内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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PEGの適応,造設法,合併症管理 
ふきあげ内科胃腸科クリニック   蟹江治郎
第24回消化器内視鏡学会当会セミナー 抄録 75-81
  
はじめに
 胃瘻とは,胃内と体外を結ぶ管腔状の交通路(瘻孔)である.胃瘻の造設は当初は開腹的に行われていたが,1980年PonskyとGaudererにより内視鏡的に造設を行う経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy,以下PEG)が報告され(1),本邦においてもUenoらにより,独自の造設法も報告されている(2).栄養投与法としてのPEGは,正常な消化管機能を有し,4週間以上の生命予後が見込まれる症例に対して多くの利点を持つことから,本邦においては一般的に用いられる栄養投与法となっている.PEGは簡便に短時間で造設が可能であるが,対象となる症例が栄養状態の悪い高齢者である事が多く,造設や管理における合併症は稀ではない.本項においては,よりよいPEG管理を行うための,適応,造設法,そして合併症管理に関して解説する.

1.栄養投与法とPEGの適応
1−1) PEGの適応,栄養瘻と減圧瘻
 PEGの適応には栄養剤の投与を目的とした栄養瘻と,消化管の減圧を目的とした減圧瘻がある.栄養瘻としての適応は,脳血管障害,認知症,神経・筋疾患による摂食嚥下障害が一般的であるが,クローン病症例で,成分栄養が経口摂取できない事例においても適応となることがある.また頭頸部癌,食道癌,噴門部胃癌による咽頭から胃までの管腔に,不可逆性の狭窄が生じている症例の栄養補給路としても利用される.
減圧瘻としての適応は,癌性腹膜炎などによる非可逆的な消化管通過障害である.PEGを用いた消化管減圧は,経鼻挿入によるイレウス管に比較して,留置に伴う異物感が少なく,美容上も良く,食品の物性によっては経口摂取が可能になるなど,さまざまな利点がある.
1−2)栄養投与法におけるPEGの位置づけ
 経口摂取が困難な場合の栄養投与法には,経腸栄養法と静脈栄養法がある.経腸栄養法の利点としては,@腸管を利用した消化吸収による腸管粘膜の維持,Abacterial translocationの回避による免疫能の維持,B代謝反応の亢進の抑制,C胆汁うっ滞の回避などが挙げられる.そのため,栄養投与法の選択の大原則は,「腸管機能に問題が無いのなら経腸栄養法を利用する」である.経腸栄養投与法における経鼻胃管は,4週間以上の長期管理においては様々な問題点がある.よって経口摂取が困難な症例が,4週間以上にわたり栄養投与法が必要と見込まれる場合,腸管機能に問題が無ければ,医学的にはPEGの適応となる.

図1
 栄養管理のルートの選択

栄養管理のルートの選択
2.PEGの造設法 
2−1)PEG造設手技の基本(図2)
 PEGの造設法は,まず内視鏡を挿入して送気を行うことにより胃壁と腹壁の密着をし,用指圧迫(指サイン)や内視鏡の透過光確認(イルミネーションサイン)により穿刺部位の決定を行う.穿刺部位が決まったら同部に局所麻酔を行い,カテーテルを通過させる貫通孔を造り,経口ないしは経腹壁的に挿入して留置を行う.開腹胃瘻造設では胃瘻の瘻孔は手術手技により形成されるが,PEGの場合,造設手技によって瘻孔壁を直接形成するものではない.PEGにおける瘻孔壁は,造設手技により胃壁と腹壁を密着した後に,同部の線維性癒着をもって形成される(4).PEGにおける瘻孔が,形成されるまでの期間に関しては一定の見解はないが,カテーテル交換の力学的負荷に耐えられる状態になるには,4−6ヶ月を要するものとされている.
2−2)PEG造設手技の分類
 PEGの造設法はカテーテルの挿入経路により分類される.カテーテルを口腔咽頭を経由して挿入し,カテーテルを牽引することにより留置する方法が“Pull法”(1),カテーテルを押し入れる方法は“Push法”(5)と呼ばれる.一方,カテーテルを腹壁より挿入する方法はIntroducer法といわれ(2) (6),バルーンカテーテルを留置する方法が“Introducer原法”,バンパーカテーテルを留置する方法は“Introducer変法”として分類される(7).なお,PEGにおける「ワンステップボタン法」「オーバーチューブ法」「セルジンガー法」「ダイレクト法」という呼称は,手技の分類ではなく造設キットの「キット名」である.そのため,本邦では便宜的に通用しても国際的な論文等では通用しないため注意が必要である.

