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経腸栄養剤の固形化 |
蟹江治郎*
* ふきあげ内科胃腸科クリニック |
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経腸栄養バイブル 第一版 日本医事新報社 2007;
104-107. |
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要点整理 |
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栄養剤を固形化し“重力に抗してその形態が保たれる硬さとしたもの”を固形化栄養剤と呼ぶ |
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経腸栄養剤の固形化により,胃食道逆流,栄養剤リーク,下痢の改善が得られる |
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経腸栄養剤の固形化にあたっては,粘度を増強することなく固形化をすることが重要で,
固形化剤としては寒天が最も適している. |
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寒天による経腸栄養剤の固形化は,調理,注入とも容易で簡便に実施が可能である. |
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はじめに |
現在,経管的に注入されている経腸栄養剤の多くは液体となっている.これは過去に経管栄養投与法として主流であった経鼻胃管において,その栄養管からの滴下注入を可能とするため液体である必要があったためであり,医学的に液体が優れているという事ではない.実際,固形物を主として摂取している生体にとって,液体のみで全ての栄養をまかなうという事は様々な問題の原因となる.
最近の経管栄養投与法においては,長期間の経管栄養管理においてその優位性が明らかになっている内視鏡的胃瘻造設術percutaneous
endoscopic gastrostomy(以下PEG)が,経鼻胃管に置き換わり主たる経管栄養投与法となっている.筆者はPEGで使用されるカテーテルが,経鼻胃管の栄養管に比較して太くて短い点に着目し,経腸栄養剤を予め流動性をなくして固化(以下ゲル化)した状態にした後に,PEGカテーテルより注入する“固形化経腸栄養投与法”を提唱している.
本稿においては固形化経腸栄養投与法の意義,調理法,投与法などに触れ,本法の実践に役立つように解説を行った. |
1.経腸栄養剤固形化の意義 |
液体経腸栄養剤には,液体であるがゆえの様々な問題点がある.固形化経腸栄養は栄養剤のゲル化によりそれらの問題を克服しようという方法である. |
A.経腸栄養剤が液体であることによる問題点(図1) |
我々が日常的に摂取する食物は,多くの場合固形物であり,それを咀嚼嚥下して胃内に流入する.一方,経腸栄養剤の多くは経管的に滴下投与をするため液体となっている.しかし液体は固形物に比較して流動性が高く,全ての栄養を液体で摂取する従来の経管栄養投与法には,様々な問題も伴っている.胃は噴門と幽門という生理的狭窄部位があるため,食物が胃内に一定時間保持される.しかし流動物はその狭窄部位の通過が容易のため,胃食道逆流や下痢の原因となる.またPEG患者においては,カテーテル挿入部からの栄養剤漏れである栄養剤リークの原因ともなる(1). |
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B.固形化経腸栄養剤とはなにか |
筆者は栄養剤のゲル化を行うにあたり,その栄養剤が経管的に注入が可能であり,かつ注入後の胃内において咀嚼嚥下した食物と同等の状態になることを目標とした.その様な状態にするためには単に粘度を増すなど流動性を失わせるのみでは不充分である.筆者は固形化経腸栄養剤の定義を,栄養剤をゲル化し“重力に抗してその形態が保たれる硬さとしたもの”とし評価を行っている.実際の調理にあたっては寒天を利用しゲル化を行っている.寒天によってゲル化した栄養剤は,PEGカテーテルからの注入後は胃内残渣と同様の性状となり,生理的な状態が得られるものと考えている. |
C.経腸栄養剤の固形化によって得られる効果(図2) |
