内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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特集:PEGの今とこれから
栄養投与の工夫  〜 固形化栄養の知識 〜
蟹江治郎*,鈴木裕介**
* ふきあげ内科胃腸科クリニック
** 名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学発育加齢医学講座
消化器内視鏡,東京医学社,東京. 2008;20(1):65-70.

要 旨
 通常,我々が摂取する食物は固形物である.一方で経管栄養症例においては,かつて主流であった経鼻胃管からの滴下注入を可能とするため,栄養剤は液体となっている.しかし液体は固形物に比較して流動性が高いため,胃食道逆流,下痢,瘻孔からの栄養剤リークの原因となる.これらの問題を克服するため,栄養剤をより生理的な物性とするため行われているのが固形化栄養投与法である.固形化栄養とは栄養剤を寒天などでゲル化し“重力に抗してその形態が保たれる硬さとしたもの”としたものである.PEGにより経管栄養を受けている症例は,PEGのカテーテルが経鼻胃管のものに比較して太くて短いことから,ある程度固めた状態でも注入が可能である.この固形化栄養投与法により,液体栄養の流動性による合併症に対し一定の効果があるのみならず,短時間の注入が可能であることから,投与症例のQOLの改善に対しても効果が得られる.
Key words:経皮内視鏡的胃瘻造設術,固形化栄養,合併症予防

はじめに
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy、PEG)は1980年PonskyおよびGaudererらにより報告され(1),長期経管栄養症例に対し多くの利点をもつ事から(2)(3)(4),従来使用されていた経鼻胃管に代わり普及しつつある.一方,経管栄養投与法で使用される栄養剤については,従来経鼻胃管で利用されていた液体の経腸栄養剤が,現在でも主流の性状となっている.栄養剤が液体である利点としては経鼻胃管からの滴下注入が可能であることだが,液体は従来経口摂取している食物に比較して流動性が高いため様々な問題の原因となっている.PEGの場合においては,使用されるカテーテルが経鼻胃管に比較して太く短いため,ゲル化(流動性を無くして固化した状態)した栄養剤の注入が可能であり,使用する栄養剤は液体である必要がない.
 本稿ではPEGから投与が可能である固形化栄養について,その目的,効果,方法について記述する.

T 固形化栄養とは
1.液体経腸栄養の問題点
 通常我々が摂取する食物は固形物であり,それを咀嚼嚥下することにより胃内へ流入する.胃はその内容物を一定期間胃内に留めつつ,徐々に小腸へ移送する生理作用がある.この役割を果たすため,胃内容物は噴門により胃食道逆流を防ぎ,幽門により内容物の通過を調節している.つまり胃は,その入口と出口に噴門と幽門といった生理的狭窄部位があり内容物が保持される.しかし液体のみによる栄養摂取は,生体が食物を咀嚼嚥下した胃内容物に比較して流動性が高く,これらの生理的狭窄部位を容易に通過することになる.結果として液体経腸栄養による経管栄養投与法は,胃食道逆流や下痢の原因の一つとなるものと考える.またPEG症例においては,瘻孔部分の通過性が亢進することにより栄養剤リークの原因ともなる(5).

図1 液体経腸栄養の問題点

蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より転載
 
2.PEG長期管理で経験する合併症と液体栄養の関連
 PEGの長期管理を行う上では様々な合併症を経験する.NPO法人であるPEGドクターズネットワーク(http://www.peg.or.jp/)によるアンケートでは,長期管理を行う上で発生する合併症として,図2の頻度で合併症の報告がなされている(6).この結果において液体栄養に関連した合併症としては,嘔吐・胃食道逆流,栄養剤リーク,下痢,誤嚥性肺炎があり,頻度としては上位4項目となっている.また筆者の経験においても,瘻孔完成後に発生する合併症として栄養剤リーク,嘔吐は頻度の高い合併症であった(7).(表1) 以上よりPEG長期管理において,液体栄養に関連した合併症は最も頻度の高い合併症であり,PEG管理を行う医療従事者としては,これらの問題を熟知の上で対応することが必要である.

