|
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を用いた栄養管理について
- 後編・胃瘻栄養の管理のコツ
- |
蟹江治郎*
*愛知県厚生連海南病院内科
|
|
医学書院 訪問看護と介護 1998; 13(5): 371-380 |
|
|
|
はじめに |
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)は内視鏡の設備さえあれば容易に施行する事が可能です。その管理は経鼻胃管や中心静脈栄養に比して容易で、合併症も少ないと言われています。わが国においても十年ほど前からPEGについての紹介や発表が各施設で積極的に行われ、ここ数年で急速に普及する傾向にあります。しかし、それらの紹介や発表はPEGの利点に関してのものが大勢を占め、その問題点について触れられる機会は多くありません。PEGの管理を行っていく上では、利点のみの知識では各種の問題に十分な対処はし得ません。そのため今回はPEGの陽の部分ではなく、陰の部分に触れていきていと思います。
前号では前編としてPEGの総論について触れました。本号では後編としてPEG栄養管理のコツについて説明します。胃瘻栄養管理をより良く行うために必要なことは、1.胃瘻の構造を知る、2.胃瘻チューブの構造と種類を知る、3.PEGの日常管理を知る、4.合併症とその対処を知る、5.介護者を教育する、の5点であると思います。一部前号と重なりますが、それらについて順を追って説明していきます。 |
1. 胃瘻の構造 |
胃瘻とは体外から胃へ連結する瘻孔(トンネル)のことです(図1)。内視鏡的胃瘻造設術とは内視鏡を用いて体外から胃へのチューブを挿入し、チューブ周囲に瘻孔を形成させることです(図2)。この瘻孔の形成には胃壁と腹壁の密着が重要ですが、この密着状態が長期に渡ると、外部固定板と内部固定板の間に血流の悪い部分が生じ感染や瘻孔損傷の原因となります。そのため胃瘻の術直後は外部固定板と内部固定板の間を密着させ、術後3日目くらいからその間隔を広げていくことが重要です(図3)。 |
図1 胃瘻チューブの構造
図2 胃瘻の術後経過
図3 チューブ固定板の管理
|
2. 胃瘻チューブの構造と種類 |
胃瘻チューブには、その固定のために2つの固定板があり、外部固定板と内部固定板と呼ばれています(図1)。外部固定板は体の表面に存在し、チューブが胃の蠕動運動に伴い深く入ってしまうのを防ぎます。また内部固定板は胃内に存在し、チューブが抜去しまうのを防ぎます。胃瘻チューブは、この胃内固定板の形状とチューブの形態によって分類する事が出来ます。
これらのチューブには、それぞれ利点と欠点があり、症例に応じてチューブの形態を選択していくことが最良の方法です。つまり胃瘻の看護を行う上で、これらのチューブの選択は必須のものであり、この選択を行うためにはチューブのバリエーションと利点欠点を理解しておくことが重要となります(表1、表2)。 |
表1 胃内固定板の差による比較
表2 チューブ型とボタン型の比較
|
a.胃内固定板による分類
胃内固定板の分類は、チューブ交換時に内視鏡を必要とする反面、自己抜去が不可能なものと、チューブを牽引することによって交換が可能な反面、自己抜去が可能なものがあります(図4)。また後者にはバルーンを用いるものと、お椀のようなマッシュルーム型のものがあります。バルーン型は尿道用のカテーテルに似た構造で、比較的容易に交換が可能な反面、希にバルーンの破裂によりチューブの自然抜去があり得ます。マッシュルーム型のもの(図5)は自然抜去はない反面、交換時に瘻孔を損傷することがあります。それらのチューブの特徴については表1に示します。
|
図4 内部固定板による分類
図5 マッシュルームチップ型の抜去
|
b.チューブ形態による分類
