内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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胃瘻チューブ交換時に生じた腹腔内誤挿入に対し
外来処置のみで対処が可能であった1例
 
蟹江治郎*,赤津裕康**,鈴木裕介***
* ふきあげ内科胃腸科クリニック
** 医療法人さわらび会福祉村病院 内科
*** 名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学発育加齢医学講座
日本老年医学会雑誌 2005 日本老年医学会雑誌 2005; 42: 698-701

要 約
 症例は53才男性.脊髄小脳変性症による寝たきり状態で,胃瘻による経管栄養管理を受け在宅診療を行っていた.胃瘻チューブは,かかりつけ医により在宅で定期的に交換がされていたが,定期交換時にチューブが腹腔内に誤って挿入されたため当院へ来院した.当院来院後は緊急内視鏡を行い,生検鉗子を誤挿入により穿破した瘻孔を経由して体外へ誘導し,その生検鉗子で胃瘻造設用のループワイヤーを把持して内視鏡を抜去し,Pull式胃瘻造設法に準じて胃瘻造設用チューブを経口的に挿入し留置を行った.この手技により瘻孔穿孔部は胃瘻チューブにより被覆され,胃瘻チューブによる胃内減圧も行えるため,胃内容物の腹腔への流出を回避して汎発性腹膜炎の発生を防止し得た.本例はこの処置により診療所間の連携により入院治療を行うことなく在宅診療の継続が可能であった.

緒 言
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)は、安全かつ有効な栄養投与法であり,長期嚥下障害を有する症例に対しては,経鼻胃管に比較して良い適応とされ積極的に行われている.しかしPEGは経鼻胃管には無い様々な合併症が起こる事も報告されている(1)(2).その中でもチューブ交換時に発生するPEGチューブ腹腔内誤挿入は,重篤な合併症の一つである .
 今回我々は,内視鏡操作を用いてPull式胃瘻造設用キットを,既存の瘻孔より挿入することにより,PEGチューブ腹腔内誤挿入を外来処置にて対処が可能であった症例を経験した.一般的にはPEGチューブ腹腔内誤挿入の発生時には外科的処置を要し,患者に大きな負担を生じるが,今回我々が行った方法を用いれば,場合によってはその負担を軽減し得ることも可能と考え報告する.

症 例
患 者:53歳,男性.
主 訴:PEGチューブ交換後,胃内容物の吸引が不能
既往歴:特記すべきこと無し
家族歴:特記すべきこと無し
現病歴:1995年に脊髄小脳変性症と診断をされ,1998年7月には歩行不能となった.2001年12月に意識消失発作があり心肺停止の状態で他院へ入院し,以後は気管切開を行い人工呼吸器管理となっていた.人工呼吸機管理は1ヶ月で離脱が可能であったが,経口摂取では嚥下性肺炎の反復するため,2002年3月にPEG造設を行い経管栄養管理を行った.同年5月には状態も安定し,近医にて在宅管理が開始となった.
在宅では状態は比較的安定しており,文字盤を用いた意思疎通も可能であった.しかし気管切開部からの吸引は頻回に必要であったため,2003年7月より経腸栄養剤を寒天により固形化し,吸引回数の減少して状態も改善したため,在宅での嚥下リハビリも行っていた.PEGチューブは4〜5ヶ月の間隔で定期的に在宅医により交換されており,交換後は胃内容物の確認などで挿入確認を行っていた.2003年10月20日に定期のPEGチューブ交換を行ったが,交換後に行った挿入確認で胃内容物の吸引が行えず,チューブの回転も不良なため,チューブ腹腔内誤挿入を疑い当院受診となった.
来院時現症:身長160cm, 体重42kg、血圧170/94mmHg,脈拍84/分.要介護度は5で,言語による意思の疎通は不能で身体障害度はC2であったが,認知症はなく意識状態は清明であった.腹部はチューブ挿入部のみに圧痛を認めたが,汎発性腹膜炎を示唆する全身および局所所見は認められなかった.腹腔内に誤挿入されたPEGチューブは当院からの指示により,抜去せず保持されていたが,胃内容物の吸引は不能でチューブの回転は困難であった.
来院後経過:当院来院後,緊急上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃内固定板は認められずチューブ腹腔内誤挿入であることを確認した.また胃体下部前壁に陥凹性変化も認め,瘻孔部と確認が出来た.そこで,PEGチューブ腹腔内誤挿入により穿破した瘻孔へのチューブの挿管を試みた.上部消化管内視鏡を挿入し腹腔内誤挿入の有無と瘻孔位置の確認を行い(図1a),誤挿入されたPEGチューブを抜去した(図1b).その後直ちに観察中の内視鏡から生検鉗子を瘻孔へと挿入し,先端を体表面まで導出してPull式胃瘻造設で使用するループワイヤーを把持した(図1c).チューブ誤挿入における瘻孔は破壊されているが,生検鉗子を胃壁に直交する方向で挿入を行えば,瘻孔を通じて体表面への安全な誘導が可能であった(写真1).そして生検鉗子により把持されたループワイヤーは, Pull式胃瘻造設法と同様の方法で,把持したまま内視鏡を抜去することにより口腔より体外へ誘導できた(図1d).最後にPull式胃瘻造設用チューブとループワイヤーと結び,Pull式胃瘻造設と同様に腹壁側のワイヤーを牽引した.それによりPEG造設用チューブは経口的に挿入され,穿破した瘻孔を安全に通過し留置が可能である(図1e).またチューブの留置により穿孔部はチューブにより被覆され,胃内固定板による胃壁と腹壁の密着により穿孔部の閉鎖が得られる.またPEGチューブによる胃内減圧も行えるため,胃内容物の腹腔への流出を回避して汎発性腹膜炎の発生を防止し得た(図1f).
内視鏡的治療後の経過:内視鏡終了後は帰宅し,補液および抗生剤の投与を行いつつ,かかりつけ医により汎発性腹膜炎の発症の有無を厳重に観察を行った.処置後は腹膜炎の発症もなく,PEGチューブからの排液も少量のため,処置後4日後より経腸栄養の注入を開始し問題なく経過した.

