内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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経腸栄養材固形化・半固形化の意義と効果
Significance and utility of semi-solid nutrients 
ふきあげ内科胃腸科クリニック   蟹江治郎
栄養−評価と治療,メディカルレビュー社,2010;27(1),43-47  

  SUMMARY     KEY WORD
 経管栄養で使用される栄養剤は,かつて主流であった経鼻胃管からの注入を可能にするために,多くのものは液体の形状となっている.しかし全ての栄養分を液体で摂取することは,液体の高い流動性のため胃食道逆流,栄養剤リーク,そして下痢の原因の一つとなっている.これらの問題を改善する目的で,近年,栄養剤の流動性を低下させた栄養剤の固形化・半固形化が普及しつつある.
半固形化栄養
寒天固形化栄養
内視鏡的胃瘻造設(PEG)
合併症予防
胃食道逆流,下痢対策

T.はじめに
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy,以下PEG)は1980年にPonskyおよびGaudererらにより報告され(1),長期に経管栄養を必要とする症例に対し多くの利点をもつ事から(2)(3)(4),従来使用されていた経鼻胃管に代わり一般的な経管栄養投与法となっている.一方,経管栄養投与法で利用される栄養材の多くは,現状においても従来の経鼻胃管で利用するための形状である液体となっている.栄養材が液体である利点として,経鼻胃管の様にPEGカテーテルに比較して,細径で長い管腔からの滴下注入が可能である点があげられる.しかし,液体は経口摂取している食物に比較して流動性が高いため,従来,経管栄養症例において様々な合併症の原因となっている.一方でPEGの場合においては,使用されるカテーテルが経鼻胃管に比較して太く短いため,ゲル化(流動性を無くして固化した状態)した栄養材の注入が可能であり,使用する栄養材は液体である必要がない.
 本稿ではPEGから投与が可能である固形化・半固形化栄養について,その意義と効果について記述する.

U.経腸栄養剤固形化・半固形化とは
1.液体栄養の問題点
 通常,我々が摂取する食物は固形物であり,それを咀嚼・嚥下することにより胃内へ流入する.胃はその内容物を一定期間胃内に留めつつ,徐々に小腸へ移送する生理作用がある.この機能を果たすために,胃は噴門により胃食道逆流を防ぎ,幽門により内容物の通過を調節している.しかし,液体は生体が食物を咀嚼・嚥下した胃内容物に比較して流動性が高く,これらの生理的狭窄部位の通過が容易となる.その結果,液体のみを投与する経管栄養投与法は,胃食道逆流や下痢の原因の一つとなるものと考える.またPEG症例においては,瘻孔部分の通過性が亢進すれば栄養剤リークの原因ともなる(5).(図1)

図1 液体栄養の問題点
液体栄養の問題点
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002より転載
2.経腸栄養材の半固形化とは何か
半固形とは液体と固体の両方の属性をもつ物性で,液体より固体に近い半流動体とされている.つまり,この物性をもつ栄養材が半固形化栄養材と定義づけられる.半固形化栄養材は,その物性を固体に近くすることにより,液体栄養材の高い流動性に伴う様々な弊害を緩和する目的で発案された栄養材である.半固形化栄養材は,その粘度や硬さにより,ゼリー状,クリーム状,ペースト状など様々な形状となる.半固形化の方法としては,既存の液体栄養材に添加ないしは調理を行って半固形化する方法と,あらかじめ半固形化した製品を使用する方法がある.

3.半固形化栄養の種類
(1)寒天を用いた,いわゆる固形化栄養
 筆者の報告による方法で,液体栄養材を寒天を用いてゲル化し “重力に抗してその形態が保たれる硬さとしたもの”を固形化栄養材として臨床評価を行っている(6)(7).固形化栄養においては単にゲル化して粘性と弾性を得るのみならず,胃内へ注入後は食物を咀嚼嚥下した後の胃内容物の物性に近づけるため,注入前はプリン状の形態となっている(図2).ゲル化にあたって寒天を使用することにより,付着性の乏しい物性となることからPEGカテーテルからの注入も容易である.なお寒天による,いわゆる固形化栄養材として報告された栄養材は,日本栄養材形状機能研究会で半固形栄養の範疇に属するものとして統一された(8).
 寒天固形化栄養は従来から使用されている液体栄養材を,寒天を用いて調理することにより,容易にゲル化することが可能である(7).半固形としての恩恵が得られ,寒天固形化栄養材の定義である重力に抗してその形態が保たれる硬さとするために必要な寒天は,供与される液体栄養材の容量の0.5%程度を目安とし調理を行っている(9).また近年は,予め固形化された栄養剤として,ハイネゼリーR(大塚製薬工業)が,唯一の寒天固形化栄養材の製品として市販化されている(10).

