内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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PEGからの経腸栄養の実際と注意点
6) 経腸栄養剤固形化の実際
ふきあげ内科胃腸科クリニック  蟹江治郎
胃瘻(PEG)栄養  フジメディカル出版,大阪,2004,p67-72

T 液体経腸栄養剤の問題点と固形化経腸栄養剤の意義
1.液体経腸栄養剤の問題点(図1)
 脳梗塞後遺症や痴呆などにより嚥下機能が障害された症例において,経管栄養投与法は一般的に広く行われる栄養補給経路となっている.経管栄養における栄養剤は,かつて広く行われていた経鼻胃管による滴下投与を可能にするため,液体の形態が常識となっている.胃は噴門と幽門という2ヶ所の生理的狭窄部位を持って,胃内容物を一定時間保持する機能がある.しかし液体は流動性が高いため,それらの狭窄部位の通過が容易となり,胃食道逆流や下痢の原因となる.また胃瘻においてはチューブ挿入部からの栄養剤漏れ(以下,栄養剤リーク)の原因にもなる(1).

図1 液体栄養剤を使用した経管栄養管理における問題点

液体栄養剤を使用した経管栄養管理における問題点
2.固形化経腸栄養剤とは何か
 筆者は固形化経腸栄養剤の定義を,栄養剤をゲル化し“重力に抗してその形態が保たれる硬さにしたもの”としている.ゲル化とは液体が流動性を失い,多少の弾性と硬さを持って固化した事を意味するが,固形化経腸栄養剤においては,栄養剤を単純にゲル化しただけではなく,液体である経管栄養剤でみられる問題点を軽減するための硬度を保持したものとしている.
 近年,経管栄養投与法は,かつて主流であった経鼻胃管を経由した経管栄養投与法から,経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)を経由した投与法へと変化を遂げた.このPEGで使われる経管栄養チューブは,経鼻胃管のチューブに比較して太く短いという相違があり,結果として予め固形化した栄養剤の注入を可能にしている.固形化経腸栄養剤の実際の硬度としては,杏仁豆腐程度の硬さを目安にしている.
3.固形化経腸栄養剤により期待される効果(図2)
 経腸栄養剤の固形化により流動性は低下し,噴門部の通過性が低下して胃食道逆流が減少する(2)(3).また胃食道逆流の減少により嚥下性肺炎の発症が軽減する.さらに注入もボーラスでの一括注入が可能になり,注入時間の短縮により患者本人と介護者の負担軽減に寄与することになる(4).注入時間が短時間になる事は,注入中の長時間に渡る座位保持が不要になり,褥瘡症例に対しては体位変換の継続が可能になることから病変の悪化を防止することができる(5).また固形化により噴門と同様に幽門や瘻孔の通過性も低下する.これにより液体経腸栄養剤の注入に起因する下痢や栄養剤リークも減少し得る(6).
図2 経腸栄養剤固形化の効果

蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック,
第1版,医学書院,東京,
2002,P118.
より引用
経腸栄養剤固形化の効果

U 固形化経腸栄養剤の知識
1.固形化経腸栄養剤のゲル化法(表1)
 筆者は経腸栄養剤の固形化を考案するにあたり,固形化栄養剤の調理で用いるゲル化剤の条件として,重力に抗して形態の保持が可能な硬さが得られる事の他に,安価,入手が容易,調理が容易,硬度調節が容易,低カロリー,粘度増強がない,そして体温で溶解しない等の条件を満たす食品を模索した.その結果,各種ゲル化剤の中では粉末寒天のみが条件に合致していた(表1).更に寒天は,食物繊維の健康への好影響から特定保健用食品として認定を受けており,WHO食品規格部会食品添加物専門家委員会でも一日接取許容量について“制限無し”と安全性が確認され,現状では経腸栄養の固形化剤として最も適当な選択肢と考えている.