図2 PEGの造設法
@ 内視鏡を挿入する: 胃瘻の造設:内視鏡を挿入する
  通常,胃は虚脱し胃壁と腹壁は,密着していない.
A 送気により胃を緊満状態にする: 胃瘻の造設:送気により胃を緊満状態にする
  内視鏡からの送気を利用して,胃壁と腹壁を密着状態にする.症例によっては,この時点で経皮胃壁固定を行う.
B カテーテル貫通孔を造設: 胃瘻の造設:カテーテル貫通孔を造設
  体表面から胃瘻カテーテルが通過するための貫通孔を作成し,カテーテル留置の準備を行う.
C カテーテルを留置: 胃瘻の造設:カテーテルを留置
  カテーテル貫通孔を経由して,カテーテルの留置を行い,造設手技自体は完了.
※ 瘻孔は未だ完成していない
D 瘻孔が完成: 胃瘻の造設:瘻孔が完成
  胃瘻カテーテルにより胃壁と腹壁の密着状態が保持されると,カテーテル挿入部周囲に瘻孔が形成される.

図3
 PEG造設手技の分類

PEG(胃瘻)造設手技の分類

3.胃瘻カテーテルの構造と種類(図4) 
3−1)胃瘻カテーテルの構造
 胃瘻カテーテルには,その位置を正しく保持するため2つのストッパーにより位置が固定され,胃内に存在するものは「内部ストッパー」と,体外に位置するものは「外部ストッパー」と呼ばれる.内部ストッパーはカテーテルの先端である胃内腔に位置し,カテーテルの抜去を防止する役割をもつ.一方,外部ストッパーは体表面に位置し,カテーテルが胃の蠕動運動に伴って腸へ先進する事を防ぐ役割をもつ.
 

図4
 PEGカテーテルの構造

PEGカテーテルの構造   PEGカテーテルの構造
3−2)胃瘻カテーテルの種類(図5)
胃瘻カテーテルは体表面からのカテーテル突出の有無と,胃内固定板の形状により分類される.まず,体表面からのチューブ突出の有無では,体表面からカテーテルが出ているものを「チューブ型」とし,突出のないものを「ボタン型」といわれる.また,胃内ストッパーがバルーン式のものを「バルーン型」とし,バルーン出ない形状のものを「バンパー型」いわれている.これら2種類の二分類により,PEGカテーテルは計4種類に分類されている.(図5)
図5 胃瘻カテーテルの種類
胃瘻カテーテルの分類
4.PEGの合併症
3−1)胃瘻術後合併症の分類(表1)
 PEGの術後合併症分類についてFoutchらは,入院処置を必要とする合併症を“major complication”,入院処置を必要としない合併症を“minor complication”と分類し報告を行っている (8).しかし,入院適応については重症度以外の要因により決められることもあり,また国家間でも入院適応が一致しているとはいえない.そのため入院適応の有無が重症度と相関するものではなく,実情に即した分類とは言い難い.一方,小川は胃瘻チューブ挿入後,瘻孔壁が完成するまでの期間に発生する合併症と,瘻孔壁が完成した後の期間に発生する合併症の内容が異なる点に着目し,それらを分類して考察を行っている(9).そのため筆者らは,術後3週間以内の瘻孔完成前の合併症を“前期合併症”,術後4週間以後の瘻孔完成後に発生する合併症“後期合併症”として分類を行った.そして更に前期合併症については“感染性”のものと“非感染性”として分類したうえで,PEG術後に発生する合併症について報告を行っている (10).
表1 胃瘻術後合併症の分類
前期合併症 (瘻孔完成前合併症) 後期合併症
(瘻孔完成後合併症)
感染に関連 感染に関連しない
 1) 創部感染症
 2) 嚥下性呼吸器感染症(肺炎等)
 3) 汎発性腹膜炎
 4) 限局性腹膜炎
 5) 壊死性筋膜炎
 6) 敗血症
 1) 気腹
 2) 創部出血
 3) 事故抜去
 4) バルーン破裂
 5) 皮下気腫
 6) カテーテル閉塞
 7) 胃潰瘍
 
