内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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在宅管理で知っておきたい慢性期合併症/蟹江治郎/胃瘻/PEG/胃ろう
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在宅管理で知っておきたい慢性期合併症 

蟹江治郎*

* 愛知県厚生連海南病院 内科
 
クリニカ 2000; 27: 182-187 

Summary
 経皮内視鏡的胃瘻造設術の合併症には急性期に発生するものと慢性期に発生するものがあり、胃瘻栄養患者を在宅で管理する上では、慢性期合併症の病態生理に対しての理解が不可欠である。慢性期合併症の発生頻度は筆者の成績においては497名中47名(9.5%)で、嘔吐回数増加、チューブ再挿入不能、栄養剤リークなどが高頻度で、他には胃潰瘍、チューブ誤挿入、バンパー埋没症候群、幽門通過障害が認められた。他に慢性期に対処を要するものとして胃瘻挿入部の不良肉芽、チューブ挿入部膿瘍、皮膚潰瘍などもあり、合併症と同様に予防と対処が必要である。
 
はじめに
  経皮内視鏡的胃瘻造設術(以下PEG)は、1980年PonskyおよびGaudererにより発表され1)2)、長期間にわたり経腸栄養を必要とする症例の管理を一変する方法として高い評価を受けている。また本法はその管理の容易さ故、在宅管理を中心とした長期経管栄養管理において非常に有効な手段である3)4)。 その管理は経鼻胃管を利用したものに比し容易ではあるが、特有の合併症も多くある5)。その合併症を理解する事は、慢性期合併症を回避する意味で非常に重要である。
 本稿では、PEGの慢性期合併症について概説するとともに、その対処法についても述べる。
 
T PEGの合併症
  PEGの術後経過において瘻孔が完成する前後では、その特性に相違があり、術後管理も合併症も異なってくる(図1)。合併症は瘻孔完成前である術後三週間以内に発生する急性期合併症と、瘻孔完成後となる術後三週間以後に発生する慢性期合併症がある(表1)。 慢性期合併症の頻度は筆者の経験では、PEG施行者497名中47名(9.5%)であった(表2)。 また急性期合併症の範疇にはいるが、多くは慢性期に発見される合併症として多臓器誤穿刺がある。多臓器誤穿刺の対象臓器は主に横行結腸と肝臓で、前者は術後急性期には無症状で経過しチューブ初回交換時に難治性の下痢などで発覚することが多い。後者は多くは無症状で経過し、腹部CTなどを行った際に偶然発見されることが多い。

図1
 PEGの術後経過と管理
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表1
 胃瘻の合併症

急性期合併症 慢性期合併症

感染性 非感染性

 1)創部感染症
 2)嚥下性呼吸器感染症
 3)汎発性腹膜炎
 4)限局性腹膜炎
 5)敗血症
 6)壊死性筋膜炎
 1)出 血
 2)多臓器誤穿刺
 3)バルーンバースト
 4)皮下気腫
 5)胃潰瘍
 6)皮下気腫
 7)チューブ閉塞
 8)術後急性胃拡張
 1)嘔吐回数の増加
 2)チューブ再挿入不能
 3)胃潰瘍
 4)栄養剤リーク
 5)バンパー埋没症候群
 6)チューブ誤挿入
 7)チューブ閉塞
 8)幽門通過障害


表2 慢性期合併症の経験(n=497)

慢性期合併症 発生数

 嘔吐回数増加 12名
 チューブ再挿入不能 11名
 栄養剤リーク 9名
 胃潰瘍 7名
 チューブ誤挿入 5名
 バンパー埋没症候群 2名
 幽門通過障害 1名