表1
 固形化剤の比較

粉末寒天 ゼラチン 全 卵 トロミ剤

重力に抗し形態を保持 ×
安  価 × ×
入手が容易
調理が容易
硬度調節が容易 × ×
低カロリー ×
粘度を増さない × ×
体温で溶解しない ×

2.固形化経腸栄養剤の推奨症例
 固形化経腸栄養剤には液体経腸栄養剤では得られない様々な利点を持つ.しかし現在,経管栄養で用いられる栄養剤の全てが液体である以上,固形化経腸栄養剤を実施する施設においては“調理”と“代用品を利用した投与”という工程を避けることは出来ない.そのため全ての経管栄養適応症例を固形化経腸栄養剤の投与対象とすることは現実的には困難である.そのため,現段階では液体栄養剤による弊害である胃食道逆流,下痢,栄養剤リークがある症例に対して優先的に投与を行うべきである.

V 固形化経腸栄養剤の調理法
1.固形化を行うため必要となる寒天の量
 100mlの水を固めるために必要な寒天の量は1g程度といわれている.しかし固形化経腸栄養剤は栄養チューブを経由した注入を可能にするため,経口食品とは異なる量での調整が必要になる.筆者は経腸栄養剤を杏仁豆腐程度の硬さとするための寒天必要量として,希釈した栄養剤の総水分量200mlに対して粉末寒天1gを目安としている.しかし凝固の硬度は,栄養剤の成分や凝固する容器にも影響されるため,固形化栄養剤を実施する施設においては,実際に使用する栄養剤を使い,予め固形化調理を行って硬さの確認をする必要がある.
2.固形化経腸栄養剤の調理法(図3)
 固形化経腸栄養剤の調理は,寒天を溶解した溶液を経腸栄養剤と混合し,注入容器であるプラスチックシリンジに吸引した後に静置することで,短時間で簡便に行う事ができる.経管栄養投与症例の多くは,経腸栄養剤の原液のみでの投与を行うと栄養過多になるため,一定量の水分で希釈して投与が行われることが多い.筆者らはこの希釈するための水分を,寒天溶液として調理を行っている.固形化栄養剤を行う症例での液体注入は,原則的に治療薬剤の溶解液分の水分量のみとしている(7).

図3 通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理

1.栄養剤を加温
 経腸栄養剤を寒天溶液と混合するとき,栄養剤が冷えていると,凝固が不均一になることがあるため,あらかじめ人肌程度の温度に暖める.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理   6.寒天溶解液と栄養剤を混合
 寒天溶解液を経腸栄養剤の入ったボールに入れ,30秒程度撹拌して混合する.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理
2.栄養剤を注入
 寒天調理に先立って,加温した経腸栄養剤をボールなどの容器に入れる.寒天溶液の混合は経腸栄養剤が冷める前に行う.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理   7.経腸栄養剤を吸引
 あらかじめ準備したプラスチックシリンジ(カテーテルチップ)で栄養剤を吸引する.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理
3.粉末寒天を準備
 粉末寒天を準備する.1本のスティックは4gのため半端があるときは予め計量しておくと良い.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理   8.口の部分をラップで封印
 静置凝固する際に栄養剤が漏れ出さないようにするため,プラスチックシリンジの口をサランラップなどで覆う.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理
4.冷水に寒天を入れ加熱
 症例の必要水分量を鍋の中に入れ,火をかける前に粉末寒天を入れて撹拌して寒天と水をなじませ,撹拌しながら加熱していく.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理   9.静置して凝固
 寒天の混合した経腸栄養剤の入ったプラスチックシリンジを静置し,栄養剤を凝固する.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理
5.寒天を溶解
 寒天は湯が沸騰した状態で撹拌を行い,約2分で溶解する.この煮沸時間は重要なのでタイマーなどを利用すると良い.
通常の粉末寒天を使い,プラスチックシリンジで固形化する調理  
3.固形化経腸栄養剤調理時の注意
寒天を溶かした寒天溶液を調理する際の注意としては,粉末寒天をまず水に入れて馴染ませた後に加熱溶解することである.沸騰した熱湯に粉末寒天を入れると,寒天は“ダマ”になり溶解が困難になる.寒天は2分間の煮沸状態で充分な溶解が得られるため,煮沸時間についても注意が必要である.また寒天溶液と混合する経腸栄養剤は,あらかじめ人肌程度に加温しておく必要がある.栄養剤は冷たい状態で寒天溶液と混合すると,急速に冷却されることにより固形化が不均一になり注意を要する.

