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連載:高齢者の栄養管理とPEG |
第一回 PEG管理で知っておきたい基礎知識 |
ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
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臨床老年看護 2004; 11(1): 101-107. |
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T.はじめに |
近年,人口の高齢化に伴い脳血管障害や痴呆により長期の経管栄養管理が必要になる症例が増加しつつある.従来この様な症例に対して経鼻胃管栄養が広く行われていたが,この方法には長期管理に伴う問題が多く指摘されていることから,近年では経鼻胃管より管理が容易である内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous
Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)を用いた経管栄養管理が普及しつつある.
本稿においてはPEGの管理を行う上で必要になる,最低限の基礎知識について論述したい. |
U.PEGとは何か |
内視鏡的胃瘻造設であるPEGとは,内視鏡を利用して胃瘻造設を行う方法である.胃瘻とは胃につながる瘻孔(=トンネル)のことで,この瘻孔を経由して栄養チューブを胃に挿入する経管栄養を胃瘻栄養という.胃瘻は従来,全身麻酔下の開腹手術で行われていたが,内視鏡を利用した造設では,局所麻酔下で10分足らずの手術時間でチューブ挿入が可能となった(図1).そのためPEGは寝たきりなどのハイリスク症例にも施行が可能となっている.胃瘻における瘻孔は,PEGチューブ挿入後3週間程度で形成するといわれているが,チューブ交換に耐えきれる強固な瘻孔となるまでには,3〜6ヶ月の時間を要するといわれている(図2). |
図1 PEGチューブの挿入と瘻孔形成
蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック,医学書院,2002. |
図2 胃瘻造設直後の胃瘻と瘻孔完成後の胃瘻
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V.栄養療法におけるPEGの位置づけ |
経口摂取不能例の栄養投与法は1993年米国静脈栄養学会で示されている(図3).PEGをはじめとする経管栄養は,腸管機能が正常でありながら嚥下が困難な症例がその適応となる.一般的には経管栄養が3ヶ月以内の短期の利用にとどまる時は経鼻胃管を,それ以上使用する場合はPEGを選択するとされている.しかし最近はPEGチューブの抜去後速やかに瘻孔が閉鎖することから,比較的短期の経管栄養を行う症例においても,PEGを利用するといった報告もある. |
図3 栄養療法のマニュアル
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W.PEGの適応と目的 |
PEGの目的には大きく分けて2つある.一つは栄養注入を目的とした造設である「栄養瘻」で,もう一つは胃内の減圧を行う「減圧瘻」である.栄養瘻の目的で行うPEGは,前項の嚥下障害の症例のみならず,癌性悪液質やクローン病の症例も適応といえる.減圧瘻の目的で行うPEGは,悪性腫瘍などによる消化管の非可逆的通過障害が適応となる.(表1) |
表1 PEGにおける栄養瘻と減圧瘻
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栄養瘻 |
減圧瘻 |
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1.嚥下障害のための栄養障害
→脳卒中後遺症,筋萎縮性側索硬化症など
2.中枢神経疾患による食思不振
→痴呆性疾患など
3.癌性悪液質などによる食思不振
→末期癌症例など
4.腫瘍による咽頭から噴門の狭窄
→咽頭癌,食道癌,胃噴門部癌など
5.成分栄養投与療法を要するも味覚不良により
経口摂取が困難
→クローン病 |
1.非可逆的腸閉塞
→癌性腹膜炎
2.非可逆的幽門から十二指腸までに
狭窄がある症例
→胃幽門部癌,膵頭部癌,乳頭部癌など |
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X.経鼻胃管とPEGの比較 |
高齢者嚥下障害症例に主だって行われてきた経鼻胃管による経管栄養投与法は,PEGの普及に伴い近年は適応が限定されつつある.実際,経鼻胃管患者をPEGに変更することにより,意識状態の改善,抑制処置の緩和,経口摂取可能症例の出現などQOLの向上に寄与する点が多い(図4).しかし経鼻胃管は外科的侵襲無く挿入が可能なため,コメディカルによる実施が可能であるなどの特徴があり,PEGに比較して劣った栄養投与法ではない.経管栄養管理を行う医療従事者は,それぞれの利点と欠点を理解し,患者にとってより良い方法を選択することが望ましい(表2). |
図4 PEG施行後の状態の変化について
a 意識状態の変化 |
b 抑制処置の変化 |
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c 経口摂取の変化 |
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蟹江治郎他:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性.日本老年医学会誌
1998; 35(7): 543-547 |
表2 経鼻胃管と比較したPEGの利点と欠点
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PEG
の
利点 |
1.チューブの交換手技が容易
2.チューブ交換時の肺への誤挿入が無い
3.チューブの交換間隔が長い
4.自己抜去が少ない
5.在宅管理が容易
6.胃噴門機能を悪化させない
7.チューブ接触による鼻咽頭および食道潰瘍の合併がない
8.違和感が少ない
9.積極的な嚥下リハビリが可能
10.顔面付近にチューブが無い事による心理的好影響と美容上の改善がある |