図1 上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法
上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法 上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法
図1a 誤挿入されたチューブ
 
図1d 口腔を経由したワイヤーの誘導
 
上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法 上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法
図1b PEGチューブの抜去
 
図1e PEG造設用チューブの挿入
 
上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法 上部内視鏡を用いた誤挿入症例に対するPEGチューブ挿管法
図1c 生検鉗子によるワイヤーの把持 図1f チューブの留置と穿孔部の閉鎖

写真1 瘻孔を経由した生検鉗子の導出とループワイヤーの把持
瘻孔を経由した生検鉗子の導出とループワイヤーの把持 瘻孔を経由した生検鉗子の導出とループワイヤーの把持

考 察
 PEGは1980年PonskyおよびGaudererにより報告され(3)(4),経鼻胃管が中心であった高齢者の長期経管栄養管理を改善する方法として高い評価を受けている.しかしPEGによる長期経管栄養管理を行う場合,経鼻胃管にはない特有の合併症もある(1)(2).そして今回,我々が経験した胃瘻チューブ交換時の腹腔内誤挿入もその一つである.この合併症は筆者らの報告においては,PEG症例651例中5例と比較的希な合併症である(5).しかし腹腔内誤挿入を認識せず経腸栄養剤の注入を行うと,栄養剤が腹腔内に注入され汎発性腹膜炎の原因となり問題となっている(6).また仮に注入前に腹腔内チューブ誤挿入を確認ができても,瘻孔が穿破した状態下にあり,経皮的にPEGチューブを再挿入することは,手技的に困難であるのみならず,瘻孔の損傷を拡大する恐れがある.PEGによって形成される瘻孔は,開腹胃瘻のような強固な瘻孔でなく,胃壁と腹壁の密着によって生ずる膜様瘻孔であり脆弱である事が指摘されている(7).そのため穿破した瘻孔に経皮的にチューブ挿入を行うと,瘻孔そのものが破壊され,胃壁腹壁間の癒着の剥離による胃穿孔状態となり,より重篤な状態となる危険がある.しかし,PEGチューブ腹腔内誤挿入に対応する有効な手段については報告が無く,多くの場合は開腹手術による処置がなされている.PEGの適応となる症例の多くは寝たきり状態の高齢者であり,開腹手術は健常者に比較して危険が大きい.そのため,この合併症への処置として,開腹手術に比較してより簡便で低侵襲の治療法の確立は必要性が高いものといえる.
 本症例においては,腹腔内誤挿入が疑われたPEGチューブは診断直後に抜去は行わず,内視鏡処置時に抜去を行った.これは内視鏡で腹腔内誤挿入を確実に確認してから抜去すべきであると考えたこと,安易な抜去はチューブによる瘻孔穿孔部を通じて胃内容物が腹腔に流出する危険があったこと,抜去により体表面の瘻孔が閉鎖すると今回施行した内視鏡操作が行えないことの3点からである.PEGチューブの挿入方法はPull式胃瘻造設の留置キットを用い,チューブの挿管方法もPull式胃瘻造設法と同様にチューブを結びつけたループワイヤーを牽引することにより経口的に挿入を行った.経口的挿入は胃壁を腹壁に密着する外圧がかかり,瘻孔の穿破した部分を圧迫閉鎖しつつ挿入が可能なため,経皮的に挿入を行う方法に比較して安全な留置方法であると考える.
 今回の症例で行ったチューブ挿入法とPull式胃瘻造設法との相違点は,ループワイヤーの把持方法である.Pull式胃瘻造設におけるループワイヤーは,スネアーを用い胃内で把持を行う.しかし穿破した瘻孔において経皮的にワイヤーの挿入を行うことは,ワイヤーの硬度からして困難である.また挿入が行えたとしても,ワイヤー自体を腹腔へ誤挿入する危険もある.そのため我々は生検鉗子を,胃内より瘻孔に対して逆行的に挿入を行い,体表面への誘導し体外でループワイヤーの把持を行った.生検鉗子は,通常Pull式胃瘻造設で使用するスネアーに比較して先端が平滑であり,狭小部の通過がより容易であると考え選択した.実際に生検鉗子によるループワイヤーの把持を行っても,内視鏡抜去に伴う口腔を経由した体外への誘導は容易であった.
チューブの留置後は絶食下で抗生剤の投与を行い,PEGチューブは胃内減圧用として使用した.PEGチューブ誤挿入があった場合は瘻孔穿孔部からの胃内容物の腹腔内流出を防ぐ目的で,速やかな胃内減圧が必要である.経鼻胃管に比較してPEGは,チューブ設置に伴う異物感による不穏状態が少なく(8),減圧についても同様の利点があるものと考える.今回の症例においては,チューブ再留置4日後から経腸栄養を開始し,それまでは腹膜炎の発生の有無を観察しつつ在宅で末梢静脈栄養管理を行った.今回の方法でチューブの留置を行えば,チューブによる破壊部分の被覆と,胃内固定板の胃壁牽引による胃腹壁間の密着が得られることから,穿破部は閉鎖することになる.PEG後の栄養剤注入の開始時期については,術後24時間以内に開始が可能との報告もあり(9) (10),今回のような事例においても,より早期からの静脈栄養の離脱と栄養剤注入を行える可能性がある.
 今回報告した症例ではPEGチューブ腹腔内誤挿入を,診々連携と無床診療所による内視鏡処置により,入院治療を行うことなく対処が可能であった.以上より現在,通常は外科的処置を必要とするPEGチューブ腹腔内誤挿入は,今回行った方法を用いれば,より簡便で低侵襲の方法で再留置が可能であるものと考える.