表1  術後後期合併症の頻度 (n=651)

栄養剤リーク 20例
嘔吐回数増加 14例
再挿入不能 14例
胃潰瘍 8例
チューブ誤挿入 5例
バンパー埋没症候群 2例
幽門通過障害 2例
胃-結腸瘻 1例

計 66例(10.1%)


図2術後後期合併症で経験したPEGトラブル
3.固形化栄養の定義
 筆者は栄養剤のゲル化を行うにあたり,その栄養剤がPEGより容易に注入が可能であり,かつ注入後の胃内において咀嚼嚥下した食物と同等の状態になることを目標とした(図3ab).その効果を得るため単に粘度を増して流動性を失わせるのみでは不充分と考えた.そして
固形化経腸栄養の定義として栄養剤をゲル化し“重力に抗してその形態が保たれる硬さとしたものとし臨床的評価を行っている.実際の調理にあたっては寒天を利用しゲル化を行っており,これによりゲル化した栄養剤は,付着性が乏しいことからPEGカテーテルからの注入が容易であり,注入後は胃内残渣と同様の性状となり生理的な状態が得られるものと考えている.

図3 固形化栄養の外観
調理後はプリン状の形態となり(a), 注入後は胃内容物に近似した物性となる(b)
4.固形化栄養の効果(図4)
 固形化栄養の特徴は,栄養剤のゲル化に伴う流動性の適正化に伴い噴門,幽門,そして瘻孔部の通過性を低下させることである.噴門の通過性が低下すれば,胃食道逆流が減少し,嚥下性肺炎や嘔吐の減少する.幽門の通過性が低下すれば,栄養剤の胃内停滞時間が延長することにより,下痢や食後高血糖の改善が得られる(8).瘻孔通過性が低下すれば,瘻孔自然拡張に伴う栄養剤リークの症例において,症状の改善が期待できる(9)(10).
 液体経腸栄養剤においては嘔吐を防止する目的で30度ないしは90度のギャジアップを行い,嘔吐下痢の防止のために緩徐な速度で滴下注入を行う.一方,栄養剤のゲル化により嘔吐や下痢の防止が可能ならば,栄養剤は数分間かけ一括注入することが可能となる.これにより座位保持も不要になるため体位交換の継続が可能になり褥瘡の予防ないし改善に効果が期待でき,また見守り時間の短縮により介護者の負担が軽減する(11)(12).
図4 固形化栄養の特徴


蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より改変し転載

U 固形化経腸栄養投与法の実際
1.栄養剤固形化で使用する寒天の特徴
 栄養剤の固形化栄養の調理を行うにあたり,入手が容易で安全な食品であり付着性も増さないなどの観点から,筆者は寒天が最良の選択と考え報告している(表2).日常調理において固形化栄養の定義であるプリン状の形態が得られる食品としてゼラチンが知られている.しかし,ゼラチンは体温で溶解してしまうため,注入後は溶解して液体となり固形化栄養としてのゲル化剤としては不適切である.一方,寒天は室温で固形化し体温で溶解しないため,ゲル化剤として適切なものと考える.
寒天の他の特徴として,付着性を増さずにゲル化を得られる物性があげられる.注入する栄養剤の付着性を増すことは,PEGカテーテル内への付着が増すことにより注入抵抗が増加し,注入に要する労力が増すことになる.また付着性が増すとは,仮に胃食道逆流が発生して誤嚥した場合には,その高い付着性により気道からの喀出が困難となる.一方,寒天は付着性に乏しいため,胃瘻からの注入が容易で安全なゲル化剤と考えられる.