図2 固形化栄養の外観
調理後はプリン状の形態となり,注入後は胃内容物に近似した物性となる

      固形化栄養の外観     固形化栄養の外観    

(2)粘度調整による半固形化栄養
 本法は注入する栄養材の粘度を増強することにより液体栄養の問題点を改善し,短時間で注入することにより生理的な消化管運動を得る栄養投与法である(11).半固形状の物性である流体の,いわゆる“ねばりけ”のことを粘性というが,粘度とは粘性の指標となる物性値のことで,cP(センチポワズ)という単位で表される.粘度調整による半固形化栄養材で注意すべき点は,粘度があれば効果があるというわけではない事である.合田らの報告によれば,胃本来の貯留能や排出能により胃食道逆流が防止できる粘度は20,000cPとされ,逆に2,000cP以下は効果が無く禁忌ともされている(12)(13).
 粘度の調整は調理の必要がないため,寒天調理に比較して簡便である.また粘度を調整した市販製品も多く発売されているが(図3),大半のものは20,000cPの粘度に達しておらず,その使用においては注意を要する(14)(15).また効果を得ようと粘度を高くすると,注入に力を要するといった課題も残されている(16).

図3 
粘度調整による半固形化栄養の外観
半固形状流動食の外観

(3)ミキサー食を使用した半固形化栄養
本法は通常の食事をミキサーで粉砕し,半固形状にして注入する方法である(17).ミキサー食の場合,特に在宅の場合は家族と同じ食事となりコスト面で有利になり,その準備も容易である.一方使用する食材により物性が一定しないため,半固形栄養材としての効果判定は困難である.また食品内容によっては充分な形状が得られず,場合によっては粘度調整剤での調整を要する時もある.

V.経腸栄養剤固形化・半固形化の意義
 半固形化栄養の意義を,筆者が報告した寒天による固形化栄養を例に説明する(図4).前述のごとく,固形化栄養とは,栄養剤をゲル化して“重力に抗してその形態を保つ硬さ”としたもので,寒天による調理後はプリン状の形態となり,胃瘻より注入後は胃内において胃内容物と同様の形状となる.本法においては胃瘻から注入後の胃内において,液体のみを注入する経管栄養投与法に比較して生理的な物性となり,その結果として胃内容物の胃内における保持が適正化され,胃食道逆流,下痢,栄養剤リークなどに対して一定の効果をもつ(18)(19).

