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半固形栄養剤の形状と胃瘻カテーテルのタイプによる
栄養剤注入の難易差についての検討 |
【原著】 ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
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ヒューマンニュートリション 日本医療企画,2014;6(3),92-98.
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【キーワード】 半固形化物性,胃瘻カテーテル形状,栄養剤注入難易
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要 約
目的:半固形栄養剤として有効とされる物性の市販製品を,どの様なカテーテルで使用した場合,注入手技が可能か評価を行った.
方法:寒天および粘度増強剤により有効とされる物性とした半固形栄養剤を用い,4種類の胃瘻カテーテルに対して注入の適否を検討した.注入は用手注入を想定した120mmHg持続加圧による注入と,加圧バック注入を想定した300mmHg間欠加圧による注入を行った.
結果:用手注入を想定した実験では,寒天半固形栄養剤を用い20Frチューブ型カテーテルからの挿入が推奨された.加圧バッグ注入を想定した実験では,寒天半固形ならば全てのカテーテルで注入が容易であり,粘度増強半固形栄養剤ならば経腸栄養器具との接続部が接着型のカテーテルによる注入が適した.
結論:半固形栄養を実施する際には,使用する形状に応じて適切なカテーテルを使用することにより,よりよい看護介護環境を提供することが望まれる. |
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Ⅰ はじめに |
胃瘻患者において,液体栄養の流動性から発生する合併症である嘔吐,下痢,栄養剤リークは,日常臨床において頻繁に遭遇する合併症である.それらの問題点を緩和するため,予め栄養剤を半固形化した後に注入する半固形栄養投与法が2002年に報告され(1)(2),その後も様々な半固形栄養投与法が報告されて(3),近年急速に普及しつつある.胃瘻からの半固形栄養投与法には,栄養剤を寒天で固め“重力に抗してその形態を保つ硬さ”とした寒天固形化栄養注入法(1)(2),通常の経口食品をミキサー食として半固形化する方法(4),従来からある液体栄養を粘度増強剤により半固形化する方法などがある(5).また2005年以降は既成の半固形栄養剤も市販化されている(6)(7).
半固形栄養剤は液体栄養に比較して様々な効果を持つが,一方で液体栄養に比較して流動性が低く,有効とされる物性においては滴下注入が不可能で,用手的ないしは注入器具を利用した投与が必要になる.今回,筆者らは異なる物性の半固形栄養剤を,異なる形状の胃瘻カテーテルより注入し,その難易を比較したため,その結果につき報告する.
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Ⅱ 実験材料と検査機器 |
1 使用した半固形栄養剤
使用した栄養剤は,半固形栄養としての有効とされている物性の市販製品を使用した.現在,半固形栄養剤としての効果が指摘されている物性には,栄養剤を寒天等でゲル化し重力に抗してその形態が保たれるものと(1)(2),栄養剤の粘度を増強し20,000ミリパスカル・秒(以下,mPa・s)の粘度としたものとなる(5).今回の実験においては,寒天でゲル化し重力に抗してその形態が保たれる製品(以下,寒天半固形)と,粘度を増強し20,000mPa・sの物性とした製品(以下,増粘半固形)の評価を行った.具体的な製品としては,寒天半固形の試料にはハイネゼリー・アクアR(大塚製薬工場社製)を使用し,増粘半固形の試料としては,PGソフトR(株式会社テルモ製)を使用した(表1). |
表1 使用した試料
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物 性 |
製品名 |
寒天半固形 |
寒天でゲル化し重力に抗してその形態が保たれるもの |
ハイネゼリー・アクア |
増粘半固形 |
粘度を増強し20,000mPa・sとしたもの |
PGソフト |
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2 使用した検査機器
使用したカテーテルとしては,4種類の製品について検討を行った.使用したカテーテルの内容としては,①12Fr経のバルーン型チューブで,経腸栄養器具との接続部分がカテーテルと接着されている製品(以下,12Frチューブ接着型),②20Fr経のバンパー型チューブで,経腸栄養器具との接続部分がカテーテルと接着されている製品(以下,20Frチューブ接着型),③20Fr経のバンパー型チューブで,経腸栄養器具との接続部分がカテーテルと脱着可能な製品(以下,20Frチューブ脱着型),④20Fr経のバンパー型ボタンの製品(以下,20Frボタン型)とした.
