内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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PEGカテーテル逸脱(バンンパー埋没,カテーテル抜去)の予防と対応
ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎
看護技術 2004;50(7):29-32

T はじめに
  近年,人口の高齢化に伴い,脳卒中後遺症や痴呆により経管栄養投与法を必要とする症例が増加の一途をたどっている.経管栄養投与法の経路として,従来は経鼻胃管を利用した投与法が主たる方法であったが,PonskyおよびGaudererにより内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、以下PEG)が報告(1)された後は,この方法が安全で簡便であることから経鼻胃管に置き換わる方法として急速に普及している.しかしPEGには経鼻胃管では見られない特有な合併症があり,その一つに不適切なカテーテル固定に伴って発生する“バンパー埋没症候群”がある.また不意なカテーテル逸脱である“事故抜去”についても特有な対応が求められる.本章ではバンパー埋没症候群と事故抜去の概要を説明し,これらの問題して通して考えるべき適切な瘻孔管理について述べる.

U 合併症の理解に必要な胃瘻の基本知識
 1.PEGの定義とPEGカテーテルの構造(図1)
 PEGとは内視鏡を利用して体表面から胃に到達するカテーテルを挿入し,胃へ通じる瘻孔を形成する内視鏡手技である.カテーテルは主として栄養投与目的で留置されるが,非可逆的な腸閉塞のある症例ではイレウス管として造設されることもある.PEGカテーテルはその位置を保持するために2つの固定板を持ち,体表面に位置する固定板は“体外固定板”,胃内に位置する固定板は“胃内固定板”といわれる(2).体外固定板の役割はPEGカテーテルが蠕動により腸へ移動することを防止する事であり,胃内固定板はカテーテルの抜去を防止する役割を持っている(3).

図1 PEGカテーテルと2つの固定板
PEGカテーテルと2つの固定板
 2.胃瘻造設から瘻孔の形成まで(図2)
 PEGとは内視鏡を利用して,胃へ交通する瘻孔を造設する手技である.しかし,この瘻孔は手術手技により直接造られるものではない.PEGにおける瘻孔は手術によりカテーテルを留置し,このカテーテルの体外固定板と胃内固定板よる胃壁と腹壁の密着を保持することにより,2週間程度の時間を経て完成するものである(4).つまり胃内固定板と体外固定板は,カテーテルの位置を保持する役割に加え,術後早期は瘻孔を形成するという役割も持ち合わせている.

図2 胃瘻造設から瘻孔の形成まで
胃瘻造設から瘻孔の形成まで
 3.術後の適切な瘻孔管理とは(図3)
 PEGにおける瘻孔形成は胃壁と腹壁の密着が必要である.この密着は体外固定板と胃内固定板により,胃壁と腹壁をサンドイッチ状に挟む(はさむ)事により得られる.この挟む力はPEG造設直後は体外固定板が若干皮膚に食い込む程度の強さで固定を行う.しかしこの状態が継続すると,2つの固定板の圧迫によりカテーテル挿入部の阻血が生じ合併症の原因となる.そのため阻血の防止を目的として,術後1日目と3日目に体外固定板の位置を変え,カテーテル挿入部への圧迫を緩和するようにする(5)(6).

図3 術直後の体外固定板管理法
術直後の体外固定板管理法

V バンパー埋没症候群の予防と対応
 1.バンパー埋没症候群とはなにか
 胃内固定板と体外固定板の挟む力が強いと,カテーテル挿入部に阻血領域が生じる.この状態が継続すると,カテーテル挿入部の圧迫壊死が生じて組織が脆弱になり,徐々に胃内固定板が胃-腹壁に埋没することになる(写真1).固定板は別名でバンパーともいわれ,この様に固定板の圧迫壊死により埋没した状態を“バンパー埋没症候群”という(7)(8)(9).胃瘻造設直後は,体外固定板と胃内固定板により胃壁と腹壁を密着させる必要がある.しかし,瘻孔形成が完了した後は,固定板による瘻孔圧迫を避ける目的で,固定板の間隔を大幅に緩める必要がある.この管理を怠るとカテーテル挿入部の血流障害が生じ,バンパー埋没症候群が発生する(図4).
本症は埋没が軽度の場合は無症状で経過する.しかし,埋没がカテーテル先端におよぶと栄養剤の胃内への注入が困難になり,栄養剤注入時にカテーテル挿入部周囲からの栄養剤漏れ現象が出現する.埋没がさらに高度になると,胃内固定板が体表面から目視可能となり,最終的にはカテーテルが逸脱してしまう事もある.

写真1 バンパー埋没症候群
バンパー埋没症候群
右の写真は正常に留置がされている状態の胃内固定板,左がバンパー埋没症候群となっている胃内固定板である.バンパー埋没症候群では固定板(=バンパー)が胃-腹壁へ埋没している.

