|
|
|
|
|
2)下痢/逆流への対策 B半固形化 |
ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
|
臨床看護 3月増刊号 へるす出版;2012,605-608. |
|
|
|
|
|
【Point】
@ |
半固形栄養剤とは,栄養剤の流動性を低下させる事により,下痢/逆流への対策となる物性変更である. |
A |
半固形栄養剤は,液体を半固形化して実施する方法と,あらかじめ半固形化されている製品を利用する方法がある. |
B |
市販化されている半固形化製品には,有効とされている物性のものもあるが,多くは有効とされる物性に満たないものであり注意を要する. |
|
|
1.下痢,胃食道逆流の原因と経管栄養剤の物性との関わり
経管栄養症例における下痢,胃食道逆流には様々な原因があげられる.下痢に関しては,クロストリジウム・ディフィシル関連性の下痢,経腸栄養剤の浸透圧の問題,腸内細菌叢の問題など様々な要因が考えられる(1).胃食道逆流に関しても,食道ヘルニアの存在,胃排出遅延,そして消化管の通過障害などの要因も考えなければならない(2).経管栄養症例における下痢および胃食道逆流においては,それら全ての原因疾患を除外した上で,経腸栄養剤の物性の問題についても考慮すべきである.経腸栄養剤は,かつて主として行われていた経鼻胃管において,その投与を可能にするために液体の物性である必要があった.一方で通常,半固形状の食品を摂取する生体において,全ての栄養を液体の物性で摂取する経腸栄養投与法は,非生理的な栄養管理法であり,様々な問題の原因となってきた.この最たる問題が,下痢および胃食道逆流である(3).
|
図1 液体栄養の問題点
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002より転載
|
2.栄養剤の半固形化とは
半固形とは液体と固体の両方の属性をもつ物性で,液体より固体に近い状態である.栄養剤の半固形化とは,栄養剤の流動性を低下させることにより,胃内への注入後に胃内貯留を安定させ,液体栄養の様々な問題を克服するために発案された食品物性の変更方法である(4).胃はその機能として,摂取した食品を噴門および幽門という生理的狭窄部により,胃内に一定時間貯留しつつ時間をかけて内容物を腸に移送する機能がある.しかし,全ての栄養を液体で投与する栄養投与法においては,その流動性の高さから噴門および幽門の通過性が高く,胃食道逆流や下痢の原因となり得る.栄養剤の半固形化においては,栄養剤を我々が通常摂取している食品に類似した物性にすることにより,噴門および幽門の通過性を低下させ,液体栄養でみられる胃食道逆流や下痢を起こしにくくする事を目的としている.
3.栄養剤半固形化の効果
経管栄養管理を行う上で,下痢は頻度の高い合併症である.前述のごとく下痢が発生した場合は,その原疾患につき十分な鑑別診断を行った上で,明らかな基礎疾患を除外できた場合は,栄養剤の物性そのものについても検討すべきである.経鼻胃管管理で用いられる液体栄養剤は,流動性が高いため幽門の通過性が高く,下痢や食後高血糖の原因となることが知られている(5).一方で,栄養剤を半固形にすることにより,腸管通過時間が緩徐になり下痢が減少することが考えられ,臨床的にもその効果が報告されている(6)(7).
胃食道逆流に対しての半固形栄養剤の効果として,筆者は17名の胃瘻患者に対して,液体栄養剤を使用している状態と半固形栄養剤を使用した状態での,胃食道逆流の変化について報告をしている(8).この報告においては液体栄養で管理されている状態で,CT画像下で胃食道逆流を認めた症例が17名中10名であったのに対し,寒天による栄養剤の半固形化により,その頻度を17名中4名と統計学的有意差を持って減少できた(表1).また西脇らは,シンチグラフィーを用いた核医学的検査により,寒天による半固形化の効果を検証しているが,同様に有意な差を持って,その効果を実証している(9).
|
表1 胃瘻患者における液体栄養と半固形化栄養の胃食道逆流の差
|
胃食道逆流あり |
胃食道逆流なし |
液体栄養剤 |
10名(58.8%) |
7名(41.2%) |
半固形栄養剤 |
4名(23.5%) |
13名(76.5%) |
Mc Nemar’s test P=0.014 |
4.生体にとって有効な半固形化の物性について(図2)
半固形化とは液体の流動性を制限したものであるが,その程度によっては効果が得られない状態もある.よく誤解をされることであるが,単に半固形化を行えば何でも有効ということではなく“生体にとって有効な半固形化の物性をもって初めて効果が得られる”という点を知っておくべきである.筆者は,その物性の一つとして,寒天を用いて栄養剤をゲル化し“重力に抗してその形態が保たれる物性”としたものを考案し,その有効性について報告している(4).また合田らは“栄養剤の粘度を調整し20,000Ps・s以上としたもの”が有効な物性であると報告している(10).しかし実際に市販化されている半固形経腸栄養剤のほとんどが,その物性に達しておらず,憂慮すべき問題といえる(11).