具体的な製品としては,12Frチューブ接着型は胃瘻交換用カテーテルR(クリエートメディック社製),20Frチューブ接着型は交換用バンパーカテーテルR(クリエートメディック社製),20Frチューブ脱着型はフォールドバンパーR(株式会社トップ製),20Frボタン型はイディアルボタンR(オリンパスメディカルシステム株式会社製)を使用した(表2,図1).重量の測定にあたっては電子天秤(島津社製,BX4200H)を使用し,加圧バックはPG加圧バッグⅡ(株式会社テルモ製)を使用した(図2). |
表2 使用したカテーテル
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12Frチューブ接着型 |
20Frチューブ接着型 |
20Frチューブ脱着型 |
20Frボタン型 |
形 態 |
チューブ |
チューブ |
チューブ |
ポタン |
内部ストッパー |
バルーン |
バンパー |
バンパー |
バンパー |
カテーテル外経 |
12Fr |
20Fr |
20Fr |
20Fr |
栄養管接続部分 |
接着型 |
接着型 |
脱着型 |
接着型 |
製 品 名 |
胃瘻交換用カテーテル |
交換用バンパーカテーテル |
フォールドバンパー |
イディアルボタン |
製 造 元 |
クリエートメディック |
クリエートメディック |
トップ |
オリンパスメディカル |
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図1 栄養管接続部分が接着型の製品と脱着型の製品
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図2 PG加圧バッグⅡR(株式会社テルモ製)
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Ⅲ 実験方法 |
1 実験1:用手的注入を想定した試験
実験1は用手的注入を想定した試験とし,加圧に関しては一定の圧で持続的に行い,その注入量の計測を行った.注入圧に関しては半固形化栄養の投与経験のある看護師(女性10名,男性2名,平均年令42.0±11.7歳)により官能試験を行い,用手注入が充分可能であると思える圧を算出したところ,平均圧力123.3±38.7mmHg
であったため,今回の試験においては120mmHgで加圧することとした.
具体的な方法としては,①加圧バッグに半固形栄養剤を装着しカテーテルに接続,②加圧バッグを120mmHgまで加圧,③注入に伴い減圧した際は115mmHgまで低下した時点で120mmHgまで再加圧,④カテーテルから滴下した半固形栄養剤の重量を30秒ごとに測定する行程で行った.なお,重量の測定は注入開始後30分を経過した時点で終了とした.測定にあたっては同条件で3回行い,その平均値の評価を行った.
結果の判定に際しては,5分未満で80%以上の注入が得られた群は注入適切群(以下,用手適切群),5分以上で80%以上の注入が得られた群は注入困難群(以下,用手困難群),そして80%以上の注入が得られなかった群は注入不適群(以下,用手不適群)として検討を行った. |
2 実験2:加圧バッグを用いた注入を想定した試験
実験2は加圧バッグによる注入を想定した試験とし,加圧に関しては間欠的に行い,設定した圧で加圧を開始後,滴下が終了した時点で再加圧を行い,その注入量の計測を行った.注入圧に関しては,合田が適切な注入圧として提唱する150から300
mmHgを指標とし(8),今回の試験においては300mmHgで加圧することとした.
具体的な方法としては,①加圧バッグに半固形栄養材を装着しカテーテルに接続,②加圧バッグを300mmHgまで加圧,③注入に伴い減圧し注入が停止した時点で300mmHgまで再加圧,④カテーテルから滴下した半固形栄養材の重量を30秒ごとに測定する行程で行った(図3).なお,重量の測定は注入から30分を経過した時点で終了とした.測定にあたっては同条件で3回行い,その平均値の評価を行った.
結果の判定に際しては,15分未満で80%以上の注入が得られた群は注入適切群(以下,バッグ適切群),15分以上で80%以上の注入が得られた群は注入困難群(以下,バッグ困難群),そして80%以上の注入が得られなかった群は注入不適群(以下,バッグ不適群)として検討を行った(表3). |
図3 注入試験の様子
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表3 実験方法 と評価法
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実験1 |
実験2 |
実験方法 |
臨床現場での想定 |
用手的な注入 |
加圧バッグを用いた注入 |
加圧設定 |
120mmHg |
300 mmHg |
再加圧のタイミング |
115mmHgまで低下した時点 |
注入が停止した時点 |
評価法 |
用手/バッグ適切群 |
5分未満で80%以上の注入 |
15分未満で80%以上の注入 |
用手/バッグ困難群 |
5分以上で80%以上の注入 |
15分以上で80%以上の注入 |
用手/バッグ不適群 |
80%以上の注入が不可 |
80%以上の注入が不可 |
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Ⅳ 結果 |
1 実験1:用手的注入を想定した試験 |
(1)12Frチューブ接着型:寒天半固形については,用手適切群に該当する5分の時点での注入量は.63.1%であったが,開始後20分30秒には80%注入に達し,評価としては用手困難群に該当した.増粘半固形については,5分の時点での注入量は4.7%であり,注入総量も25.0%に留まり,評価としては用手不適群となった.