47名


U 慢性期合併症
 1) 嘔吐回数の増加
【発生機序】複合要因があるが、胃瘻と関連したものとしては小川ら6)の報告による胃排泄の低下に起因したものがある。これは胃瘻造設により胃壁と腹壁が固定されることにより胃の蠕動が制限を受け、その結果胃排泄能力が低下するという機序で、その結果、嘔吐を来すというものである。その他の要因としては、経腸栄養注入速度が速すぎた場合や、注入時に臥位になっている場合などがある。
【対 処】もっとも効果的なのは経腸栄養注入速度を遅くすることである。欧米を中心に経腸栄養ポンプを使用した経腸栄養注入が普及しつつあるが、この方法も有効である。また胃瘻チューブをTGJtube(Transgastrostomal jejunal tube:経胃瘻的空腸栄養チューブ)へ交換するという方法もある7)。(図2)しかしこの方法は一定の効果は得られるが、その挿入および管理が煩雑であり、全ての症例に勧めることは困難と思われる。胃排泄能を亢進する各種薬剤の投与も試みられているが8)、現在のところ嘔吐回数の減少を可能とした臨床成績は確定していない。
【予 防】胃瘻造設位置と嘔吐発生の相関に関しての報告はない。しかし、複数回の胃瘻造設を行った際、その造設箇所が離れていると胃排泄能の低下を助長したとの報告があり(7)、その様な場合は憂慮すべきであると考えられる。
図2 経胃瘻的空腸栄養チューブ
(TGJtube;Transgastrostomal jejunal tube)

胃瘻を経由しチューブの
先端を空腸まで挿管
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 2) チューブ再挿入不能
【発生機序】瘻孔が完成しているにもかかわらず再挿入が出来ない状態には、複数の原因が存在する。その原因には、チューブ交換時に患者が不穏状態などを起こし腹部が緊張する場合、瘻孔が長く腹壁と胃壁のズレにより挿入が出来ない場合、腎盂カテーテルのような先端が平坦なチューブを使用し挿入抵抗が増した場合、チューブのサイズアップを試みた場合などがある。またチューブが自然抜去した事に気づかず、瘻孔狭窄が始まった時にも再挿入が困難になるときがある。
【対 処】無理をして挿入を試みると誤挿入の原因となる。瘻孔自体は閉鎖しているわけではないので、可能ならば残存した瘻孔からガイドワイヤーを挿入し、Push/Pull法で再胃瘻造設を行うことが望ましい。在宅、夜間など即時の対処が出来ない場合は、細径の経鼻胃管などで瘻孔閉鎖を予防し、可能なときに再胃瘻造設を行うといった方法でも良い。またチューブが自然抜去した際の対処については図に示した(図3)。
【予 防】不穏のため腹部の緊張やサイズアップのため挿入困難が予想される場合は、予めガイドワイヤーを挿入した後にチューブを抜去して、ワイヤーのガイド下に再挿入することが望ましい。また痴呆などの理由により自己抜去の可能性がある場合は、患者の手が届きにくく違和感の少ないボタン式胃瘻チューブを選択する方がよい(図4)。

