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経腸栄養へのアプロ−チ E.栄養剤の固形化 |
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ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
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在宅栄養管理 −経口から胃瘻・静脈栄養まで−,南山堂,2010;123-128. |
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T.栄養剤の形状について考える |
1.多くの栄養剤が液体である理由
従来より使用されている栄養剤の多くは,粉末を水に溶解して液体としたもの,ないしは始めから液体の形状となっている.これは経皮内視鏡的胃瘻造設が普及する以前に主として使用されてきた経鼻胃管において,その滴下注入を可能とするために液体でなければならなかったためであり,液体が生体にとって有益な形状であったためではない.しかし,栄養を主に固形物として摂取する生体において,全ての栄養を液体で摂取するという非生理的な栄養投与法は,様々な問題の原因となる.
2.液体栄養剤の問題点(図1)
胃には食物を一定の時間,胃内に留め内容物を少しずつ腸に移送するという生理作用がある.この機能を果たすために胃は,噴門という生理的狭窄部により胃食道逆流を防ぎ,幽門という生理的狭窄部により内容物の通過を調節している.しかし液体は,生体が食物を咀嚼嚥下した胃内容物に比較して流動性が高く,これらの生理的狭窄部位の通過が容易となる.その結果,液体のみを投与する経管栄養投与法は,胃食道逆流や下痢の原因の一つとなるものと考える.またPEG症例においては,瘻孔部分の通過性が亢進すれば栄養剤リークの原因ともなる(1).
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図1 液体栄養の問題点
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002より転載
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U.栄養剤の固形化とは |
1.半固形化栄養と固形化栄養
液体栄養の流動性による問題を軽減する目的で,近年,半固形栄養という概念が提唱されている.半固形栄養とは“液体と固体の両方の物性を持ち,液体より固体に近い半流動体であり,栄養の問題点を軽減すべく,粘度や硬度を保持させたもの”と定義づけられ(2),多くの場合,栄養剤の粘度を増強しその効果を得ようとするものである.
一方,固形化栄養とは半固形栄養の範疇に該当する概念ではあるが,粘性のみならず弾性を持たすことにより,その効果を得ようとするものであり“栄養剤をゲル化し重力に抗してその形態を保つ粘弾性を持った物性”と定義されている(1).重力に抗してその形態を保つため,注入前の外見はプリン状となり,胃内へ注入後は粒状となって生体が食物を咀嚼嚥下した胃内容物に近似した形状となる.
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図2 半固形化栄養と固形化栄養
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2.固形化栄養の効果
栄養剤の固形化の目的は,栄養剤のゲル化により流動性を低下させ,噴門,幽門,そして瘻孔部の通過性を低下させることである.噴門の通過性が低下すれば,胃食道逆流が減少し,嚥下性肺炎や嘔吐の減少する(3).幽門の通過性が低下すれば,栄養剤の胃内停滞時間が延長して下痢や食後高血糖の改善が得られる(4).瘻孔通過性が低下すれば,瘻孔自然拡張に伴う栄養剤リークの症例において,栄養剤漏れの改善が期待できる(5).
液体経腸栄養剤においては嘔吐下痢の防止のために,ギャジアップをした状態で,緩徐な速度での滴下注入を行う.一方,栄養剤の固形化は嘔吐や下痢に対し効果があるため,栄養剤は数分間かけ一括注入することが可能となる.これにより座位保持が不要になるとともに体位交換の継続出来るようになり,褥瘡の予防ないし改善に効果があるのみならず,見守り時間の短縮により介護者の負担が軽減する(6)(7).
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図3 固形化栄養の特徴
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より改変し転載
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3.栄養剤固形化の適応
胃瘻の症例で何らかの原疾患なく,胃食道逆流,下痢,栄養剤リークがあり,液体栄養による合併症と考えられる例に関しては,積極的に導入を検討する.また糖尿病がある症例に対しても,食後血糖の改善の効果を得るために導入を検討すべきといえる.