 1) 嘔吐回数増加
 2) 再挿入不能
 3) チューブ誤挿入
 4) 事故抜去
 5) 胃潰瘍
 6) 栄養剤リーク(栄養剤漏れ)
 7) バンパー埋没症候群
 8) カテーテル閉塞
 9) 挿入部不良肉芽形成
 10) カンジダ性皮膚炎
 11) 体外固定板接触による皮膚障害
 12) 胃内固定板による胃腸通過障害
 13) 胃-結腸瘻

3−2)覚えておきたい前期合併症
創部感染症:創部感染症は術後創部に発生する細菌感染である.その発生頻度は術式に関連しており,口腔咽頭を経由してカテーテルを留置するPull/Push法が,Introducer法に比較して頻度が高いとされる(11).また,胃壁固定や外部ストッパーの圧迫による胃壁腹壁の血流障害も発生誘因となる.予防策としては,Pull/Push法で造設する場合は口腔ケアの強化を行うとともに,口腔内常在菌に対応した抗生剤を選択して投与を行うべきである.
呼吸器感染症:通常観察の内視鏡は側臥位で操作を行い,口腔内の唾液を流出することにより誤嚥を回避している.一方,PEGにおける内視鏡操作は仰臥位にて施行されるため,誤嚥の発生しやすい状況となる.PEG術後の呼吸器感染症は,しばしば重篤化し致命的となり得るため,術後は腹部合併症のみならず,呼吸器感染症に関しても充分な経過観察と速やかな対応が必要である.
気腹:近年,Introducer法の普及とともに問題となっている合併症である.PEGおいては胃内に送気した状態で操作を行うが,Introducer法の場合,複数の穿刺や拡張操作が必要なため,胃内への送気が腹腔まで及ぶことがある.そのためIntroducer法においては,術中の循環動態と腹部の観察は重要であり,予防のためには胃壁固定後の拡張操作を行う際には,出来る限り胃内の脱気を行った状態で操作をすべきである.
3−3)覚えておきたい後期合併症
栄養剤リーク:栄養剤リークとは瘻孔より栄養剤などの胃内容物が漏出する状態で,後期合併症では最も頻度の高い合併症である.その発生原因としては経年的変化に伴う瘻孔の自然拡張が最も多く経験されるが,体外ストッパーによる瘻孔への圧迫が強い場合や,後述するバンパー埋没症候群の一症状として発生する場合もある.そのため栄養剤リークが発症した際は,その発生原因につき鑑別を行い,原因に応じた対処が必要となる.栄養剤リークの原因で最も頻度の高い瘻孔自然拡張について,小川の報告では(12),栄養剤の粘度増強・固形化による対処が最も推奨され,バンパーによる締め付けは絶対に行うべきではない方法とされている(表3).
嘔吐回数増加:嘔吐は経管栄養を行う上でしばしば経験される合併症であり,その原因に関しては多岐にわたるが,PEG症例においては胃壁の運動が制限され,胃排出能の低下による嘔吐の機序も報告されている(13).また経腸栄養剤が液体あるが故に,固形物に比較して胃食道逆流を起こしやすく嘔吐の原因となりうる(14).嘔吐の基礎疾患のない場合,この予防として緩徐な滴下やギャジアップ下の注入が行われているが,筆者は栄養剤を寒天により半固形化し,胃内で生理的な形態にすることにより嘔吐の予防を行っている(15).
カテーテル誤挿入:カテーテル交換時に,その先端が瘻孔壁を穿破破損し腹腔内へ挿入されることがあり,この様な状態をカテーテル誤挿入という.PEGにより造設した瘻孔壁は脆弱な膜様瘻孔であり,カテーテル交換時の力学的負荷により破壊穿破することは,希ではあるが避けることの出来ない合併症である.カテーテル誤挿入は発生時に適切な対処を行えば重大な問題は生じないが(16),誤挿入を確認せず栄養剤を注入すると汎発性腹膜炎が発生し重篤な状態になるので,厳重に注意する必要がある.この様な状態を予め察知するために重要なことは,PEGカテーテルの交換後は経鼻胃管と同様に,先端が胃内へ到達しているかの確認作業を行うことである(17).
バンパー埋没症候群:バンパー埋没症候群とは内部ストッパー(いわゆるバンパー)が胃腹壁内へ埋没する状態である.胃瘻カテーテルは抜去防止を目的とした内部ストッパーと,蠕動による移動防止を目的とした外部ストッパーにより位置が保たれている.この2つのストッパーの皮膚への密着が密になると,ストッパー同士の圧迫により血流障害が発生して組織が軟化し,圧迫に伴って内部ストッパーが埋没する(18). 本症発症の初期はチューブの回旋が不自由になり,その後チューブ先端が埋没すると栄養剤の注入が出来なくなり栄養剤リークが発生し,高度の埋没時にはチューブが逸脱することもある.本症の予防に当たっては,体外固定板を皮膚から1〜2cm程度離して管理し,瘻孔部分への血流障害を防止することである.
表3 栄養剤リークへの対処
胃瘻のおける栄養剤リークへの対処
まとめ
 PEGの適応や存在意義について,近年各種の議論が成されている.しかし,一旦PEGを選択した症例に対しては,よりよい管理を行うことが医療者の責務である.そのためPEGに係わる医療従事者は,術後早期のみならず長期にわたっても,充分な知識と細心の注意をもって,その管理にあたるべきと考える.