(2)20Frチューブ接着型:寒天半固形については,注入開始後2分0秒の時点で80%注入に達し,評価としては用手適切群に該当した.増粘半固形については,5分の時点での注入量は44.3%であったが,注入開始後17分0秒の時点で80%注入に達し,評価としては用手困難群に該当した.
(3)20Frチューブ脱着型:寒天半固形については,注入開始後3分30秒の時点で80%注入に達し,評価としては用手適切群に該当した.増粘半固形については,5分の時点での注入量は10.3%であり,注入総量も69.9%に留まったため,評価としては用手不適群となった.
(4)20Frボタン型:寒天半固形については,注入開始後5分の時点での注入量は.77.6%であったが,11分30秒の時点で80%注入に達し,評価としては用手困難群に該当した.増粘半固形については,5分の時点での注入量は11.8%であり,注入総量も61.4%に留まったため,評価としては用手不適群となった(図4・表4). |
図4 実験1:120mmHgでの注入の推移
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表4 実験1:用手的注入を想定した試験
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判定 |
80%注入時間 (分) |
寒天半固形 |
12Frチューブ接着型 |
△ |
20.5 |
20Frチューブ接着型 |
○ |
2.0 |
20Frチューブ脱着型 |
○ |
3.5 |
20Frボタン型 |
△ |
11.5 |
増粘半固形 |
12Frチューブ接着型 |
× |
到達せず |
20Frチューブ接着型 |
△ |
17.0 |
20Frチューブ脱着型 |
× |
到達せず |
20Frボタン型 |
× |
到達せず |
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2 実験2:加圧バッグを用いた注入を想定した試験 |
(1)12Frチューブ接着型:寒天半固形については, 注入開始後4分0秒の時点での注入量が80%注入に達し,評価としてはバッグ適切群に該当した.増粘半固形については,適切群に該当する15分の時点での注入量は53.3%であり,注入総量も73.5%に留まり,評価としてはバッグ不適群となった.
(2)20Frチューブ接着型:寒天半固形については,注入開始後0分30秒の時点で80%注入に達し,評価としてはバッグ適切群に該当した.増粘半固形についても,5分30秒の時点で80%注入に達し,評価としてはバッグ適切群に該当した.
(3)20Frチューブ脱着型:寒天半固形については,注入開始後1分0秒の時点での注入量が80%注入に達し,評価としてはバッグ適切群に該当した.増粘半固形については,適切群に該当する15分の時点での注入量は77.8%であったが,注入開始後18分0秒の時点で80%注入に達し,評価としてはバッグ困難群に該当した.
(4)20Frボタン型:寒天半固形については, 注入開始後1分30秒の時点での注入量が80%注入に達し,評価としてはバッグ適切群に該当した.増粘半固形については,注入開始後16分0秒の時点で80%注入に達し,評価としてはバッグ困難群に該当した(図5・表5). |
図5 実験2:300mmHgでの注入の推移
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表5 実験2:加圧バックを用いた注入を想定した試験
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判定 |
80%注入時間 (分) |
寒天半固形 |
12Frチューブ接着型 |
○ |
4.0 |
20Frチューブ接着型 |
○ |
0.5 |
20Frチューブ脱着型 |
○ |
1.0 |
20Frボタン型 |
○ |
1.5 |
増粘半固形 |
12Frチューブ接着型 |
× |
到達せず |
20Frチューブ接着型 |
○ |
5.5 |
20Frチューブ脱着型 |
△ |
18.0 |
20Frボタン型 |
△ |
16.0 |
○:バッグ適切群 △:バッグ困難群 ×:バッグ不適群 |
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Ⅴ 考察 |
半固形栄養剤とは,液体と固体の両方の物性を持ち,液体より固体に近い半流動体であり,液体栄養剤の問題点を軽減すべく,粘度や硬度を保持させたものである(5).半固形栄養剤は液体栄養剤に比較して流動性が低いことから,①胃食道逆流による嘔吐や嚥下性呼吸器感染症の予防(9)(10),②下痢の予防,③胃瘻からの栄養剤リークの予防(11),④投与後の高血糖の予防(12)などの効果が指摘されている.その投与にあたっては,座位保持の必要が無いため褥瘡の発生や予防にも効果があり(13),介護負担に関しても液体栄養に比較して改善できるため(14),現在急速に普及しつつある.
