内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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内視鏡的胃瘻造設術後に発生する胃潰瘍の発生機序に対しての検討/蟹江治郎/胃瘻/PEG/胃ろう
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内視鏡的胃瘻造設術後に発生する胃潰瘍の発生機序に対しての検討 

蟹江治郎*,赤津裕康**,鈴木祐介***,
下方浩史****,井口昭久***

* ふきあげ内科胃腸科クリニック,** さわらび会福祉村病院内科
*** 名古屋大学大学院医学研究科老年科学,**** 国立長寿医療研究センター疫学研究部
 
Endoscopy 2002; 34(6): 480-482 

  研究の目的と背景:この研究はPEGチューブ挿入後に発生する合併症の一つであり,重篤な症状を引き起し得る胃潰瘍の発生原因について解明する目的で行われた.
 患者と方法:対象症例はPEG管理を受けている症例の中で,内視鏡検査を経験した92症例.それらの症例の内視鏡検査結果をretrospective studyにより検討を行った.その検討において,内視鏡上胃潰瘍の発生頻度が,PEGチューブ胃内固定板からの突出部分の長さや,ヒスタミンH2ブロッカーの使用と関連があるかを調査した.
 結果:胃内視鏡検査を行った92名中,胃潰瘍を認めた症例は9名であった.それら全ての症例において,PEGチューブ先端が接する胃体部後壁に潰瘍の発生部位を認めた.胃内固定板からの突出部分が長いPEGチューブをもつ21名では,うち7名(33.3%)に胃潰瘍の発症を認めた.一方,胃内固定板からの突出部分が短いPEGチューブをもつ71名においては,2名(2.8%)のみに胃潰瘍の発症を認めた.検査の前から投与されていたH2ブロッカーの有無については,胃潰瘍の発症に対して有意な影響がなかった.
 結論:PEG術後に発生する胃潰瘍は,胃内固定板からの突出部分が長いPEGチューブと密接に関連しているが,H2ブロッカーの投与の影響はなかった.そのため胃潰瘍発症の予防のためには,適切なPEGチューブを選択することが重要な要素となると考えられる.
 
はじめに
  脳梗塞後遺症や痴呆を認める高齢者の経管栄養投与法として,かつては主流であった経鼻胃管による栄養投与法に代わり,近年においては内視鏡的胃瘻造設(以下PEG)が多くの利点を有することから普及しつつある(1-3).そしてPEGの普及につれて,PEG造設後の様々な合併症や(4-8),その合併症に対しての対策についての報告がなされている(9-12).しかしながら,それら合併症の報告においては術後急性期のものが中心であり,慢性期の合併症についてはバンパー埋没症候群を除いて,目立った報告はされていない(13-15).そしてPEG術後に発生する慢性合併症の一つに,胃潰瘍が存在するとの報告は,現在までなされてはいなかった.今回の研究においては,PEGチューブ留置症例に対して行われた胃内視鏡検査において,胃潰瘍を認めた症例がその発生誘因として,胃内固定板からの突出部分の長さや,ヒスタミンH2受容体拮抗剤(以下H2ブロッカー)の使用の有無との関連がないかを検討した.
 
症例と方法
 症例
 対象となった症例はPEG造設後に胃内視鏡検査を受けた92名(男性29名女性63名,年令39-97才:平均; 78.3才).胃内視鏡検査は,主としてチューブの交換を目的として実施された.検討対象となった症例の基礎疾患を表1に示す.胃内視鏡検査の施行時期は,消化管出血の臨床症状を示す症例を除き,PEG施行後平均249日(6-1833日間)に行われた.対象とした症例に胃潰瘍の既往を持つ例はなく,胃瘻造設時の内視鏡観察において,胃潰瘍を認めた症例もなかった.なお胃内視鏡検査を行うにあたり,全ての症例について本人および家族に十分な説明を行ったのち,同意を得た上で検査を施行した.
方法
 今回対象となった92名の症例について,挿入されているPEGチューブの胃内固定板からの突出部分の長さにより,2つのグループを分類した.その2つの集団の一つであるグループ1は,PEGチューブの胃内固定板からの突出部分の長さが5mm以上の群とし,もう1つのグループ2は突出部分の長さを5mm未満とした(図1).それら2つのグループの症例数を表1に示す.H2ブロッカーの与薬例は何れの群にも存在した.胃内視鏡検査施行時にH2ブロッカーの投与を受けていた症例は,脳梗塞後遺症に伴うクッシング潰瘍の予防を目的として投与を受けていた.
 統計的な解析は, Fisher's exact testを利用して行われた.
 
表1 対象症例の基礎疾患と背景
    グループ1* グループ2**
基礎
疾患
 脳梗塞後遺症 6 31 37
 痴 呆 8 26 34
 脳出血後遺症 4 2 6
 クモ膜下出血後遺症 0 3 3
 頭部外傷後遺症 1 2 3
 低酸素脳症 0 2 2
 筋萎縮性側索硬化症 1 1 2
 パーキンソン症候群 0 1 1
 胃 癌 0 1 1
 進行性核上性麻痺 0 1 1
 脳炎後遺症 0 1 1
 脳腫瘍 1 0 1
男性 6 23 29
女性 15 48 63
年令 79.24
( 55-97 )
78.04
( 39-94 )
78.32
( 39-97 )
術日から検査日までの日数 237
( 6-1833 )
252
( 13-801 )
249
( 6-1833 )
Total 21 71 92
グループ1;胃内固定板よりチューブの突出が5mm以上
グループ2;胃内固定板よりチューブの突出が5mm未満