図4 バンパー埋没症候群の発生機序

バンパー埋没症候群の発生機序
(蟹江治郎:バンパー埋没症候群,胃瘻PEGハンドブック,第1版,東京,医学書院,55-57,2002.より一部改変)
 
2.バンパー埋没症候群の対処法と予防法

 胃内固定板の埋没が軽度ならば,カテーテル牽引による経皮的抜去が可能である.しかし高度の埋没になると,皮膚切開による小手術での摘出が必要となる.何れの場合にしても,瘻孔は使用不可能な状態であり,胃瘻栄養は中断せざるを得ない.予防は固定板によるカテーテル挿入部の圧迫を避ける事で,体外固定板は体表面から1〜2cm程度離れた場所で固定する様にする.ボタン式カテーテルの場合は,体外固定板の位置変更が不可能なため特に慎重な観察を要する.筆者の場合,ボタン型カテーテルの適応となる症例においても,瘻孔が完成するまでは体外固定板の位置調整が容易なチューブ型で管理を行い,初回交換後からボタン型への変更を行って固定板による圧迫を防止している.また固定板による圧迫の有無を確認する方法として,定期的にチューブの自由な回転を確認する方法が提唱されている(10).(図5)

図5 カテーテルの回転によるバンパー埋没症候群の予防
カテーテルの回転によるバンパー埋没症候群の予防
(蟹江治郎:PEG挿入部のケア,胃瘻PEGハンドブック,第1版,東京,医学書院,114-116,2002.より一部改変)

W カテーテルの逸脱(事故抜去)の予防と対応
 1.カテーテルの逸脱(事故抜去)@:術後早期の場合
 PEGカテーテルが患者の牽引や胃内固定板の破損などの理由で,不意に抜去逸脱する状態を“事故抜去”という.瘻孔が完成する以前に事故抜去が発生すると,胃穿孔と同様の状態となり,胃内容物が腹腔へ流出すると腹膜炎を発症する恐れがある.そのため瘻孔の存在が明らかでない術後早期に事故抜去が発生した場合は,経鼻胃管などにより胃の減圧を行いつつ厳重な観察を行い,腹膜炎の徴候を認めたときは,緊急で開腹腹腔内洗浄ドレナージを行う.事故抜去の原因として高頻度に遭遇するのは,患者自身の牽引によるものだが,痴呆などにより事故抜去のおそれのある症例に対しては,腹帯の装着やボタン型による造設などを行い,カテーテルの牽引が生じにくい環境を考慮する様にする.また筆者は瘻孔完成前事故抜去時の腹膜炎の防止策として,経皮胃壁固定術(胃壁と腹壁との結紮固定)を併用したPEG造設術を推奨している(11).
 2.カテーテルの逸脱(事故抜去)A:瘻孔完成後の場合
 瘻孔は生理反応で常に閉塞する様に作用している.そのため瘻孔完成後に事故抜去が発生し,発見が遅れると瘻孔が閉鎖する恐れがあり注意を要する.よって事故抜去の発見時は速やかにカテーテルの再挿入が必要になるが,瘻孔の狭窄が始まっている場合は,より細径のカテーテルに変更して挿入を試みるか,先端が紡錘形のため挿入が容易な尿道用カテーテルを代用して挿入を試みるのがよい.カテーテル挿入が困難なほど瘻孔が狭窄している場合は,狭窄した瘻孔よりPEG造設用のガイドワイヤーを挿入し,Pull/Push式胃瘻造設法に準じ内視鏡を利用してカテーテルを経口的に挿入する.バルーン式PEGカテーテルを使用の際は,バルーンの水が自然に抜けるため,定期的に水の量を確認し,水が抜けている場合は水の補充を行い事故抜去を防止する必要がある.

X おわりに
  合併症は時に偶発症と表現される.しかしPEGの合併症の中には不適切な管理により頻度が増加する合併症もあり,この様な合併症は偶発症とは言い難い.PEGは経鼻胃管に代わる経管栄養投与法として普及しつつあるが,経鼻胃管にはない特有の管理法が必要である.またPEGは経鼻胃管に比較して簡便で安全な経管栄養投与法とされるが,それはPEGに対しての適切な管理法を習熟した上での話であり,その管理法を怠ったり誤ったりすれば危険で合併症の多い方法に一変する.そのためPEGに携わる医療従事者は,その責任において,この新しい経管栄養投与法の新しい知識を充分学習した上で管理を行うべきといえる.

引用・参考文献
(1) Gauderer MWL et al: Gastrostomy without laparotomy: A percutaneous technique. J Pediatrsurg, 15: 872-5, 1980.
(2) 蟹江治郎:経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を用いた栄養管理について - 前編・内視鏡的胃瘻造設総論 -,訪問看護と介護,13(4):299-307,1998.
(3) 蟹江治郎:在宅管理で知っておきたい慢性期合併症,クリニカ,27:182-187,2000.
(4) 嶋尾仁・他編:内視鏡的胃瘻造設術-手技から在宅管理まで-,第1版,永井書店, 2001
(5) 蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック,第1版,医学書院,2002.
(6) 嶋尾仁・他編:PEG造設患者のケアマニュアル,第2版,医学芸術社,39-42,2002.
(7) Fireman Z et al: The buried gastrostomy bumper syndrome, Harefuah, 131: 92-93, 1996.
(8) Gawenda M et al: The "buried bumper" syndrome - a rare complication of percutaneous endoscopic gastrostomy -, Chirurg, 67: 752-753, 1996.
(9) Klein S et al: The "buried bumper syndrome": a complication of percutaneous endoscopic gastrostomy, Am J Gastroenterol, 85: 448-451, 1990.
(10) 小川滋彦:在宅PEG管理のすべて@胃瘻の意義と手技・管理,日本醫事新報,4109:6-10,2003.
(11) 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討 ― 胃瘻造設10年の施行症例より ―,日本消化器内視鏡学会雑誌, 45:1267-72, 2003.

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