|
図2 有効とされる半固形栄養の物性
|
|
|
寒天による半固形化 |
|
粘度増強による半固形化 |
→重力に抗してその形態が保たれる物性 |
|
→栄養剤の粘度を20,000Ps・s以上としたもの |
|
5.栄養剤半固形化方法の実際(図3)
半固形化栄養剤の入手する方法としては,既存の液体栄養剤に添加ないしは調理を行って半固形化する方法と,あらかじめ半固形化した製品を購入して使用する方法がある.液体栄養剤を粘度増強剤により半固形化する際は,調理の工程が不要なため調整自体は容易である.しかし,半固形化調整の際は,実際に効果のある物性である20,000Ps・sに達しているかの確認が必要である.
一方,筆者は栄養剤の半固形化の方法として,寒天による調理法を実践している.その具体的な調理の方法を図3において示すが,その工程は簡便で短時間に調理が可能である.調理の際に気をつけるべき事は,寒天の溶解にあたっては冷水に寒天を入れ撹拌の後に加熱する事と,加熱後の煮沸時間は最低2分以上かけて十分溶解する事の2点である.必要とする寒天の量は,調理する栄養剤と希釈水の総量の0.5%を目安に,重力に抗して形態が保たれる形状となる様に調整を行っている.
市販化されている半固形栄養剤は,調理や調整の必要が無く簡便に使用が可能である.しかし,多くの製品は有効とされる半固形の物性に達しておらず,その使用にあたっては有効とされる物性に達している製品を使用する事が推奨される.本稿執筆時である平成24年1月において,有効とされる物性の半固形栄養剤としては,寒天を使用したものとして大塚製薬工場のハイネゼリーと,トロミ剤による粘度増強を行った製品として株式会社テルモのテルミールPGソフトが挙げられる.
|
図3 寒天による半固形化経腸栄養剤調理の実際
|
|
|
→ |
|
→ |
|
→ |
|
→ |
1. 栄養剤を加温 |
|
2. ボールなどに 栄養剤を注ぐ |
|
3. 水に寒天を入れ撹拌 |
|
4. 加熱して寒天を溶解 |
|
|
→ |
|
→ |
|
→ |
|
|
5. 寒天溶液と栄養剤を混合 |
|
6. シリンジに
経腸栄養剤を吸引 |
|
7. 口の部分をラップで封印 |
|
8. 静置して凝固 |
|
蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践,第1版,日総研出版,名古屋,2004,P122より改変し転載 |
|
6.半固形栄養剤の投与の実際(図4)
半固形栄養剤の投与の実際を,寒天による半固形栄養剤を用いて紹介する.市販化された半固形栄養剤の投与は至って容易で,栄養剤の容器を胃瘻カテーテルに接続し,容器を用手的に絞り込めば注入が可能である(図4).ただ粘度増強による半固形の場合は,用手的に注入が困難な場合もあり,その際は注入用具を使用して注入を行う.注入の後は白湯の注水によりカテーテルの洗浄を行うが,寒天を使用した半固形栄養剤の場合,粘度増強のものに比較してカテーテルへの付着性が少ないため,少量の注水でカテーテルの洗浄が可能である(12).
|
図4 半固形栄養剤の注入の実際
|
7.いま改めて考えたい半固形栄養剤使用開始のタイミング
本稿とにおいては,下痢/胃食道逆流の対策としての半固形化について記述した.前述のごとく,液体栄養剤は,その物性が生態にとって有効であるがために液体であったのではなく,経鼻胃管で使用する際は液体でなければならなかったためである.一方,半固形栄養剤の注入が可能である胃瘻においては,あえて液体栄養剤を使用する理由は希薄といえる.よって筆者は,胃瘻栄養の症例において,液体栄養剤の使用による合併症を起こした時の対策として,半固形化があるとは考えてはいない.経管栄養症例が半固形栄養剤を使用できる状況にあれば,合併症を予防する意味で,あらかじめ初めから半固形栄養剤を選択すべきと考えている. |
【文献】
|