チューブが体表面から突出しているものと突出していないものがあり、後者をボタン型と言います(図6)。ボタン式は美容上の利点はありますが、その反面、栄養チューブの接続時に脱衣の必要があり、PEGの適応のほとんどを占める寝たきりの症例に対しては管理が煩雑になりがちとなります。それらのチューブの特徴については表2に示します。 |
図6 チューブ形状による分類
|
|
3. PEGの日常管理 |
a.創部消毒
術後二週間を経過した時点で、創部感染の徴候がなければ中止します。
刺入部のガーゼ交換も必要ありません。むしろガーゼ保護しない方が、創部の乾燥が保てて良いと言った印象さえあります。
b.入 浴
創部に感染の徴候がなければ、そのまま保護せず入浴してゴシゴシ洗って下さい。感染の徴候があれば、創部をフィルム等で保護して入浴します。
c.チューブ固定
チューブは前述の如く内部固定板と外部固定板で固定されており、その間隔が狭いと疎血領域を生じて様々な合併症を生じます。胃瘻造設後1ヶ月以上経過した症例は、固定板が1〜2横指程度浮く程度のゆるい固定が理想的です。 |
4. 合併症とその対処 |
PEGには様々な合併症があり、それには瘻孔が完成前に発生する急性期合併症(=病棟内での合併症)と、瘻孔が完成後に発生する慢性期合併症(=在宅での合併症)があります。急性期合併症は、さらに感染に関連した合併症と関連しない合併症があります(表3)。以下で、それらの合併症とその対処について細説したいと思います。 |
表3 PEGの合併症
|
A.急性期合併症(瘻孔完成前合併症)
1)術後気管支炎、肺炎
PEGは仰臥位にて内視鏡挿入を行うため、誤嚥を惹起し発生するものです。その頻度は比較的多く、PEGが内視鏡的手術であることもあり、見落とされやすい合併症でもあります。
《対処》
仰臥位での内視鏡挿入は誤嚥を引き起こしやすいことを理解し、内視鏡挿入中は頻繁に口腔内吸引を行う。また術後は他の外科手術と同様、呼吸器感染の徴候(発熱、喀痰量の変化等)の監視を怠らない。
2)創部感染症
早期から経腸栄養を行うと頻度が高くなる合併症で、抗生剤の予防的投与の効果は少ないとの報告もあります。またチューブ固定板の間隔が狭いと高頻度に発生します。
《対処》
術後2週間は毎日創部消毒共に観察を行う。感染の徴候があれば、創部消毒の間隔を短くし、チューブの固定の強さをチェックする。経皮胃壁固定をされている場合は抜糸を行う。
3)出 血
出血は稀な合併症で、大多数は経過観察のみで止血します。しかし、筆者は以前に第3世代セフェム系抗生剤長期使用に基づくビタミンK欠乏により、術後止血困難となった症例を体験しています。
4)腹膜炎(図7)
稀な合併症であり、チューブトラブルによって引き起こされる場合がほとんどといえます。代表的な発生原因は、バルーンチューブを使用した胃瘻造設におけるバルーン破裂などにより、瘻孔
完成前に胃壁と腹壁が離開してしまうために発生します。 |
図7 汎発性腹膜炎の一例
|
B.慢性期合併症(瘻孔完成後合併症)
1)嘔吐回数の増加
胃は食物を一定時間停滞させ、ぜん動運動によって内容物を腸に運ぶ役割があります。胃瘻造設を行うと胃瘻挿入部が腹壁と固定されるため、胃のぜん動低下と引き起こすことがあるといわれています。ぜん動が低下すると胃内の栄養剤が停滞する時間が長くなり、嘔吐の機会が増えることになります。
《対処》
まず栄養剤をの投与時間を延長し(出来れば二十四時間持続栄養投与)、場合によっては消化管機能改善剤の投薬(シサプリド、エリスロマイシン等)を併用する。改善がない場合は、経胃瘻的空腸栄養チューブ(図9)による空腸栄養投与
をおこなう。それらの方法で改善がない場合は、開腹手術による空腸瘻造設しかなくなるが適応となる症例は稀である。 |
図8 経胃瘻的空腸栄養チューブ
|
2)チューブ抜去
チューブ抜去には、バルーンチューブのバルーン破裂による自然抜去と、不穏状態に伴う自己抜去がありますが後者は稀です。
《対処》