文 献
(1) Ponsky JL, Gauderer M. Perctaneous endoscopic gastrostomy a nonoperative technique for feeding gastrostomy. Gatrointest Endosc 1981;27:9-11.
(2) Ueno F, Kadota T. Perctaneous endoscopic gastrostomy: A simplified new technique for feeding gastrostomy. Progress of Digestive Endoscopy. 1983;23:60-62
(3) ASPEN Board of Directors : Guidelines for the use of parenteral and enteral nutrition in adult and pediatric patients.JPEN 17(suppl) : ISA-52SA.1993
(4) 嶋尾仁:胃瘻とは.嶋尾仁,編:内視鏡的胃瘻造設術 改訂第2版.p1-6,永井書店,大阪,2005
(5) Ponsky J.L. Techniques of percutaneous gastrostomy. Igaku-syoin, New York, Tokyo. 1988; p.21-51.
(6) Russell T.R., Brotman M., Norris F. Perctaneous gastrostomy : A new simplified and cost-effective technique. Am. J. Surg. 184; 132-137, 1984
(7) 倉 敏郎,小山茂樹,上野文昭,他:胃瘻造設法,胃瘻交換後の確認法に関する用語について.在宅医療と内視鏡治療,2012;14(1),91-94.
(8) Foutch PG, Woods CA, Talbert GA et al. A critical analysis of the Sacks-Vine gastrostomy tube: a review of 120 consecutive procedures. Am J Gastroenterol. 83; 812-815, 1988
(9) 小川滋彦:PEGの合併症とその対策.上野文昭,嶋尾仁,門田俊夫編:経皮内視鏡的胃瘻造設術と在宅管理.p49-55,メディカルコア,東京,1996
(10) 蟹江治郎他:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性.日本老年医学会誌 1998; 35(7): 543-547
(11) 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討 ― 胃瘻造設10年の施行症例より ―,日本消化器内視鏡学会雑誌,45:1267-72,2003
(12) 小川滋彦.在宅PEG管理の全て 4.PEGのスキンケアA.日本醫事新報 4122;49-52,2004
(13) 小川滋彦、鈴木文子、森田達志.経皮内視鏡的胃瘻造設術の長期観察における問題点・呼吸器感染症と胃排泄能に関する検討.日本消化器内視鏡学会雑誌34;2400-2408,1992
(14) Jiro Kanie et al: Prevention of gastro-esophageal reflux by an application of half-solid nutrients in patients with percutaneous endoscopic gastrostomy feeding. Journal of the American Geriatrics Society, 52(3): 466-467. 2004.
(15) 蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践 - 胃瘻のイロハからよくわかる -.日総研出版,名古屋.2003,p120-140.
(16) 蟹江治郎,赤津裕康,鈴木裕介.胃瘻チューブ交換時に生じた腹腔内誤挿入に対し外来処置のみで対処が可能であった1例,日本老年医学会雑誌 2005;42:698-701.
(17) 蟹江治郎:後期合併症の原因と対処 4.チューブ誤挿入.胃瘻PEGハンドブック,医学書院,2002,117-122.
(18) Klein S, Heare BR, Soloway RD: The "buried bumper syndrome": a complication of percutaneous endoscopic gastrostomy, Am J Gastroenterol 85; 448-451, 1990
 

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