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連載:高齢者の栄養管理とPEG |
第三回 PEG後期合併症の対応と予防 |
ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
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臨床老年看護 2004; 11(3): 111-118. |
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T.はじめに |
経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic
Gastrostomy、以下PEG)は,瘻孔が完成する前と完成した後では,チューブ挿入部の状態が異なるため発生する合併症も異なってくる.瘻孔完成前に発生する合併症は前期合併症,瘻孔が完成する後の合併症は後期合併症と呼ばれ(1)(2),その内容は多岐にわたる(表1).本稿においては後期合併症の代表的なものについて,その発生原因と対応を記し,それらの合併症を予防しうるPEG管理の方法を述べたい. |
表1 PEG合併症の種類
前期合併症 (瘻孔完成前合併症) |
後期合併症
(瘻孔完成後合併症) |
感染に関連 |
感染に関連しない |
1)創部感染症
2)嚥下性呼吸器感染症(肺炎等)
3)汎発性腹膜炎
4)限局性腹膜炎
5)壊死性筋膜炎
6)敗血症 |
1)創部出血
2)再挿入不能
3)事故抜去
4)バルーン破裂
5)皮下気腫
6)チューブ閉塞
7)胃潰瘍 |
1)嘔吐回数増加
2)再挿入不能
3)チューブ誤挿入
4)事故抜去
5)胃潰瘍
6)栄養剤リーク(栄養剤漏れ)
7)バンパー埋没症候群
8)チューブ閉塞
9)挿入部不良肉芽形成
10)カンジダ性皮膚炎
11)体外固定板接触による皮膚障害
12)胃内固定板による胃腸通過障害
13)胃-結腸瘻 |
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U.後期合併症の頻度 |
後期合併症の頻度について,著者が日本消化器内視鏡学会誌に報告した結果を表2に示す.651名に対しての検討において,後期合併症の頻度は10.1%で栄養剤リークが最も多く,次いで嘔吐回数の増加,再挿入不能を高頻度に認めた.また経鼻胃管には無い合併症として,バンパー埋没症候群,幽門通過障害,胃-結腸瘻なども経験した(3). |
表2 後期合併症の頻度(n=651)
栄養剤リーク |
20例 |
嘔吐回数増加 |
14例 |
再挿入不能 |
14例 |
胃潰瘍 |
8例 |
チューブ誤挿入 |
5例 |
バンパー埋没症候群 |
2例 |
幽門通過障害 |
2例 |
胃-結腸瘻 |
1例 |
計 66例(10.1%) |
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V.術後後期合併症の原因と対処 |
1.栄養剤リーク(図1)
a)発生原因
体外固定板と胃内固定板の間隔がせまく固定板による圧迫が強いと,瘻孔部の血行障害を生じ,チューブ貫通部の組織が脆弱化して瘻孔の拡大が起こり,胃内容物のリークの原因となる.またこの様な不適切な固定板管理が継続すると,バンパー埋没症候群の原因ともなるので注意が必要である.しかし,この様な不適切な固定板管理が無くても,瘻孔の経年的変化による自然拡張に伴い栄養剤リークを生じることもある.
b)症状
症状はチューブ挿入部からの栄養剤の漏出である.漏出液が多いと瘻孔周囲の皮膚が刺激によりビラン状態になり,適切な処置を行わないと感染も合併して難治化する.
c)対処法
小川の報告では(4),栄養剤の粘度増強ならびに固形化による対処が最も推奨される方法とされている(表3).また漏出液の刺激による皮膚炎の予防と適切なチューブ固定を目的に“こより”状にしたティッシュぺーパーを利用した対処も推奨されている.これは,こより状に巻いたティッシュを体表面に接する位置で鉢巻き状に結紮する方法で,ガーゼ保護に比較して吸水性が良いため,漏出液による皮膚刺激を最小限に防げる.また,この処置によりPEGチューブは体表面に対して垂直な位置が確保できるため,チューブが斜めに倒れることによる瘻孔への無用な圧迫が回避できる(図2).なお漏出液による皮膚炎が生じた際は,1日数回流水清拭を行い清潔を保つ様にする.ポピドンヨードなどによる消毒は,ビラン部の治癒機転を遅らせるため行ってはならない.