表2 ゲル化剤として必要な条件

  ● 安全な食品であること   ● 安価であること  
  ● 入手が容易であること   ● 調理が容易であること  
   ● 低カロリーであること   ● 硬度調節が容易であること   
  ● 付着性をまさないこと   ● 体温で溶解しないこと  

蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践,第1版,日総研出版,名古屋,2004,P122より改変し転載

2.固形化栄養調理の実際(図5)

 経管栄養投与法においては,症例が必要とする水分量とカロリーを計算し,それに適合した投与計画をたてる必要がある.現在ある経腸栄養剤は1mlあたり1Kcal以上の濃度となっているが,その濃度において必要水分量およびカロリーの計算を行った場合,栄養剤の量に同量程度ないしはそれ以上の水分量を補う必要がある.固形化栄養の調理を行うにあたっては,この補水に寒天を溶解して寒天溶液とし,それを栄養剤と混合することによりゲル化を行う.これにより全ての栄養剤と水分を固形化して注入を行うことが可能になり,別途水分の補給は必要なくなる.固形化栄養における適切な固さとしてはプリン程度が適当であり,そのゲル化に必要な寒天は注入する全水分量の0.5%程度(注入量が500mlの場合は粉末寒天2.5g)が目安である.
 固形化栄養の調理にあたっては,使用する栄養剤を人肌程度に加温したのち,ボールなどの容器に入れ寒天溶解液との混合が行えるよう準備をしておく.次に寒天溶解液の調理を行うが,これにはまず補水として利用する水に寒天を入れて撹拌して馴染ませ,その後加熱し2分間の煮沸ののち溶解を行う.そして寒天溶解液と栄養剤を混合し,注入容器に充填し室温にて静置すれば調理は完了となる.(図5)

図5 固形化栄養調理の実際
@ 栄養剤を加温 A ボールなどに
栄養剤を注ぐ
B 水に寒天を入れ撹拌 C 加熱して寒天を溶解
D 寒天溶液と栄養剤を混合 E シリンジに    
経腸栄養剤を吸引
F 口の部分をラップで封印 G 静置して凝固
蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践,第1版,日総研出版,名古屋,2004,P122より改変し転載
3.固形化栄養注入の実際(図6)
 注入にあたっては,まず固形化栄養の入った注射器をPEGカテーテルに接続する.注入時には接続部を手で把持しつつ注入し,注入の圧力で接続が外れないように注意する.1回の注入量は500ml程度が目安であり,これを数分かけて注入し注入後は少量の空気でフラッシュを行う.本法では必要となる水分は寒天溶液として固形化して注入するため別途水分の注入は不要である.ただ薬剤に関しては調理による加熱で成分の変化する可能性が否定できないため,調理は行わず簡易懸濁法にて注入を行う.

図6 固形化栄養剤投与の実際

V 調理を必要としない市販固形化栄養
1.寒天調理を行うための問題点
 液体経腸栄養剤の寒天を用いた固形化調理は,栄養剤の種類を問わず簡便に実施が可能である.しかし,施設によっては栄養科業務に労働力としての余裕がない場合もあり,調理が実施出来ない場合は固形化栄養投与法を実施することは出来ない.その様な場合,かつては寒天で固形化した栄養剤がなかったため固形化栄養投与法を行えなかったが,近年,あらかじめ固形化した栄養剤が市販され入手が可能になったため,調理が行えない施設においても,その実施が可能になった.
2.寒天を用いた市販固形化栄養
 大塚製薬工場から市販されているハイネゼリーRは,寒天で固形化した経腸栄養である.この製品には経口摂取用キャップが付属されているが,この部品を利用してPEGカテーテルと接続し,PEGからの注入が可能である.独自に固形化調理を行うときのように注射器も必要とせず,容器を握るだけで簡便に注入が可能である.ただし本製品の場合,1パック300Kcalの中に含まれる水分は228mlとなり別途水分補給は必要となる.そのため水分に関しては,本製品の注入後に滴下注入するか,滴下注入により液体経腸の問題点が出る場合は,寒天で固形化した水分を注入するか,ゲル化した水分であるアクアゲルRの注入を行う.

