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5.半固形化栄養の実際
(2)介護老人保健施設による寒天固形化栄養の経験 |
小幡みどり* 蟹江治郎**
* 医療法人みらい 介護老人保健施設 中津川ナーシングピア 看護師長
** 同 常務理事 |
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看護技術 メジカルフレンド社 2008; 54(9):
26-31 |
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T 事例の背景 |
症 例:85才,女性
主 訴:経腸栄養剤の流涎,反復する呼吸器感染,栄養剤リーク
既往歴:平成11年1月に脳梗塞を発症
家族歴:特記すべきことなし
現病歴:本例は平成11年1月に脳梗塞を発症し嚥下障害を認めたため,入院先の総合病院にて内視鏡的胃瘻造設術を受け,経管栄養の開始後は全 身状態が安定したため平成12年4月28日に当施設への入所となった. |
U 半固形化栄養を取り入れた理由 |
当施設への入所後は定期的な体交処置を行いつつ,経腸栄養剤の注入時は座位で注入することにより,可能な限り胃食道逆流による影響を排除すべき配慮を行った.しかし本例の場合,入所した当初より液体栄養滴下注入時は経腸栄養剤と同色の流涎が観察された.また入所から12ヶ月経過しところから経腸栄養剤の流涎に加え,瘻孔からの栄養剤漏れ(以下,栄養剤リーク),嘔吐,発熱,栄養剤注入時の酸素飽和度90%未満の数値を伴う呼吸困難様症状,肺炎を反復して認めた.それらの症状の中で最も高頻度であったものは流涎で,次いで高頻度であったのは栄養剤リークであった.また経腸栄養投与時には胃食道逆流による苦悶様表情や不穏状態をしばしば認めた.それら有症状時には介護老人保健施設で可能な範囲内の診察治療と,総合病院への通院検査治療により経過を観察していたが,合併症も頻回となったため,その防止のために寒天による固形化経腸栄養剤の投与を開始した. |
V 事例の経過 |
今回使用した固形化経腸栄養剤は,市販の経腸栄養剤に寒天溶解液を混入して調理を行った.寒天は調理と硬度調節が容易で,半固形化した後は体温でも溶解せず,付着性が低いため注入が容易である事から半固形化剤として選択をした.実際に使用した経腸栄養剤は一般に市販されている半消化体栄養剤で,半固形化にあたっては経腸栄養剤と症例にとって必要な水分混合した後に加熱を行い,粉末状寒天を水分200mlに対して1gの割合で混入し撹拌し冷所にて凝固をさせた.この調理により,経腸栄養剤の硬度は杏仁豆腐程度の硬さとなった.経腸栄養剤の投与に関しては,経腸栄養剤に寒天を混入した直後の液状化状態でカテーテルチップに吸引し,そのまま冷所にて凝固し(図1a),投与にあったっては,症例に必要とされる量を数分程度かけ一括で注入するといった方法をとった(図1b).経腸栄養投与後の座位保持については,注入物が半固形化となっているため施行しなかった.経腸栄養剤の投与量は半固形化の前後で変化はなく,1回量500mlを1日3回で投与を行った.
寒天による固形化経腸栄養剤の投与開始後は,発熱以外の症状が固形化経腸栄養剤の投与直後より消失し,反復する発熱も投与後2週間で消失した(図2).また液状経腸栄養剤注入時に認められた苦悶様表情や不穏状態も,寒天固形化経腸栄養剤の投与後より認められなくなった. |
図1 寒天固形化栄養の実際 |
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(a) シリンジに充填された寒天固形化栄養 |
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(b) 胃瘻からの固形化栄養の注入 |
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図2 経腸栄養剤固形化の施行症例の経過
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W 考察 |
療養型医療施設においては,胃瘻造設を行う医療機関と異なり,造設後の慢性期管理と合併症への対応が求められる.胃瘻造設後の慢性期における合併症としては,既出の報告で栄養剤リーク,嘔吐,下痢が頻度の高い合併症としてあげられ,当施設においても同様の経験を持っている(1)(2).また,本稿で報告した症例においても,胃食道逆流および栄養剤リークの合併症をもっていた.本例においては,特に胃食道逆流による問題が深刻で,短期間で肺炎を繰り返した際は,本人のみならず看護職員にも多大な負担を要することになった.その様な差し迫った状態のため,固形化栄養の導入は必要不可避な選択であった.幸いに当施設においては栄養科の積極的な協力も得られたためスムーズに導入が行われ,以後も液体栄養に対しての合併症を有する症例に対して,施設内で寒天調理を行い投与することにより良好な感触を得ている.
当施設において固形化栄養を行う際は,調理室により寒天調理を行いプラスチックシリンジに充填し,静置したのち固まった状態で配膳を行い,看護師により注入を行っている.注入後の注射器は食器と同様に下膳して洗浄した後に再利用をしている.ただ寒天固形化調理を行うにあたっては,栄養科に対して一定の負担をかけるため,液体栄養による弊害がある症例に対してのみ寒天固形化栄養の導入を行ってきた.
しかし,2007年から寒天固形化栄養であるハイネゼリーR(大塚製薬工業)が市販されるようになり,胃瘻栄養の入所者に対し当施設でも積極的に導入をしている.市販化された固形化栄養の場合,調理工程を要さずに利用できるため栄養科への負担もかからず導入も容易となる.現状では固形化栄養の注入が可能なPEG症例に対しては,液体栄養自体の適応がないと考え,原則固形化栄養の注入を行っている.具体的な方法としては,液体栄養の問題がない症例に対してはハイネゼリーRを注入した後に白湯を滴下注入し,液体栄養による問題がある症例に対してはハイネゼリーRを注入した後に水寒天で水分の補給を行うように計画を立てている(図3). |
図3 市販化された固形化栄養 |
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文 献 |
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