胃瘻はチューブ抜去後の瘻孔は自然閉鎖してしまうので、抜去を発見した場合は直ちにチューブの再挿入を行います。在宅管理の場合、介護者にはこのような場合決して焦らずに対処する様、常に説明しておく事が必要です。また普段から交換時には、医療従事者監督下のもとに、介護者にもチューブ交換を行ってもらうよう指導しておけば、緊急時の対処はさらに容易になります。対処法については図9に示しました。 |
図9 チューブ抜去時の対処法
|
3)チューブの閉塞
瘻孔の完成後のチューブは太径のものが使用されていることがほとんどのため、その閉塞の原因はチューブの老朽化によるものほとんどです。シリコンチューブ使用下では、マグネシウム等を含んだ一部の薬剤でチューブが変質しやすいと言われています。
《対処》
先端平滑なゾンデを使用して内腔を通せばす容易に開通します。もし開通しなくても、その場で新しいチューブへ交換するといった対処法も可能です。チューブの老朽化によるものならば、初めからチューブの交換を行います。
4)チューブの位置異常
バルーンチューブのバルーンが、蠕動により幽門輪や十二指腸に嵌頓しイレウス症状を来すことがあります。
《対処》
必ずチューブ固定板を使用し、チューブの長さを確認する。
5)カテーテルの脱落埋没(バンパー埋没症候群)
内部固定板と外部固定板の間隔が狭い場合、胃壁と腹壁が疎血状態となって壊死し腹壁ないに内部固定板が埋没する状態を言います(図10)。この状態は、栄養剤の滴下不良や瘻孔からの液漏れなどにより気づかれます。
《対処》
内部固定板と外部固定板を緩めに固定する。もしバンパー埋没症候群となった場合、胃瘻栄養を中止してチューブを抜去し、瘻孔の狭少化を待って胃瘻栄養を再開する。感染症を合併している場合は、抗生剤の投与を行う。 |
図10 バンパー埋没症候群
|
→ |
|
|
6)瘻孔からの栄養剤漏れ(栄養剤リーク)
バンパー埋没症候群によるものと、単なる経年的変化によって起こる場合があります。瘻孔からの栄養剤漏れを発見した場合,バンパー埋没症候群によるものを考え、内部固定板と外部固定板により腹壁が圧迫されていない確認する必要があります。
《対処》
バンパー埋没症候群となった場合は、前述のごとく対応する。経年的変化によって起こる場合は,チューブを1-2日間抜去し、瘻孔の狭少化を待って胃瘻チューブを再挿入する。文献上はチューブのサイズアップによる対処は、逆効果とあるが実際上は問題はないことも多い。 |
5. 介護者への教育 |
PEG管理の主役は介護者です。家庭内においては患者の家族が、医療施設内においては介護員が該当することになります。これらの方々の知識不足は、胃瘻栄養管理の上で大きな傷害となります。しかし介護者の方々は、そもそも初めから専門知識など有るはずがありませんので「介護者の知識不足=担当医療従事者の教育不足」ということになります。PEGはその発表以来約20年が経過しましたが、わが国においては未だにPEGに対しての誤解が多く、今後も介護者の理解を得る努力が必要です。私が在籍している海南病院においては、介護者の理解を深め、知識を付けていただくためにPEGについてのマニュアルを作り配布をしております。以下にその内容を原本のまま掲載します。この内容を基に、各施設での特性を出したマニュアルの作成にお役立て頂ければ幸いに思います。
|
|
おわりに |
PEGは容易に施行可能で管理も簡便、しかもQOLも著明に改善することから、ここ数年急速に普及しつつあります。施行経験に関しての発表も数多く見られますが、多くはその利点について強調したもので問題点に触れたものは、比較的少ないように思います。
今回は医学書院さんの協力で”経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を用いた栄養管理について”を前後編にわたり掲載させていただきました。昨今PEG賛歌の発表が続く中、水を差すかの如くの内容もあったと思いますが、少なくない合併症の可能性を含めたとしても、やはりPEGが最も理想的な経腸栄養投与法であると思います。皆さんもPEGの利点のみならず欠点も充分認知したうえで、この方法を進めいただきたく事を希望します。 |