図7 市販固形化栄養のハイネゼリー

 
おわりに
 人間は本来,固形物を主体として栄養分の摂取を行っている.一方,経管栄養患者においては,かつて主として行われていた経鼻胃管からの投与を可能にするため,液体のみによる栄養投与を行っている.しかし,経管栄養を受ける症例の多くは高齢で衰弱したハイリスク症例が多く,その様な症例に対して液体のみによる栄養補給を行うこという非生理的栄養補給は,様々な合併症の発症と関連する事となっている.経管栄養管理を行う医療従事者においては“経腸栄養剤=液体”という非常識な常識に対し,疑問を感じるべき時期に来たのではないのかと筆者は考える.
文 献
(1) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ Jr. Gastrostomy without laparotomy: A percutaneous technique. J Pediatrsurg. 15:872-875, 1980
(2) Ponsky JL, Gauderer MW, Stellato TA. Percutaneous endoscopic gastrostomy. Review of 150 cases.Arch Surg. 118:913-914,1983
(3) Thatcher BS, Ferguson DR, Paradis K. Percutaneous endoscopic gastrostomy: a preferred method of feeding tube gastrostomy. Am J Gastroenterol 79:748-750,1984
(4) Larson DE, Burton DD, Schroeder KW, DiMagno EP. Percutaneous endoscopic gastrostomy. Indications, success, complications, and mortality in 314 consecutive patients. Gastroenterology. 93:48-52, 1987
(5) 蟹江治郎:PEG管理の新しいアプローチ@固形化経腸栄養剤の効果.蟹江治郎著:胃瘻PEGハンドブック,第一版,117-122,医学書院,東京,2002
(6) NPO法人PEGドクターズネットワーク:術後合併症の実態.固形化栄養とクリニカルパスに関する全国調査,5-7,NPO法人PDN,東京,2006
(7) 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討 ― 胃瘻造設10年の施行症例より ―,日本消化器内視鏡学会雑誌,45:1267-72,2003
(8) 赤津裕康,鈴木裕介,蟹江治郎:固形化経腸栄養剤の投与により血糖管理が容易になった1例,日本老年医学会雑誌,42: 564-566,2005
(9) 田代勝文,東口高志,武田悠子ほか:固形化栄養剤の消化管内形状変化と移行に関する研究 ―ラットを用いた基礎的検討―,静脈経腸栄養,21:115-124,2006
(10) 富樫美絵,加賀山美紀,黒井綾子ほか:粉末寒天を用いた経腸栄養剤固形化によって胃瘻瘻孔からの栄養剤漏れはコントロール可能か.第7回HEQ研究会誌:34,2002
(11) 藤田和枝:経管栄養剤固形化による利用者のQOLの向上,コミュニティーケア,10:53-55,2003
(12) 三浦眞弓:嚥下性肺炎の予防と褥瘡完治につながった経腸栄養剤固形化の取り組み,臨床老人看護10:29-34,2003

Nobel type of enteral feeding
− Basic knowledge of solidified nutrients −
Jiro Kanie* Yusuke Suzuki**
* Section of Internal Medicine, Fukiage Clinic for Gastroenterology
** Department of Geriatrics, Medicine in Growth and Aging, Program in Health and Community Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine
Key words:Percutaneous endoscopic gastrostomy, Semi-solidified nutrients , Prevention of complications

Summary
We normally eat food in solid state. In nasogastric tube feeding, liquid nutrients are administered. However the administration of liquid nutrients via percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) tubes are often accompanied by complications such as gastro-esophageal reflux, diarrhea, leakage of the nutrients due to high fluidity compared with solid nutrients. Solidified nutrients are introduced in order to administer nutrients in physiological state with fewer complications. Solidified nutrients are prepared using solidifying ingredients such as agar to an extent that nutrients can maintain their viscosity enough to resist gravity. The tubing used for PEG feeding is shorter and its diameter is larger compared with the one used in nasogastric tube feeding, thus it enables semi-solidified nutrients to be administered. This method of solidifying nutrients not only contribute to the reduction of possible complications expected to occur by the use of liquid nutrients, but also may help improve patients quality of life by reducing time of administration.

Legends to Figures and Tables
Fig 1 Problems identified in liquid nutrient feeding
Fig 2 Late complications experienced after the placement of PEG
Fig 3 Solidified nutrient
Fig 4 Characteristics of solidified nutrient
Fig 5 Preparation of solidified nutrient
Fig 6 Administration of solidified nutrient
Fig 7 Market-available solidified nutrient
Table 1 Frequencies of late complications after the placement of PEG
Table 2 Requisites for solidifying agents

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