内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天
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固形化経腸栄養剤の投与により血糖管理が容易になった1例
赤津裕康*,鈴木裕介**,蟹江治郎***
* 医療法人さわらび会福祉村病院 内科
** 名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学発育加齢医学講座
*** ふきあげ内科胃腸科クリニック
日本老年医学会雑誌 2005; 42: 564-566.

和文要約
 症例は60才男性.脳梗塞による寝たきり状態で,胃瘻による経管栄養管理を受けていた.本症例は来院時より継続する難治性下痢,胃瘻周囲からの栄養剤漏れがあり,頻回の喀痰吸引を必要とした.そのため,各症状の緩和のために,粉末寒天により固形化した経腸栄養剤投与を開始したところ,下痢や栄養剤漏れが消失するとともに喀痰吸引の頻度も低下した.また糖尿病に罹患していたため,栄養剤投与後の血糖値も高値であったが,液状経腸栄養剤に比して固形化経腸栄養剤では,血糖値のピークは遅くなり最高値も低下した.またIRI値も固形化経腸栄養剤の方がピークは遅く数値も低くなった.固形化経腸栄養投与法の利点として,血糖コントロールを容易とする効果もあることが示唆された.
 
緒 言
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)は、安全かつ有効な栄養投与法であり,特に高齢者の経管栄養適応症例に対して積極的に行われている.しかしPEGは経鼻胃管にはない瘻孔周囲炎等の合併症が起こる事も報告されている.近年PEGにおけるこれらの合併症軽減を目的とし,液状経腸栄養剤を寒天で固形化した“固形化経腸栄養剤”を注入する新しい経腸栄養投与法が報告され普及しつつある(1).
今回我々は,経腸栄養剤を固形化することにより,液状経腸栄養剤の投与中にみられた下痢および胃瘻周囲からの栄養剤漏れが消失したので報告する.
 
症 例
患 者:60歳,男性.
主 訴:食後高血糖,難治性下痢,胃瘻周囲の栄養剤リーク,喀痰増加
既往歴:58歳 右中大脳動脈動脈瘤
家族歴:父が脳血管障害で半身麻痺
現病歴:45歳時に糖尿病を指摘され,近医への通院を開始するも自己判断で中断した.平成14年1月に脳梗塞を発症して半身麻痺になった.平成15年には脳梗塞が再発し,長期経管栄養の適応となったため同年10月にPEGが造設された.平成16年3月から下痢症状は継続した.投与栄養剤および投与方法の検討は前医にて行われていたが、難渋する下痢の改善は見られなかった.しかし全身状態が安定したため同年9月1日に当院へ転院となった.
入院時現症:身長163cm, 体重47.1kg、血圧170/94mmHg,脈拍84/分.要介護度は5で,言語による意思の疎通は不能,四肢拘縮を認め,身体障害度はC2であった.入院時の血糖値は153mg/dl,HbA1cは5.8%であった.
入院後経過:経腸栄養剤としては前医からの情報を元に半消化体栄養剤(ラコールR)600mlに白湯100mlを加えて計700mlとし,院内プロトコールに従って700mlづつ一日2回,4時と16時に3時間かけて注入した.すでに投与量、投与栄養剤の検討は前医にて行われていたが、難渋する下痢の改善が見られないとの情報を得ていた。入院時より一日2〜3行の水様ないし泥状の下痢便であったが,便培養で病原菌は検出されずC. difficile抗原も陰性であった.原因精査を行うも下痢の原因を明らかにすることが出来なかったため,液状経腸栄養剤による合併症と考えて,ポリカルボフィルカルシウム1.2gおよび塩酸ロペラミドによる対症療法を行ったが,下痢症状の改善はみられなかった.また胃瘻周囲からの栄養剤の漏出と,頻回の喀痰排泄も認め不安定な状態が持続した.そのため,これらの問題点に対する対策として,寒天による経腸栄養剤の固形化を導入した.固形化経腸栄養剤の注入開始時刻は液状経腸栄養剤注入時と同じとしたが,1回の注入は半量ずつ1時間の間隔をあけて行った.固形化経腸栄養剤に変更後,3日目より下痢は改善し塩酸ロペラミドの与薬を中止した後も下痢症状は認めなかった.また液状経腸栄養剤の注入中にみられた頻回の喀痰排泄や,胃瘻周囲の栄養剤漏出も,固形化経腸栄養剤に変更後約1週間で消失した.また液状経腸栄養剤注入時の食後血糖値の最高値は298mg/dlであったが,固形化経腸栄養剤に変更後の食後血糖測定値は最高値が235mg/dlと低下していた(表1).また食後のIRI値も液状経腸栄養剤注入時に比較して,固形化経腸栄養剤注入時の方が低値となった.