図3 チューブ抜去時の対処
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図4 チューブ式とボタン式
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 3) 胃潰瘍
【発生機序】胃瘻チューブが胃壁に接触することにより発生する接触性潰瘍である。この合併症は、胃瘻の抜去を防止するための胃内固定版からチューブが突出した形状のものに発生しやすい。
【対 処】抗潰瘍剤の投与は無効である。発生時には胃瘻チューブの形状を再考するか、場合によっては胃瘻チューブの抜去を考えなければならない。
【予 防】接触性の潰瘍なので、胃内固定版からチューブの突出が少ない形状のものをあらかじめ選択することが肝要である。
4) 栄養剤リーク
【発生機序
】瘻孔が経時的変化に伴い拡張し、挿入部周囲から経腸栄養剤漏出することである。胃液の漏出により、挿入部周囲の皮膚びらんや、カンジダ等の皮膚感染を合併する場合もある。
【対 処】各種対処法があり以下に挙げるが、その何れのものも決定打とはなり得ない。
@いったん抜去して、瘻孔の縮小を待って再挿入をする。この方法は確かに一旦は改善するが、また直ぐ瘻孔が拡大してしまうことが多い。また抜去している間に瘻孔が閉鎖してしまうこともある。
Aチューブのサイズアップを行う。しかし拡大傾向にある瘻孔の状態を改善させる訳ではないので、結局再発をしてしまう。過去の報告でもサイズアップは逆効果とある9)10)。
BPEG挿入部の抱合縫縮。時々に効果を発揮することがあるが、感染を惹起し逆に状態を悪化させることがある。
これらの対処に難渋する場合は、胃瘻栄養そのものを中断しなければならない場合もある。その際はチューブの抜去のみならず、内視鏡的クリッピング術で瘻孔部を閉鎖し、胃内容物の漏出を遮断することも有効である。
【予 防】瘻孔拡大の予防を目的として緊張のある瘻孔形成が重要と考え、筆者は開腹的胃瘻造設術の原法に乗っ取り、腹直筋を貫通する部位での造設を心がけている。
5) バンパー埋没症候群
【発生機序】PEGチューブに、チューブ留置保持の役割を持つ2つのバンパーがあり、胃内にあるものを“胃内バンパー”と呼び、体表面にあるものを“体外バンパー”と呼ぶ(図5)。 PEG施行直後は、このバンパーを利用して胃壁と腹壁を密着状態にして瘻孔形成を促し、数日後より徐々に牽引を緩和していく。しかしこの作業を行わず、強固な牽引を続けると胃壁腹壁間が疎血状態となり、やがて同部が壊死することにより胃内バンパーが壁内に埋没してしまう(図6)。 この状態をバンパー埋没症候群とよぶ11)。
【対 処】このような状態になった場合は胃瘻栄養を休止し、瘻孔の閉鎖を行わざるを得ない。
【予 防】胃瘻造設後の強固な固定は数日間以内のみとし、その後は固定板間隔を緩め疎血領域を生じないようにする(図7)。

図5 胃瘻チューブの構造
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図6 バンパー埋没症候群
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図7
 チューブ固定版の管理
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 6) チューブ誤挿入
【発生機序】瘻孔が長い場合、または無理な再挿入を行った場合に発生する。この場合チューブの先端は腹腔内にあり、その状態に気づかずに栄養剤の投与を行うと腹膜炎は必発で、致命的経過をたどる。
【対 処】誤挿入に気づいたときは直ちに抜去を行えば、重篤な状態にはならない。可能ならばその場で同位置から再胃瘻造設を行えば、PEGチューブの圧迫により瘻孔損傷部からの栄養剤漏出がなくなり、より望ましい。
【予 防】瘻孔形成後のPEGチューブの交換は多くは容易で挿入の確認を必要としない。しかし挿入に難渋したり、挿入後の疼痛があったりした場合は確認が必要である。確認の方法としては、胃液の吸引の確認がもっとも簡便な方法である。吸引が出来ない場合は、チューブより少量の水溶性造影剤を注入し、レントゲン撮影を行うのも良い。在宅などでレントゲン撮影が出来ない場合は、経鼻胃管を挿入しつつ胃瘻より送気を行い、経鼻胃管チューブからの空気の流出を確認するという方法もある。
7) チューブ閉塞
【発生機序】多くの場合はチューブの老朽化などにより発生する。既存のPEGチューブの多くは20Fr前後と経鼻胃管に比して太径のため、チューブに問題のない時は通常の使用下において閉塞はない。しかし数カ月以上に渡りPEGチューブを使用しチューブの老朽化が進むと、内腔に変成した経腸栄養剤が付着し内腔が狭窄してくる。このような現象は、チューブの材質にシリコンを使用しているもので多い。
【対 処】背景因子としてチューブの老朽化がある場合はほとんどのため、チューブ交換を行う。何らかの理由で交換作業ができない時は、プジーや内視鏡洗浄用のブラシなどで内腔の清掃を行う。
【予 防】瘻孔完成後は、長くても3〜6ヶ月でチューブ交換を行うのが良い。
8) 幽門通過障害
【発生機序】
バルーンチューブが幽門部に嵌頓し通過障害を来すものである12)。
【対 処】経皮的にチューブを牽引し、正しい位置へ整復を行う。時にバルーンが幽門輪を超えて十二指腸内に嵌頓している事がある為、牽引した際に抵抗が強い場合は一旦バルーンの水を抜いた後に整復を行う。
【予 防】多くの胃瘻チューブは胃内固定板からの長さの目盛があり、その目盛を利用したチューブ位置の確認を定期的に行えば良い。
 