一方で,栄養剤が液体である理由も考え直すべきとも考える.液体栄養の利点は,経鼻胃管や経胃瘻的空腸栄養チューブなどの細径の栄養管からの滴下注入が可能であることであるが,胃瘻においてはその利点は該当しない.胃瘻の様に固形化栄養の注入が可能な場合において,固形化栄養が液体栄養に比較して生理的な形状である分,非生理的な形状であるのみならず,注入にも時間を要する液体栄養を選択する理由は,希薄であると考えざるを得ない. |
V.固形化栄養の実践
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1.固形化栄養におけるゲル化の方法
栄養剤の固形化にあたって筆者は,寒天を用いてゲル化を行っている.寒天は安価、入手が容易、調理が容易、硬度調節が容易、低カロリー、付着性が少ない、そして体温で溶解しない等の栄養剤の固形化を行うにあたり多くの利点をもつ.さらに寒天は,食物繊維の健康への好影響から特定保健用食品として認定を受けており,WHO食品規格部会食品添加物専門家委員会でも1日摂取許容量について“制限無し”と安全性が確認されている.また胃瘻からの投与において,付着性が少ない物性のため注入が容易のため,経腸栄養の固形化剤として最良な選択肢と考えている.
2.市販品を使用するか調理を行うか.
A.製品化されている固形化栄養
現在市販化されている半固形化栄養の中で,寒天を用いてゲル化を行い,重力に抗してその形態を保つという固形化栄養の定義を満たした唯一の商品がハイネゼリーR(大塚製薬工場)である.本製品の場合,調理の必要はなく投与にあたっても専用の注射器などは必要としない.そのため寒天調理が出来ない施設などでは有用な製品といえる.ただし本製品のみでは充分な水分の補給が出来ないため,別途に水分の補給が必要となる.
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図4 市販されている固形化栄養:ハイネゼリー
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B.調理により実施する固形化栄養
粉末寒天を利用し固形化栄養を調理することも可能である.この場合,必要な水分もあわせて固形化できるため,液体の注入が不要となる.またコストも安価であり,栄養剤も使用したい製品を使用することが出来る.一方,調理をする手間はあり,またプラスチックシリンジなどの専用の注入容器が必要になる.
3.固形化栄養の調理法(図5)
寒天を用いた固形化栄養の調理は,10分足らずで実施が可能であり手技も容易である.調理は水に寒天を入れ撹拌し,2分間煮沸溶解して寒天溶解液を調理し,それを栄養剤と混合し静置保存するのみで完成する.寒天はで固形化する場合,室温で静置するのみで凝固が得られるが,作り置きする際は冷蔵保存が必要である.寒天溶解液の量は,“投与症例の必要水分量”から“投与症例が栄養剤で得られる水分量”を除いた量として計算する.寒天の濃度は栄養剤と寒天溶液を合わせた全水分量の0.5%が目安だが,栄養剤の内容で硬さは変わるため,若干の調節が必要になる場合がある.
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図5 固形化経腸栄養剤調理の実際
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@ 栄養剤を加温 |
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A ボールなどに
栄養剤を注ぐ |
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B 水に寒天を入れ撹拌 |
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C 加熱して寒天を溶解 |
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D 寒天溶液と栄養剤を混合 |
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E シリンジに
経腸栄養剤を吸引 |
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F 口の部分をラップで封印 |
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G 静置して凝固 |
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蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践,第1版,日総研出版,名古屋,2004,P122より改変し転載 |
4.固形化栄養の投与法
投与にあたっては栄養剤が冷蔵保存されている場合は,あらかじめ人肌程度に加温し注入を行う.注入は数分前後で行い,一回の注入量は500ml程度を目安にする.注入時は症例の状態を慎重に観察し,嘔気がある場合は注入速度を緩徐にするか,一旦中断して時間をおいて注入するようにする.嘔気により必要量が注入できない場合は,1日の注入回数を増やす事により1回の注入量を減らして対処を行う(8).
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図6 固形化栄養剤投与の実際
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文 献 |
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