現在,半固形栄養剤としての有効性が指摘されている物性は,栄養剤を寒天等でゲル化し重力に抗してその形態が保たれるものと(1)(2),栄養剤の粘度を増強し20,000mPa・sの粘度としたものである(5).経腸栄養剤の投与にあたっては,液体の場合は滴下投与により注入を行うが,半固形栄養の場合,有効とされる物性においては滴下投与は不可能である.そのため注入にあたっては何らかの外圧を必要とし,現在,その方法として用手的な方法と(2),加圧バックによる方法が行われている(3).しかし,それらの方法を用いても,栄養剤の物性とカテーテルの形状によっては,注入が困難な場合もある.今回我々は,推奨できる組み合わせと,推奨できない組み合わせを解明すべく,有効とされる物性の製品で,どの様なカテーテルを使用した場合,注入手技が可能かの評価を行った.
今回の検討においては,実験1として用手的な注入を想定した加圧注入実験と,実験2として加圧バッグを用いた注入を想定した加圧注入実験を行った.実験1においては,半固形栄養の注入経験のある看護師による官能試験において,実行可能な注入圧は平均で123.3±38.7mmHgとなったため,注入圧を120mmHgと設定した.加圧方法も用手的注入と同様の状況とするため,持続加圧として注入を行った.注入量の評価にあたっては,通常用手的注入が5分程度で注入作業が完了することから,注入開始後5分の注入量の評価を行った.なお,今回の検討において注入量が80%をもって注入完了としたのは,菅原の報告を参考に(15),加圧バッグによる注入の一定の上限と考えて判断をした.実験2においては,推奨されている注入圧で,最も圧の高い300 mmHgでの注入を行った.加圧バックによる注入は,臨床現場においては,看護師が一旦加圧を行った後に患者から離れ,一定時間が経過した後に再加圧して注入されることが多いため,実験1と異なり間欠加圧として注入を行った.注入量の評価にあたっては,合田の提唱する半固形短時間注入法において,15分程度の注入時間が推奨されていることから(8),注入開始後15分の注入量の評価を行った.
近年,様々な形状の胃瘻カテーテルが選択できるようになったが,胃瘻カテーテルから半固形栄養の注入を行う際においては,半固形の物性の特徴から太径の物が注入は容易となる.しかし,カテーテルの太さの表示は外径であり,同じ径のカテーテルでも,カテーテルのタイプによって内径は大きく異なる.今回の検討においては,同一の外径である20Frのカテーテルを3種類用意し比較を行った.内径に関していえば,チュ-ブ接着型の製品は内腔に狭小部がなかったが,チューブ脱着型は栄養管接続部をチューブに填め込む形状であることから狭小部を持ち,ボタン型に関していえば栄養管接続チューブの外径自体がカテーテルより細径であり接続部にも狭小部分があった.
今回の結果においては,実験1として行った,用手的な注入を想定した加圧注入実験では,寒天半固形については,20Frチューブ接着型と20Frチューブ脱着型が用手可能群に該当し,他のカテーテルは用手困難群に該当した.一方,増粘半固形については20Frチューブ接着型のみ用手困難群に該当し,他のカテーテルは用手不適群に該当した.寒天による半固形化は付着性を高めることなくゲル化が得られる事から,その注入はカテーテルの種類さえ選択すれば120mmHgの圧でも可能であり,用手注入を行うにあたって適した形状の栄養材であるものと考えられた.また,使用するカテーテルについては20Frのチューブ型が推奨される形状と考えられた.そして,粘度増強による半固形については,用手注入は困難であることが示唆された.
実験2として行った,加圧バッグを用いた注入を想定した加圧注入実験においては,寒天半固形については,全てのカテーテルがバッグ適切群に属した.一方,増粘半固形については20Frチューブ接着型のみバッグ適切群に該当し,他の20Frカテーテルはバッグ困難群,12Frチューブ接着型がバッグ不適群に該当した.この結果から,加圧バックを使用した注入を行う際は,注入する半固形栄養材が寒天半固形の形状ならばカテーテルの形状を選ばず,その実施が可能であることが考えられた.また,半固形栄養材が増粘半固形の形状の場合,20Frチューブ接着型がその注入に適しており,12Frの外形のカテーテルは避けるべきと考えられる.
現在,数多くの半固形栄養剤が市販され,半固形栄養による栄養管理を行うにあたり,その選択肢は増している.しかし,半固形ならば全ての形状が効果があるというわけではなく,現状,その効果が示唆されているのは,今回の検討で使用されている寒天半固形の形状と増粘半固形の形状となる.それらの物性の半固形栄養を使用する際は,今回の検討で示したのごとく,その物性により,注入に適したカテーテル,注入が困難なカテーテル,注入に適さないカテーテルがある.そのため,半固形栄養投与法を実施する際には,注入する半固形栄養剤の形状に応じて,適切なカテーテルを選択することにより,よりよい看護介護環境を提供することが望まれる.
【参考文献】 |
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