図4 固形化栄養の特徴
固形化栄養の特徴

蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より改変し転載

W.経腸栄養剤固形化・半固形化の効果
1.胃食道逆流に対しての効果
 PEGの長期管理を行う中で,嚥下性呼吸器感染症や嘔吐は頻度の高い合併症である(20).栄養材の半固形化は,全ての栄養を液体で摂取する従来の経管栄養投与法に比較して胃内容物の流動性は減少し,噴門の通過性が低下して胃食道逆流の減少が得られる事が知られている(21)(22).胃食道逆流は嘔吐の原因となるばかりでなく,不顕性誤嚥による嚥下性呼吸器感染症の原因となる.そこで,栄養材の物性を半固形化して胃食道逆流の頻度を減らせるのならば,胃食道逆流による嚥下性呼吸器感染症や嘔吐を減少させることが出来るのである(23)(24).
2.胃瘻からの栄養材もれ現象に対しての効果
 胃瘻の瘻孔より栄養剤が漏れてくる現象も頻度の高い合併症である(20).栄養材漏れの原因には,瘻孔の自然拡張,バンパー埋没症候群,カテーテルストッパーによる腹壁圧迫などがある.そのうち高頻度に経験するのが瘻孔の自然拡張であるが,小川の報告によれば,その対応として最も望ましいものとして,栄養材の半固形化があげられている(25).全ての栄養を液体で摂取する方法では,わずかな瘻孔拡張があっても栄養材漏れが発生する.一方,栄養材を半固形化すれば,流動性が減少する事により多少の瘻孔拡張があったとしても漏れは発生しにくく,この合併症の頻度を減少しうる(26)(27).
3.下痢に対しての効果
 経管栄養管理を行う上で,下痢は頻繁に経験する合併症である.経管栄養症例における下痢の中では,偽膜性腸炎の原因菌であるクロストリジウム・ディフィシルによって発症する下痢症が,経管栄養症例において希ではないことが知られており(28),下痢の症例に遭遇したら,まずは下痢の原因疾病の鑑別診断を行う必要がある.一方,全ての栄養を液体で摂取する方法では,経管栄養材の流動性が下痢の原因となる場合もある.その際,栄養材を半固形にすることにより,腸管通過時間が緩徐になり下痢が減少することが考えられ,臨床的にもその効果が報告されている(29)(30).
4.褥瘡に対しての効果
 経管栄養注入時においては,胃食道逆流による嘔吐を防止する目的で30度ないしは90度のギャジアップを行い注入を行う(31).また液体栄養剤注入の速度に関して,嘔吐や下痢の防止のため添付文書上は,1時間あたり100〜150mlの速度で滴下注入を行う事となっている.しかし,その実施にあたっては,投与症例に長時間の座位保持を強いると共に,褥瘡症例に対しては体位変換の中断を余儀なくされる.これらの投与法による体位の固定により,褥瘡の発症または悪化が懸念される.
 一方,液体栄養で診られる下痢や嘔吐が栄養剤の半固形化により防止できるのならば,栄養剤は短時間で注入が可能となる(5)(12).これにより座位保持も不要になるため体位交換の継続が可能になり,褥瘡の予防ないし改善に効果が期待できる.そして実際の臨床報告においても,褥瘡をもつ胃瘻症例に半固形化栄養を導入することにより状態の改善を得たとの報告や(32),寒天による固形化栄養を導入した後に褥瘡が有意差をもって改善を得たのみならず,導入後は新規の褥瘡が発生しなくなったとの結果も報告されている(33).
5.注入後高血糖に対しての効果
 液体は流動性が高いため,液体経腸栄養材のみの経管栄養投与法は,胃内容物の胃内停滞時間が生理的状態に比較して短縮することが考えられる.胃内容物の胃内停滞時間の短縮は,耐糖能異常のある症例において,食後血糖値の上昇を悪化させる可能性がある.栄養材を半固形化することにより,栄養材胃内停滞時間が延長すれば,食後血糖の上昇を緩和させることが考えられる.実際,筆者は胃瘻管理となっている糖尿病症例において,液体栄養管理を行っている状態で認めた食後高血糖が,寒天固形化栄養に変更することにより改善した事例を経験している(34).
6.QOLに対しての効果
 栄養材を半固形とし短時間で摂取が可能になれば,液体栄養材注入時における患者の体位固定から開放される.注入時間の短縮は,介護者にとっても拘束時間が短縮され介護負担が軽減される(35)(36).特に認知症などにより不穏多動状態のある症例において液体栄養の滴下注入を行う際は,経腸栄養投与中に患者自身が栄養管に触れることにより,胃瘻カテーテルの接続部が外れたりイルリガートルが落下するなどのトラブルを起こすことがある.その様な症例に対し半固形栄養材短時間摂取法を実施すれば,対象症例の負担のみ成らず,介護者の負担も大幅に軽減されることになる. 

X.おわりに
 現状において,多くの栄養材が液体の形状である理由は,かつて主流であった経管栄養投与法である経鼻胃管が,液体以外の通過を許さなかったからであり,液体の形状が経管栄養症例において有用であった医学的根拠に基づいたものではない.むしろ近年においては,液体の形状で全ての栄養を摂取する経管栄養投与法は,その物性から様々な問題が指摘されている.
一方,経管投与法に着眼すれば,経鼻胃管はすでに主流ではなく,特に長期経管栄養管理を要する症例に対しては,多くの場合PEGが選択されている. PEGの場合,使用されるカテーテルの多くは経鼻胃管に比較して太経で短いことから,半固形栄養材の注入が可能となっている.そのため経鼻胃管に適した栄養材である液体栄養を,PEG症例に対して選択しなければならない事例は,むしろ希少といえる.よって,経管栄養投与法が経鼻胃管からPEGへと進歩したのと同様に,経腸栄養剤の形状も液体から半固形へと発想を切り換える時期に来ているのではないのだろうか.

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