V 慢性期の起こりうるその他のトラブル
 1)不良肉芽
チューブ挿入部より発生する赤色で易出血性の肉芽組織。
【対 処】硝酸銀棒による焼灼。それでも対応ができない場合は外科的切除。
2)創部膿瘍形成
慢性期に発生する創部感染症。バンパー埋没症候群に合併して発生することもある。
【対 処】洗浄及び消毒。抗生剤のみでは奏効しない。難治性の場合は胃瘻栄養の中断やチューブ抜去を考慮する。
3)皮膚潰瘍
体外固定版の接触により発生する皮膚病変。
【対 処】固定版の間隔を広げ、創部に対してはドレッシング剤を貼用する。
4)挿入部発赤
機械的刺激により胃瘻チューブ挿入部が発赤する。原因としては、胃壁腹壁の固定が不適当な場合や栄養剤リークによる刺激がある。
【対 処】原因の除去。
 
おわりに
  在宅管理を中心とした長期経管栄養管理においてPEGは有効な手段であるが、在宅管理に携わる医療従事者がPEG特有の慢性期合併症に対してあらかじめ理解をしたうえで患者に接し、さらにその知識を介護者に正確に啓蒙することが、トラブルの拡大を防ぎ患者QOLの維持のために重要である。
 
文献
(1) Gauderer MWL, Stellato TA. Gastrostomie: Evolution, techniques,indications and complications, Curr Prob Surg 1986;XXIII:661-719.
(2) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ,Jr. Gastorstomy without laparotomy:A percutaneous technique. J Pediatrsurg 1980;15:872-5.
(3) 蟹江治郎、河野和彦、山本孝之、赤津裕康、下方浩史、井口昭久:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性. 日老医誌 1998;35:543-547
(4) 山城啓,中田安彦,高須信行,大嶺雅規、名嘉勝男;内視鏡的胃瘻造設術患者の長期検討-在宅療養移行への可能性について-.日老医誌1996;33:662-667
(5) 蟹江治郎、河野勤、大澤雅子、山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:高齢者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術における合併症:創部感染症と呼吸器感染症の検討. 日老医誌 2000;37:143-148
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(7) 蟹江治郎、河野和彦、山本孝之、赤津裕康、井口昭久:胃食道逆流のある症例に対しTGJ tube(Transgastrostomal jejunal tube:経胃瘻的空腸栄養チューブ)を用いた経管栄養管理により在宅管理が可能になった1例. 日老医誌1997;1:60-64.
(8) 小川滋彦、小市勝之、中野由美子、池田直樹、若林時夫、川上和之、川浦幸光: 経皮内視鏡的胃瘻造設患者の胃排泄能に対するエリスロマイシンの効果. Gastroenterol Endosc 1995; 37: 733-738.
(9) Strodel WE, Ponsky JL. Complication of percutaneous endoscopic gastrostomy. In: Ponsky JL, eds. Techniques of percutaneous endoscopic gastrostomy. Igaku-syoin, New York, Tokyo. 1988; 63-78.
(10) Gauderer MWL. Methods of gastrostomy tube replacement. In: Ponsky JL, eds. Techniques of percutaneous endoscopic gastrostomy. Igaku-syoin, New York, Tokyo. 1988; 79-90.
(11) Klein S, Heare BR, Soloway RD. The "buried bumper syndrome": A complication of percutaneous endoscopic gastrostomy. Am J Gastroenterol 1990; 85: 448-451
(12) Govern RM, Barkin JS, Goldberg RI, Phillips RS. Duodenal obstruction: A complication of percutaneous endoscopic gastrostomy. Am J Gastroenterol 1990; 85: 2114-2115.

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