d)予防法
固定板による圧迫が生じないよう,体外固定板は体表面より1〜2cm離れた位置に固定する.また着衣などによりチューブが倒れて斜めになり,瘻孔に圧迫が加わることもあるので,チューブの位置に関しても充分な観察が必要である. |
図1 瘻孔からの栄養剤リーク
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図2 こより状ティッシュによる栄養剤リークへの対応
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表3 栄養剤リークへの対処
(小川滋彦.在宅PEG管理の全て 4.PEGのスキンケアA.日本醫事新報No4122,49-52.より)
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◎ |
1.栄養剤の粘度増強・固形化 |
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○ |
2.いったん抜去し,瘻孔の縮小を待って再挿入 |
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△ |
3.PEGカテーテルを腹壁に対して垂直に立てておく |
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△ |
4.PEGカテーテルのタイプを変更 |
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△ |
5.胃瘻部を縫縮 |
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× |
6.PEGカテーテル経のサイズアップ |
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×× |
7.バンパー(外部ストッパー)を締めつける |
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◎ :推奨される方法
○ :一応推奨されるが,注意が必要
△ :試してみてもよいが,効果不明
× :なるべく避けるべき方法
××:絶対に行うべきではない方法 |
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2.嘔吐・胃食道逆流
a)発生原因
症例の状態によりその原因は多岐にわたるが,PEGの瘻孔により胃壁の運動が制限され,胃排出能の低下による嘔吐の機序も報告されている(6).また液体経腸栄養剤の場合,固形物に比較して胃食道逆流を起こしやすく嘔吐の原因となりうる(7).
b)症状
胃食道逆流は嘔吐のみならず,嚥下性呼吸器感染症の原因となることもある.またPEG注入時の苦悶症状や栄養剤の流涎も胃食道逆流を示唆する所見である.
c)対処法
胃食道逆流は“良くある事”で済まさず器質性疾患の鑑別が重要である.器質的疾患が否定できた後に嘔吐が続く場合は,経腸栄養剤の注入が早すぎないか,注入時の坐位が保持できているかの確認を行う.それらに問題点がない場合は,経腸栄養剤の固形化や消化管機能改善剤の与薬を行う.これらの対処で改善が得られない場合は,PEGによる栄養剤注入が困難と考えられ,経胃瘻的空腸栄養チューブや空腸瘻への変更を考慮する(8).
d)予防法
経腸栄養剤注入時は30度ないし90度の角度で座位を保ち,胃食道逆流の予防を行うようにする.また経腸栄養剤は1時間当たり200ml程度の速度で注入することが推奨されている.この速度でも嘔吐が発生する場合はポンプを利用した24時間持続注入で嘔吐を防止する場合もある. |
3.事故抜去
a)発生原因
自己または他者によりチューブが牽引されると事故抜去が発生することがある.また胃内固定板がバルーン式のPEGチューブの場合,バルーンの破裂や虚脱などにより事故抜去が発生することもある.
b)症状
瘻孔が完成した後の事故抜去そのものは無症状である.しかし事故抜去の状態で放置すると,瘻孔の狭窄機転が働きチューブの挿入が不可能になるので注意が必要である.
c)対処法
チューブ交換が不能になる前に,速やかなチューブの挿入を行う必要がある.瘻孔の狭窄によりPEGチューブの挿入が不可能な場合は,挿入が容易な尿道用カテーテルや経鼻胃管を一時的な代用品として挿入し,瘻孔を確保した後にダイレーターなどで瘻孔を拡張しPEGチューブの挿入を試みる.
d)予防法
胃内固定板がバルーン式の場合,チューブの交換が容易である反面,バルーン破裂やバルーン虚脱による事故抜去の頻度が多くなる.バルーンは構造上自然抜水が必ずあり経時的に含水量が減少する.そのためバルーン型を利用する際は1〜2週間に一度程度の間隔で水の量を確認し,水分量および破裂の有無をチェックする必要がある.一方,胃内固定板がバンパー式の場合においても,不意な牽引により事故抜去は生じうるので,不穏状態の症例などは腹巻きなどでチューブを保護するか,ボタン型チューブの使用を考慮する. |
4.胃潰瘍
a)発生原因
胃の内容物が少なく虚脱した状態において,PEGチューブはその先端部が胃後壁に接する事になる.このPEGチューブの接触は胃壁への圧迫を意味し,尿道用チューブなど胃内固定板からチューブの突出部分が長いチューブにおいては,接触が鋭利になり潰瘍の発生原因となる(図3).
b)症状
胃潰瘍の症状は一般的には胃痛である.しかしPEGの対象となる症例は,痴呆や脳梗塞後遺症などにより自覚症状を訴え難い場合も多くみられる.そのため自覚症状なしに下血や貧血など重症化した状態で発症する場合が少なくなく注意が必要である.
c)対処法
抗潰瘍剤の与薬を行い,必要により内視鏡的止血術を追加する.筆者の報告では(9),胃内固定板からチューブの突出部分が4mm未満のチューブと5mm以上のチューブを比較した場合,後者の突出部分が大きいチューブにおいて高頻度に潰瘍の発生を認めた(表4).挿入されているチューブが,この突出の長い型の場合は薬物治療だけではなく,潰瘍を起こしにくいチューブへの交換を必ず行う.