W 固形化経腸栄養剤の投与法
1.固形化経腸栄養剤の投与法(図4)
寒天溶液は室温でも凝固が可能なため,筆者は調理後半日以内に注入する時は,室温で静置して凝固が得られた後に注入を行っている.調理から注入まで半日以上を要する場合は,衛生面の問題を考慮して冷蔵庫内で凝固保存を行い,投与前に予め室温に戻してから注入を行っている.注入はいわゆるボーラス注入で行い,一括で数分間かけて注入を行っている.注入中の座位保持は行っていない.1回の注入量は液体経腸栄養剤と同量で,通常は500ml程度を目安にしている.注入後のフラッシュは少量の送気のみで行い,液体は注入していない.

図4 固形化栄養剤の投与法
固形化栄養剤の投与法 固形化栄養剤の投与法

2.固形化栄養剤投与時の注意

 固形化経腸栄養剤を注入する際,栄養剤が冷蔵保存をされている場合,そのままの温度で注入を行うと下痢などの胃腸障害の原因となる.そのため注入時の温度を“口に入れても冷たいと感じない程度”まで加温する必要がある.
固形化経腸栄養剤の一回注入量は,液体経腸栄養剤の一食分を目安に決定される.しかし症例の体型や体格によっては,液体経腸栄養剤と同量の注入を受け付けず,嘔気を来す例もある.注入時は“おなかの口から食べさせる”感覚で,患者の観察を慎重にしながら注入を行う.もし嘔気が発生する場合は,注入を一時中断し,時間を空けて注入を行うようにする.また設定した注入量に耐えられない症例については,1回の注入量を減らして注入回数を増やすことにより対応を行っている.

X 固形化栄養剤開始後に発生する問題「便秘」
 固形化経腸栄養剤の導入を行うことにより便秘をきたす症例がある.PEGの対象となる症例の多くは,寝たきり状態などのADLが低下した症例であり,もとより便秘状態のことが多い.液体経腸栄養剤の問題点として下痢があげられるが,便秘状態の症例においては逆に便通が改善することになる.この様な症例に固形化経腸栄養剤を導入すると,もとよりある便秘状態に回帰する事になる.そのため固形化経腸栄養剤を導入した後は,便通に対してより以上に細かな観察が必要になる.また固形化栄養剤の導入をする際は,便秘状態となっていないように緩下剤などで調整を行っておく様にするべきである.

文 献
(1) 蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック,第1版,東京,医学書院,2002,117-122.
(2) Jiro Kanie, Yusuke Suzuki, Hiroyasu Akatsu et al: Prevention of gastro-esophageal reflux by an application of half-solid nutrients in patients with percutaneous endoscopic gastrostomy feeding. Journal of the American Geriatrics Society 2004; 52(3): 466-467.
(3) 富樫美絵,加賀山美紀,黒井綾子ほか:粉末寒天を用いた経腸栄養剤固形化によって胃瘻瘻孔からの栄養剤漏れはコントロール可能か.第7回HEQ研究会誌:34,2002
(4) 藤田和枝:経管栄養剤固形化による利用者のQOLの向上.コミュニティーケア10(5): 53-55,2003.
(5) 三浦眞弓:嚥下性肺炎の予防と褥瘡完治につながった経腸栄養剤固形化の取り組み.臨床老人看護10(5): 29-34,2003.
(6) 蟹江治郎,各務千鶴子,山本孝之ほか:固形化経腸栄養剤の投与により胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例.日本老年医学会雑誌;39(4): 448-451,2002.
(7) 蟹江治郎,赤津裕康,各務千鶴子:経腸栄養剤固形化によるPEG後期合併症への対策.臨床看護29(5): 664-670,2003.

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