) 蟹江治郎:在宅管理で知っておきたい慢性期合併症.クリニカ,トプコ,東京,2000;27(3):182-187
(11) 蟹江治郎:経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を用いた栄養管理について.訪問看護と介護,医学書院,東京,1998; 13(4): 299-307,1998; 13(5): 371-380
(12) Gauderer MWL.. Methods of gastyostomy tube replacement. In: Ponsky JL, eds. Techniques of percutaneous endoscopic gastrostomy. Igakusyoin, New York, Tokyo, 1988; 79-90.
(13) Klein S, Heare BR, Soloway RD. The "buried bumper syndrome": a complication of percutaneous endoscopic gastrostomy. Am J Gastroenterol 1990; 85: 448-451

Case report: Half-solid enteral nutrient prevents
chronic complications of percutaneous endoscopic gastrostomy tube feeding.
 An 85-year-old woman was receiving enteral feeding via percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG). The patient exhibited symptoms of gastro-esophageal reflux, leakage of nutrient from the PEG insertion point, vomiting, pyrexia, dyspnea when given nutrients and recurrent pneumonia. We therefore gave a half-solid nutrient, which was made by a mixture of agar powder and conventional liquid nutrient Immediately after starting the half-solid nutrient feeding via PEG, the patients no longer exhibited the above symptoms apart from mild pyrexia, which also vanished two weeks later. This case suggested that simply changing the fluidity of nutrients can contribute to a reduction of complications expected to occur in patients on PEG tube feeding.

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