経腸栄養剤の固形化は,生体が経口的に摂取する食物と同等の形態とした栄養剤を注入することにより,液体栄養剤の問題点を改善する事を目的としている.固形化経腸栄養剤は液体に比較して流動性が低下するため,噴門部の通過性が低下して胃食道逆流の頻度が減少する(2).これにより嚥下性呼吸器感染症が減少するとともに,一括注入による介護負担の軽減が得られる.また栄養剤の固形化は胃内において生理的な形態となるため,液体に比較して胃内停滞時間が延長し,下痢や食後血糖の改善効果も得られる(3).栄養剤リークのある症例に対しては,固形化により栄養剤の流出が改善する症例もある(4). |
図2 固形化栄養剤の効果
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より改変し転載 |
2.固形化経腸栄養剤の調理法 |
栄養剤の固形化にあたっては,胃食道逆流発生時の誤嚥を予防するため,粘度を増さずに固形化が得られる寒天を利用して調理を行う. |
A.液体栄養の固形化剤の選択(表1) |
経腸栄養剤の固形化を行うゲル化剤は,安価で安全な食品であり,入手,調理,硬度調節が容易で,粘度を増さずに固形化が得られるものが適している.粘度増強剤によるゲル化は固形化経腸栄養と同様の効果が期待されるが,胃食道逆流が発生した場合には付着性が高く,窒息の危険が懸念されるため注意を要する.筆者は様々なゲル化剤の中で,日常の調理で使用される粉末寒天が本法に最も適しているものと考え使用している.また最近では固形化調理が出来ない施設などのために,栄養剤のゲル化剤も市販されている. |
表1 固形化剤の比較
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粉末寒天 |
ゼラチン |
トロミ剤 |
市販ゲル化剤 |
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重力に抗し形態を保持 |
○ |
○ |
× |
△〜○ |
コスト |
○ |
○ |
× |
×× |
入手が容易 |
○ |
○ |
○ |
○ |
調理が容易 |
○ |
○ |
調理不要 |
調理不要 |
硬度調節が容易 |
○ |
○ |
× |
△ |
粘度を増さない |
○ |
× |
× |
×〜△ |
体温で溶解しない |
○ |
× |
○ |
○ |
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B.固形化栄養調理の実際(図3) |
寒天による固形化調理は容易であり,短時間での実施が可能である.通常,経腸栄養剤は1mlあたり1Kcal以上の濃度があるため,経管栄養の実施にあたっては,経腸栄養剤の投与量と同量前後の水分補給が必要になる.固形化調理にあたってはこの補水を寒天溶液とし,栄養剤と撹拌して注入容器(カテーテルチップなど)に注入して一括して固形化を行う.粉末寒天の溶解にあたっては,冷水に寒天を入れて馴染ませた後に,必ず2分間程度の時間をかけて煮沸し,充分な溶解が得られるようにする.固形化経腸栄養剤に必要な重力に抗してその形態が保たれる硬度を得るとともに、容易に注入か可能となる寒天の量は,栄養剤と補水を混合した液の100mlあたり0.5g程度が目安であるが栄養剤の組成により適宜増減するようにする. |
図3 固形化栄養調理の実際
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@ 栄養剤を加温 |
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A ボールなどに
栄養剤を注ぐ |
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B 水に寒天を入れ撹拌 |
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C 加熱して寒天を溶解 |
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D 寒天溶液と栄養剤を混合 |
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E シリンジに
経腸栄養剤を吸引 |
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F 口の部分をラップで封印 |
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G 静置して凝固 |
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蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践,第1版,日総研出版,名古屋,2004,P122より改変し転載 |