d)予防法
胃潰瘍を起こしやすい群に属するチューブを使用しないことが最も重要な予防法である.この群に属する代表的なチューブは尿道用カテーテルである.またPEG専用チューブの中でも胃潰瘍の発生の危険性が高い製品があり,予め使用を避けることが肝要である. |
図3 PEGチューブによる胃潰瘍
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表4 胃内固定板からのチューブ突出の有無による胃潰瘍発生の頻度
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5.バンパー埋没症候群
a)発生原因
PEGチューブにおけるバンパーとは胃内または体外固定板を意味する.バンパー埋没症候群とは胃内固定板が胃腹壁内へ埋没する状態で,胃内固定板と体外固定板の間隔が狭く,固定板による胃腹壁の圧迫が生じると発生する.固定板の圧迫はチューブ挿入部の血行障害を引き起こし,この状態が継続すると圧迫部分が壊死して脆弱となり,胃内固定板つまりバンンパーが胃腹壁に埋没する.埋没した状態でもなお気付かずにいると,チューブの逸脱を起こすこともある(図4).
b)症状
埋没が始まる当初は無症状であるが,胃内固定板が胃粘膜に固定されるとチューブの自由な動きは無くなる事になる.その後,チューブ先端の栄養剤注入口の埋没が始まると,注入が行い難くなり栄養剤リークも生じる.その状態でなお診断が遅れると,胃内固定板の埋没が進行し体表面からも胃内固定板の目視が可能になり,最後にチューブが逸脱する.
c)対処法
埋没が軽度の場合は,経皮的抜去が可能である.しかし通常の方法での経皮的抜去が困難な場合は,小切開手術により摘出を行わざるを得ない事例もある.何れの方法で抜去を行ったとしても,既存の瘻孔は瘻孔拡張により使用不可能の状態に陥る事となる.
d)予防法
胃瘻造設直後は胃壁と腹壁の密着を保つため,体外固定板は皮膚に密着した状態にする必要がある.しかし瘻孔完成後も漫然とこの位置での固定を続けると,チューブ挿入部の血行障害を起こしバンパー埋没症候群の原因となる.瘻孔完成後は体外固定板が体表面から2cm程度浮いた位置に保持し,胃内固定板との距離を充分保つことにより血行障害を防止する.また瘻孔完成後は固定板の圧迫回避を確認するために,定期的にチューブを回転するようにする.自由なチュ−ブの回転が得られれば固定板による圧迫を否定できるし,回転が得られなければ固定板による圧迫があることの証明になり適切な対処が必要になる. |
図4 バンパー埋没症候群の発生機序
(蟹江治郎:バンパー埋没症候群,胃瘻PEGハンドブック,第1版,東京,医学書院,55-57,2002.より一部改変) |
6.チューブ位置異常
a)発生原因
チューブ位置異常とは胃内固定板が食物と同様に蠕動運動により移動し,その位置が本来の位置ではない幽門ないし十二指腸に移動することをいう.PEGチューブは蠕動運動によるチューブの移動を防止する目的で体外固定板が装着されている.しかし体外固定板のチューブ保持力を上回る蠕動が生じたり,尿道用カテーテルなど体外固定板の装着されていないチューブを代用すると位置異常が発生する.
b)症状
症状としてはチューブにより発生する通過障害と,チューブ圧迫による胃潰瘍の発生がある.通過障害には胃内固定板の幽門ないし十二指腸での消化管通過障害と,胃内固定板の乳頭部圧迫による閉塞性黄疸がおこる.また胃潰瘍はチューブが胃の屈曲部である胃角部に接触して血流障害を生じ,同部に帯状の潰瘍を生じる(図5).
c)対処法
チューブを牽引することにより正常な位置に戻し,体外固定板の位置を適切な位置に移動させるようにする.胃内固定板がバルーン式で先端が十二指腸に嵌頓している場合は,牽引のみでは簡単に脱出が得られないこともある.バルーン式の場合は一度水を抜いてバルーンを萎め,正常な位置に戻した後に注水すると良い.
d)予防法
PEGチューブには必ず目盛りがあり,この目盛りの位置を随時確認することが重要である.尿道用カテーテルはPEGチューブに比較して安価であり,PEGチューブの代用品として使用される事例が散見される.しかし尿道用カテーテルは体外固定板がないことによりチューブ位置異常を生じやすい.更に胃潰瘍発生の危険度が高いチューブであり,栄養剤注入口のフタもなく,胃瘻栄養を行うチューブとして不適切であり使用を避けるようにする. |
図5 チューブ位置異常でみられる症状
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W.おわりに |
連載第2回および本稿ではPEGの術後に発生する合併症について述べた.そもそも合併症とは“ある病気に関連して起こった病気”を指す.しかしPEGにおける術後合併症の中には,不適切なチューブの使用で発生する胃潰瘍や,不充分な管理のため発生するバンパー埋没症候群などあり,これらの問題を合併症として考えるのは個人的には違和感を感じる.すでに述べたように,胃瘻造設後に発生する問題点には,やむを得ない偶発症と不適切な管理で発症する医源性のものがある.そのためPEGの管理を行う医療従事者は,すべての問題を仕方ないことと短絡的に考えず,まずは問題の発生原因を自ら起こさぬよう,充分な知識と細心の注意を欠かしてはならない. |
引用・参考文献 |
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