文 献
(1) Klein S et al: The "buried bumper syndrome": a complication of percutaneous endoscopic gastrostomy, Am J Gastroenterol 1990; 85: 448-451.
(2) 津川信彦,佐藤仁秀,佐藤正昭,横田祐介:経皮内視鏡的胃瘻造設術の長期観察106例の検討.健生病院医報 1993; 19: 23-26.
(3) Gauderer MW, Stellato TA. Gastrostomie: Evolution, techniques, indications and complications, Curr Prob Surg 1986; 23: 661-719.
(4) Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ,Jr. Gastrostomy without laparotomy: A percutaneous technique. J Pediatrsurg 1980; 15: 872-5.
(5) 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討 ― 胃瘻造設10年の施行症例より ―,日本消化器内視鏡学会雑誌 2003; 45: 1267-72.
(6) 蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック.医学書院,東京.2002,p60-63.
(7) 嶋尾仁 編:内視鏡的胃瘻造設術 - 手技から在宅管理まで -.永井書店,大阪.2005,p1-6.
(8) 蟹江治郎、河野和彦,山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性. 日老医誌 1998;35:543-547.
(9) Larson DE, Burton DD, Schroeder KW, Dimagno EP. Perctaneous endoscopic gastrostomy. Gastroenterology 1987; 93: 48-52.
(10) Umesh C, Christopher J, Ronald M, Narasimh G. Percutaneous endoscopic gastrosromy: a randomized prospective comparison of early and delayed feeding. Gatrointest Endosc 1996; 44: 164-7.

A case of misinsertion of the PEG tube into the abdominal cavity recovered on a referral to the outpatient by using simple endoscopy techniques.
Jiro KANIE*,
Hiroyasu AKATSU **,
Yusuke SUZUKI ***
* Section of Internal Medicine, Fukiage Clinic for Gastroenterology
** Department of Internal Medicine, Fukushimura Hospital
***Department of Geriatric Meidicine, Nagoya University Graduate School of Medicine

We report a case of a 53-year-old man, who had been bed-ridden due to the progression of spinocerebellar degeneration and had been relying on percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) feeding for long-term nutritional support at home. The patient was referred to our clinic from his local GP because of suspected misinsertion of the PEG tube into the abdominal cavity on regular exchange of the tube. We performed emergent gastric endoscopy. First we induced the biopsy forceps through an endoscopic fiber, and pulled the forceps out through the injured fistula to the surface. Then the loop wire used for PEG placement was inserted through the fistula to the stomach using the forceps. The PEG tube was then inserted per oral and replacement was completed according to the usual pull-method. This procedure enabled the replaced PEG tube to cover the perforated site as well as to reduce intragastric pressure, thereby prevented the occurrence of panperitonitis, a common severe complication expected in case of perforated fistula, caused by the leakage of intragastric contents. The patient showed no signs of complications, and could continue to receive in-home care without being admitted to the hospital for acute care.

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