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PEG
の
欠点 |
1.胃瘻造設時に内視鏡設備および内視鏡技術修得医が必要
2.造設時2名の医師が必要
3.胃瘻造設により胃食道逆流を誘発し、嘔吐回数が増加する例がある
4.外科的処置による合併症がある
5.胃内固定板により胃通過障害を起こすことがある |
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Y PEGチューブの構造 |
PEGチューブはその位置を正しく保持するため,位置固定のためのストッパーがある.このストッパーを固定板またはバンパーという.固定板には胃内に存在する固定板である「胃内固定板」と,体外に位置する固定板である「体外固定板」がある.胃内固定板はチューブ先端である胃内腔に位置し,チューブの抜去を防止する役割がある.体外固定板は体表面に位置し,チューブが蠕動運動に伴って腸へ先進する事を予防する役割がある(図5). |
図5 PEGチューブの構造
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Z PEGチューブの種類 |
PEGチューブの分類は,体表面からのチューブ突出の有無と胃内固定板の形状により分けられる.体表面からのチューブ突出の有無では,体表面から出ているものを「チューブ型」とし,突出のないものを「ボタン型」としている.また胃内固定板がバルーンによるものを「バルーン型」とし,非バルーンのものを「バンパー型」としている.これら2種類の二分類により,PEGチューブは計4種類に分類されている.(図6,7) |
図6 PEGチューブの種類
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図7 各チューブの形状
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各々の種類のチューブにはそれぞれ利点と欠点がある(表3,4).バルーン型は挿入が容易で挿入痛が少ないが,バルーン破裂により事故抜去を生じる可能性がある.チューブ型は体表面からチューブが出ており美容面衛生面の問題があるが,ボタン型に比較して介護は容易である.そのためPEGに携わる医療従事者は,胃瘻栄養をうける症例の状態や介護者の要望を的確に把握し,最も適したチューブを選択する必要がある. |
表3 チューブ型とボタン型のPEGチューブ
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チューブ型 |
ボタン型 |
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患者の違和感 |
多 |
少 |
チューブ内汚染 |
多 |
少 |
介護の煩雑さ |
少 |
多 |
瘻孔圧迫 |
少 |
多 |
単 価 |
少(1万円程度) |
多(3万円程度) |
事故抜去 |
牽引により可能 |
困 難 |
接続管 |
不要 |
必要(自費負担) |
交換間隔 |
胃内固定板形状により決定される |
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表4 バルーン型とバンパー型のPEGチューブ
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バルーン型 |
バンパー型 |
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交換手技の難易 |
極めて容易 |
容易 注)一部に経皮交換不可の物あり |
交換時の瘻孔損傷 |
少ない |
多い |
不意のチューブ抜去 |
あり(バルーン破裂による) |
希にあり(チューブ牽引による) |
保険請求可能な交換間隔 |
24時間以上留置で算定可能 |
4ヶ月以上留置で算定可能 |
単 価 |
少 |
多 |
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[ 経胃瘻的空腸栄養チューブについて |
経胃瘻的空腸栄養チューブとは,すでに完成した瘻孔やPEGチューブの内腔を経由して,チューブの先端を空腸まで挿管する栄養チューブのことである(図8).このチューブにおいては,瘻孔自体は胃に位置しているにもかかわらず,内視鏡的空腸瘻(PEJ:Percutaneous
Endoscopic Jejunostomy)という表現でも慣用されている.このチューブでは栄養剤が直接空腸に注入されることにより,嘔吐を防止するなどの利点がある.一方,胃瘻と比較してチューブの閉塞や下痢を起こしやすく管理が煩雑になるため,胃瘻管理が困難となった症例に限定して行われる方法といえる(表5). |
図8 経胃瘻的空腸栄養チューブの模式図
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表5 経胃瘻的空腸栄養チューブの長所と短所
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長 所 |
○ 経腸栄養剤が直接空腸へ流入するため、胃食道逆流による嘔吐の危険が少ない
○ 嘔吐の危険が少ないため、臥位での経腸栄養投与が可能
○ 幽門狭窄例にも、経腸栄養投与が可能 |
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短 所 |
○ 経腸栄養剤が直接空腸へ流入するため、下痢を来す症例がある
○ チューブの交換作業に内視鏡操作が必要で、手技的にも煩雑である |
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\ おわりに |
医学に限らず基礎知識なしに応用知識が生まれることはあり得ない.そのため本稿においては,胃瘻管理を行う上で必須となる,重要かつ基本的な知識に的を絞って略説した.読者の皆さんにとっては,当たり前と思われる内容も少なくはないと思われるが,次稿から触れる合併症や管理のコツについては,本稿の内容を充分理解した上での内容となるので,合わせて参考にしていただきたい. |
引用・参考文献 |
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