C.固形化栄養調理の注意点 |
粉末寒天を溶解する際,熱湯に直接寒天を入れると寒天がダマになり,充分な溶解が得られないため注意を要する.また栄養剤が冷却した状態で寒天溶液と混合すると,不均一なゲル化となるため,栄養剤はあらかじめ人肌程度に加温しておくとよい.また栄養剤に含有する乳脂肪分が多いと,ゲル化が得にくい場合もあり,この様な場合は寒天の量を増やすとよい.固形化栄養の実施にあたっては,必ず予め栄養剤の固形化調理を行って,適切な寒天の量を確認しておくことが必要である.また寒天は室温に静置するのみで固形化が得られるが,まとめて作り置きする際は衛生上の観点から冷蔵保存が望ましい. |
3.固形化経腸栄養剤の投与法 |
A.注入に用いる容器 |
現在,使用される多くの経腸栄養剤は液体であるため,固形化栄養を行う場合は注入容器を自前で用意する必要がある.筆者は通常プラスチックシリンジを用いて注入を行っているが,食器であるドレッシングポットを使用する施設もある.プラスチックシリンジの場合は充分なゲル化を行っても注入は容易であるが,多くの場所を占有するという問題がある.ドレッシングポットの場合,場所の占有はプラスチックシリンジより少ないが,注入の際に相当の握力を必要とするため,充分な硬度を持たせられないという問題がある.何れにせよ予め固形化された流通製品が無いため,注入にあたっては各施設での工夫を要するのが現状であろう. |
B.固形化栄養投与の実際(図4) |
固形化栄養の投与にあたっては,特殊な操作はなく容易に実施が可能である.投与にあたっては,まず注入容器をPEGカテーテルに接続して接続部分をしっかりと把持し,患者の状態を観察しつつ数分程度かけて注入を行う.1回の注入量は500mlを目安に増減している.一日の投与回数は食事同様3回が基本だが,1回の注入量を減らしたい場合は数回に分けて注入する場合もある.注入後は少量の空気でフラッシュを行い,基本的には液体は注入しない.なお薬剤に関しては,固形化調理により組成の変化を来す可能性があるため,固形化調理は行わず従来通りの方法で投与を行う. |
図4 固形化経腸栄養剤の投与法
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C.固形化栄養投与の注意点 |
栄養剤の注入が速すぎたり1回の注入量が症例にとって多い場合は,注入中に嘔気を来すことがある.そのため注入中は症例の状態を充分観察しつつ注入を行う必要がある.そのため仮に嘔気が出現した場合は,先ず注入速度を確認し,問題がない場合は1回の注入量を減らし注入回数を増やすと良い.また体調が不良な場合も嘔気を来すので,全身の観察も必要である.
固形化栄養の調理の際,1日分をまとめて調理すると作業効率は上がるが,衛生面での配慮が必要となる.栄養剤を作り置きするときは冷蔵保存による管理が必要になるが,その際は注入前に予め室温に戻しておく必要がある. |
4.経腸栄養剤の固形化を実施のための業務の流れ |
病院や介護施設において固形化栄養の調理は調理室で行い,給食同様に食事時に配膳を行う.病棟において注入は看護師が行い,シリンジを外した状態で調理室へ下膳する.シリンジは特殊な消毒は行わず,食器として扱い食器洗浄機で洗浄し再び使用する.病棟で固形化調理を行う施設もあるが,衛生面の問題を考えると,可能な限り調理室での調理が望ましいといえる. |
Q&A そこが知りたい! |
Q. |
寒天調理が煩雑なのでトロミ剤で固形化してはダメですか? |
A. |
粘度増強によって得られるゲル化の場合,寒天と同様の効果は期待できます.粘度増強剤の場合,一旦嘔吐した場合付着性が強く,窒息する可能性が懸念されます.固形化経腸栄養の場合,粘度を増強することなくゲル化を得ることが重要と考えます. |
Q. |
ボタン型のPEGカテーテルでも注入は可能ですか? |
A. |
ボタン型の場合,接続部が非常に狭い製品があります.その場合注入は困難となり注意が必要です.固形化栄養の場合,予め試験的に調理が必要ですが,その際に注入の可否を確認するのがよいでしょう. |
Q. |
プラスチックシリンジが数日使っただけで動きにくくなってしまいます. |
A. |
経腸栄養剤の固形化経腸栄養剤の固形化シリンジもメンテナンスが必要です.固形化剤を調理注入する際は,ゴムの部分にサラダオイルなど食用油を塗るとよいでしょう. |
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文 献 |
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