表1 血糖値とIRIによる液体経腸栄養剤と固形化経腸栄養剤の比較

午前注入(4時開始) 午後注入(16時開始) 0時


注入前 1時間後 2時間後 注入前 1時間後 2時間後

血糖(mg/dl) 液体 88 298 287 109 271 231 151
固形 109 184 227 108 185 235 226

IRI(μU/ml) 液体 2.2 21.0 10.9 4.2 57.6 14.6 6.5
固形 2.8 9.7 13.0 3.9 18.1 14.2 13.4


方 法
  今回使用した固形化経腸栄養剤は,経腸栄養剤に市販の粉末寒天を混合して調理した.寒天は調理と硬度調節が容易で,固形化した後は体温でも溶解せず,低カロリーで食物繊維を多く含有するため固形化剤として選択した(2).今回使用した経腸栄養剤は半消化体栄養剤で,固形化にあたっては症例にとって必要な総水分量から,経腸栄養剤より摂取できる水分量を除いた水分量を寒天溶液として使用した.固形化経腸栄養剤の調理は粉末寒天と水を混合した後に加熱溶解して寒天溶液を作り,これを経腸栄養剤と混合して静置保存することによりゲル化させた.この調理により経腸栄養剤の硬度は杏仁豆腐程度の硬さとなった.注入にあったっては,症例に必要とされる量を数分かけて一括で注入し,一食分の注入量は液状経腸栄養剤の注入量と同じ700mlで1時間の間隔をあけて半量ずつ注入した.1回あたりの総投与時間は液状経腸栄養剤の3時間に対して、ほぼ半分以下となる.
 
考 察
 PEGは1980年PonskyおよびGaudererにより発表され(3)(4),経鼻胃管のみを選択肢としていた高齢者の長期経管栄養管理を改善する方法として高い評価を受けている.しかしPEGで長期管理を行う場合,経鼻胃管には無い特有の合併症がある(5).また液状経腸栄養剤は通常健常人が主として摂取する固形物に比較して流動性が高く,様々な合併症の原因となる事も報告されている(6).実際に筆者らの経験においても,PEGの合併症として栄養剤漏出,嘔吐回数の増加,そして下痢など,液状経腸栄養剤に起因した合併症は高頻度に発生し(7),本症例にもこれらの合併症を認めた.これらの液状経腸栄養剤の問題点に対する対策として,経腸栄養剤を寒天でゲル化し,重力に抗してその形態を維持する硬度にした後にシリンジなどで注入する“固形化経腸栄養投与法”が提唱され,様々な角度から評価されつつある.
 固形化経腸栄養投与法においては,通常正常人が咀嚼嚥下した後に胃内で撹拌された胃内容物と同程度の硬度を持った栄養剤を注入する.そのため胃内では液状経腸栄養剤に比較して生理的な形態であり,流動性の低下に伴う様々な恩恵が得られる(8).液状経腸栄養剤による経管栄養投与法では,胃食道逆流と下痢の合併症が良く知られているが,PEG症例においては瘻孔からの栄養剤漏れである栄養剤漏出も対応に難渋する合併症として知られている.しかし栄養剤を固形化することにより,液状経腸栄養剤の持つ様々な問題に対して対応し得ることが報告されている(9)(10).
 経腸栄養剤のゲル化にあたっては,安価,硬度調節が容易,増粘効果がない,ゲル化した後に体温で溶解しない等の理由で,寒天がゲル化剤として選択されている.寒天とは紅藻類に属する海草から抽出される自然食品で,紅藻類に含まれる粘性物質を熱水により抽出し,多くの水溶性食物繊維を含んでいる.食物繊維の持つ生理作用として,血糖上昇抑制,コレステロール低下作用,胆汁排泄促進作用などが知られており,弛緩性便秘に対する緩下作用を目的とした処方も行われている(11).しかし,糖尿病に罹患した経管栄養患者に対する寒天の血糖改善効果に関する報告はない.
 今回報告した症例はPEGによる経管栄養管理を行っている糖尿病罹患例である.本症例は空腹時血糖およびHbA1cは安定した値であったが,食後血糖の上昇は顕著であった.食後高血糖を来している症例に対して液状経腸栄養剤を注入することは,液状経腸栄養剤が固形物に比較して流動性が高いために胃内停滞時間が短くなることを考えると,食後血糖値を上昇させる可能性がある.実際,本症例では,液状経腸栄養剤は固形化栄養剤に比較して,投与時間は緩徐であるにも関らず血糖値は早い時間にピークを迎え血糖値自体も高値となった.またIRI値も同様で,液状経腸栄養剤の方のピークは早く,数値としても高値であった.この結果より寒天を用いて栄養剤のゲル化調理を行った固形化経腸栄養剤は,寒天の持つ食物繊維自体の作用とゲル化による流動性の低下により,糖尿病に罹患したPEG症例の血糖管理を改善し得る可能性があることが示唆された.さらに下痢の消失に対しても同様な理由が考えられる。
 現状では全ての経管栄養剤が液状であり,固形化経腸栄養投与法を行う際にはゲル化のための調理と代用品を利用した注入という行程が必要になる.そのため,固形化経腸栄養投与法を行う症例は限定せざるを得ず,液状経腸栄養剤による合併症である胃食道逆流,胃瘻周囲からの栄養剤漏出,下痢がある症例などがその適応といわれている(11).しかし今回の経験より,糖尿病に罹患した経管栄養症例においても固形化経腸栄養投与法の適応となる可能性があるものと考える.
 