図1 胃内固定板からの突出部分の長さによるPEGチューブの分類
内視鏡的胃瘻造設術後に発生する胃潰瘍の発生機序に対しての検討/蟹江治郎/胃瘻/PEG/胃ろう
グループ1
胃内固定板よりチューブの突出が5mm以上
グループ2
胃内固定板よりチューブの突出が5mm未満

結 果
 PEGチューブ挿入後の胃潰瘍の発生について
 今回検討を行った92名中9名(9.9%)において,胃内視鏡上潰瘍性病変を認めた.胃潰瘍を認めた9名のうち3名は出血性胃潰瘍であり,それらの症例はすべてグループ1(突出部分の長さが長い群)に属するチューブが挿入されていた.出血を伴わない潰瘍を認めたグループ1に属する他の4症例と,グループ2に属する2例については潰瘍の症状に欠けており,内視鏡検査により偶発的に発見された症例であった.それらグループの間には, 合併症や胃潰瘍の危険を増加させる因子(年令,投薬,呼吸状態,腎疾患,肝障害など)に関して相違はなかった.胃潰瘍を発見した全ての症例において,その病変部はPEGチューブの先端が接している胃体部後壁側に位置していた.胃潰瘍の発症頻度は,グループ1(突出部分の長さが長い群)では21症例7名(33.3%),そしてグループ2(突出部分の長さが短い群)では71名中2名(2.8%)であった.その結果を統計学的に解析を行ったところ,グループ1の症例における胃潰瘍発生の頻度は,グループ2の症例に比して,有意に高頻度(P < 0.05, Fisher's exact test)となった.
 
表2 胃内固定板からの突出と潰瘍の頻度

グループ 1 グループ 2

胃潰瘍あり 7名 (33.3%) 2名 (2.8%) 9名
胃潰瘍無し 14名 (66.7%) 69名 (97.2%) 83名

21名 (100%) 71名 (100%) 92名

               グループ1; 胃内固定板よりチューブの突出が5mm以上
               グループ2;胃内固定板よりチューブの突出が5mm未満
             p<0.05 (Fisher's exact test)
 H2ブロッカーの投薬効果について
 PEGチューブ挿入後に内視鏡検査を受けた92症例中,H2ブロッカーの投与を受けていた症例は4名であった.グループ1の21症例において,H2ブロッカーの投与を受けていた症例は2名で,うち1名に胃潰瘍が認められた.グループ2の69症例において,H2ブロッカーの投与を受けていた症例も2名で,何れの症例も胃潰瘍は合併していなかった.何れのグループにおいても,H2ブロッカーの投与は,胃潰瘍の発症に関して統計学的に有意な影響はなかった.(表3)
 
表3 H2ブロッカーの投与と潰瘍の頻度

グループ 1 グループ 2

H2ブロッカーあり H2ブロッカーなし H2ブロッカーあり H2ブロッカーなし

潰瘍あり 1 6 7 0 2 2
潰瘍なし 1 13 14 2 67 69

2 19 21 2 69 71

               グループ1; 胃内固定板よりチューブの突出が5mm以上
               グループ2;胃内固定板よりチューブの突出が5mm未満
             N.s. (Fisher's exact test)
 
考 察
  PEGは1980年Gauderer他により報告されて以来(16),長期の経管栄養管理を必要とする症例に対して,多くの利点を有することから高い評価を受けている.しかしその合併症の頻度は,我々の経験(17)においては,過去の報告(18)に比して高頻度に認めた.実際,今回の報告を行った時点でのPEG術後合併症は,PEGを行った441症例の中で胃潰瘍を含めて144件に認めた.PEGチューブ挿入後に発生する胃潰瘍の原因について言及された報告はないが,関連すると思われる報告は過去に発表がなされている.中でも経鼻胃管栄養チューブと胃壁との接触が,胃潰瘍の原因となったとの報告(19, 20)は,今回我々が経験したものと近似しているといえる.今回提示した胃潰瘍発生症例は,全例においてPEGチューブ先端が接触する胃後壁に病変を認めた.また検討を行った症例では胃潰瘍の既往をもつ者はなく,胃内視鏡器具はHelicobacter pyloriに対しての充分な消毒を受けているにもかかわらず,92例中9名と一般的な罹病率に比して高頻度に潰瘍を認めた.
 これはチューブが胃後壁に鋭利に接触するグループ1が,グループ2に比べて有意に高頻度に胃潰瘍の発生を認める事から,チューブの接触による機械的刺激により胃潰瘍が発生し,それ故に胃潰瘍の頻度が高くなったとたものと考えられる.今回検討対象となった92症例中4名が,胃内視鏡検査の以前からH2ブロッカーの内服治療を行っていた.しかし今回の検討においては,H2ブロッカー投薬は胃潰瘍の発生を予防する効果が証明されなかった.よってPEGチューブ挿入後に発生する胃潰瘍は,胃粘膜に対してチューブが接触する機械的損傷により発生し,H2ブロッカーの投薬はその発症を防止し得ないものといえるだろう.
 
結 論
  胃内固定板からの突出部分が長いPEGチューブの使用は,チューブ先端部が胃粘膜への損傷を引き起こし,胃潰瘍を高頻度に発生することとなる.よってPEGの合併症たる胃潰瘍の予防のためには,予め潰瘍の発生を起こしにくい形状のチューブを選択することが必要である.
 
References
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