文 献
(1) Kanie J, Suzuki Y, Akatsu H, Kuzuya M, Iguchi A: Prevention of late complications by half-solid enteral nutrients in percutaneous endoscopic gastrostomy tube feeding. Gerontology 2004; 50: 417-419.
(2) 蟹江治郎,赤津裕康,各務千鶴子:経腸栄養剤固形化によるPEG後期合併症への対策.臨床看護2003; 29: 664-670.
(3) Gauderer MW, Stellato TA. Gastrostomie: Evolution, techniques, indications and complications, Curr Prob Surg 1986; 23: 661-719.
(4) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ,Jr. Gastrostomy without laparotomy: A percutaneous technique. J Pediatrsurg 1980; 15: 872-5.
(5) 津川信彦,佐藤仁秀,佐藤正昭,横田祐介:経皮内視鏡的胃瘻造設術の長期観察106例の検討.健生病院医報 1993; 19: 23-26.
(6) 三浦眞弓:嚥下性肺炎の予防と褥瘡完治につながった経腸栄養剤固形化の取り組み.臨床老人看護2003; 10: 29-34.
(7) 蟹江治郎、河野和彦,山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性. 日老医誌 1998;35:543-547.
(8) Jiro Kanie, Yusuke Suzuki, Hiroyasu Akatsu, Hiroshi Shimokata, Takayuki Yamamoto, Akihisa Iguchi: Prevention of gastro-esophageal reflux by an application of half-solid nutrients in patients with percutaneous endoscopic gastrostomy feeding. J Am Geriatr Soc 2004; 52: 466-467.
(9) 富樫美絵,加賀山美紀,黒井綾子,佐藤幸一,吉田早苗,高橋美香子 他:粉末寒天を用いた経腸栄養剤固形化によって胃瘻瘻孔からの栄養剤漏れはコントロール可能か.第7回HEQ研究会誌2002; 34.
(10) 藤田和枝:経管栄養剤固形化による利用者のQOLの向上.コミュニティーケア2003; 10: 53-55.
(11) 蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践 - 胃瘻のイロハからよくわかる -.日総研出版,名古屋.2003,p120-140.

Better control of blood sugar with treatment using half-solid nutrients: a case report
Hiroyasu AKATSU, Takayuki YAMAMOTO*,
Yusuke SUZUKI**,
Jiro KANIE***


*Department of Internal Medicine, Fukushimura Hospital
**Department of Geriatric Meidicine, Nagoya University Graduate School of Medicine
***Section of Internal Medicine, Fukiage Clinic for Gastroenterology

We report on a 60-year old man who became bedridden after a cerebral infarction and was put on a regimen of percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) feedings. He developed such problems as intractable and prolonged diarrhea and leaking of nutrients from his gastric fistula, and also required frequent aspiration of his sputum. We then began treatment using half-solid nutrients. As a result, the diarrhea and leakage disappeared and the number of aspirations performed decreased. This patient has diabetes mellitus, with a high blood sugar level after feeding. After using half-solid nutrients, the peak became lower and appeared later, which is the same pattern seen with immuno-reactive insulin (IRI). This suggests that half-solid nutrients are useful in terms of blood sugar control.

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固形化経腸栄養剤の投与により胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例