内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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栄養剤固形化の”やってはいけない”注意点
ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎
エキスパートナース,照林社,2006; 22(5): 16-19.

●液体の栄養剤での様々なトラブル
 我々が通常に入手が可能な経管栄養剤の多くは“液体”となっています.これは,かつて経管栄養投与法の主流であった経鼻胃管で使用される栄養管が細くて長い形状であり,そこを通じて栄養剤を注入するためには液体である必要があったためです.しかし全ての栄養を液体のみで摂取する従来の栄養投与法では,「胃食道逆流」,「下痢」,「栄養剤リーク(漏れ)」の発生原因となり問題視されていました(1)(図1).

●固形化経腸栄養剤とは
 そこで筆者は栄養剤のゲル化(流動性を無くして固化すること)を行う事によって液体経腸栄養剤の問題点を改善するように試みました(2).そして単に栄養剤をゲル化するのみではなく,注入後は胃内において咀嚼嚥下した食物と同様の硬さの固形物となる性状を目標としました.その結果を得るため固形化経腸栄養剤の定義を,液体経腸栄養剤をゲル化して“重力に抗してその形態を保つ硬さ”とし臨床評価をしています.固形化経腸栄養剤は液体経腸栄養剤に比較して生理的な形態で流動性も低く,液状経腸栄養剤のもつ問題点である胃食道逆流,下痢,栄養剤リークの改善が期待されています(図2).筆者は栄養剤のゲル化調理を行うにあたり,多くの利点があると考え寒天を利用しています.(表1)

図1 液体経腸栄養剤の問題点
液体経腸栄養剤の問題点
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より転載

図2 
固形化栄養剤の効果

固形化栄養剤の効果

蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より改変し転載

●栄養剤固形化の“やってはいけない”注意点

 この固形化栄養投与法は近年提唱された新しい経管栄養投与法です.そのため,その実施にあたっては,この栄養投与法の特徴と調理法について充分な知識を持った上で実践することが重要です.中途半端な状態で調理や注入を行うことは様々な問題をおこす原因となります.以下に栄養剤固形化の誤用で見られるいくつかのトラブルを“やってはいけない”注意点として紹介します.
1)栄養剤固形化の注意点@:目分量や経験論で栄養剤の量を決めない
 経管栄養を開始するにあたり始めに考えなければならないのは,対象となる症例にとって必要なカロリーと水分量です.これらの量は,目分量や経験論で決定すべきではなく,医学的な裏付けに基づいて個々に決定します.必要となるカロリーに関してはHarris-Benedictの計算式が広く用いられており,必要となる水分量に関しては1日必要量35ml/Kgを基準とし体調により補正して計算を行います(表1).

表1
 経管栄養で必要なカロリーと水分

基礎エネルギ−消費量の計算
(Harris-Benedictの式)
男性(Kcal/日)
 =66.47+13.75×体重+5.0×身長−6.75×年令
女性(Kcal/日)
 =655.1 + 9.56×体重+ 1.85×身長−4.68×年令
必要水分量の計算 平熱で脱水なし:水分35ml/Kg/日
 ※体温37度台で発汗無し:+300ml
 ※体温38度以上で軽度発汗:+400ml
 ※体温38度以上で発汗高度:+900ml

2)栄養剤固形化の注意点A:調理は基本に忠実に
 寒天を利用した固形化栄養剤の調理は,症例に必要な水分を補うための水を寒天溶液とし,これと経腸栄養剤を混合し一括して固形化を行います.この寒天溶液の作成は簡便で短時間での実施が可能ですが,必ず守らなければならないポイントがあります.まず寒天粉末は熱湯に直接入れると,ダマになって溶解が困難になります.馴染みのある食材であるゼラチンは熱湯に直接入れても簡単に溶解が可能ですが,寒天でこの様な調理を行うと充分な固形化は困難となるため注意が必要です.また寒天は煮沸状態を2分間継続することにより,はじめて充分な溶解が得られます.調理に慣れるまではタイマーを利用するなどして時間を守るよう注意すると良いでしょう.なお栄養剤は冷却状態にあると寒天溶液と混合する際,溶液の急速な冷却により不均一なゲル化となる場合があります.寒い時期に調理を行うときは,栄養剤を軽く湯煎し人肌程度に加熱しておくと良いでしょう(3).

表2
 粉末寒天を利用した固形化栄養剤の調理法

  1.経腸栄養剤希釈用水に粉末寒天をあわせて撹拌 
    (加熱前に混合し水に馴染ませる)
        ↓
  2.寒天混合液を加熱し2分間煮沸して溶解
        ↓
  3.寒天混合液に経腸栄養剤を加え撹拌
        ↓
  4.投与容器(注射器など)に注入
        ↓
  5.静置して凝固(室温でも凝固は可能)

3)栄養剤固形化の注意点B:不潔な状態での注入はしない
 従来ある液体経腸栄養剤は滅菌されてあるものを開封し,その直後に注入を始めます.一方,栄養剤固形化においては,滅菌状態の経腸栄養剤を一旦開封調理を行った後に注入を行うため,その過程において清潔を保つことを心がける必要があります.筆者の治験においては,栄養剤固形化の調理後に常温保存の物では24時間以内は腐敗せず,冷蔵保存の物については72時間以内の腐敗は認めませんでした(4).よって固形化栄養剤を注入する際は,その結果を参考にして実施するとよいでしょう.また,栄養剤固形化の調理はナースセンターにて行うことも可能です.しかし衛生面の問題を考えると,やはり調理室で行う事をお勧めします.

4)栄養剤固形化の注意点C:ゼラチンやトロミ剤は固形化栄養にあらず
 固形化栄養を実施するにあたり栄養剤のゲル化を行うため,あまり馴染みのない寒天ではなく,日常よく使用するゼラチンを使用してはダメなのかという疑問を持たれる方がみえます.いったんゲル化したものの物性を見ると,寒天とゼラチンは確かに似ている面はあります.しかし大きな違いはゲル化後の溶解温度で,ゲル化後の寒天は80℃に熱するまで溶解しませんが,ゼラチンは10℃前後で溶解してしまいます.つまり寒天は胃内へ注入後に体温で溶解はしませんが,ゼラチンは体温で溶解するため注入時にゲル化していても胃内では液状化してしまい固形化の恩恵が得られません.
 寒天調理が業務上行えない医療機関では,寒天の代用品としてトロミ剤が使用される場合があります.しかし筆者が有効と確認できているゲル化は,固形化栄養の定義でもある“重力に抗してその形態が保たれるもの”であり,トロミ剤によるゲル化ではその定義を満たすことが出来ず,有効性については現状では不明です.また栄養剤をゲル化したからといって胃食道逆流が無くなるわけではありません.そのため仮に胃食道逆流が発生した場合,誤嚥や窒息が発生しにくい形態であることが重要です.寒天は非常に付着性が弱く仮に誤嚥しても喀出しやすい形態ですが,トロミ剤は付着性が強く仮に誤嚥した場合に喀出が困難であり,誤嚥や窒息の発生が懸念され,導入に関しては慎重に判断する必要があります.

5)栄養剤固形化の注意点D:独断専行の導入は避ける
 在宅などにおける栄養剤固形化は,家族が調理し注入するという非常に簡便な行程で行えます.一方,基幹病院クラスの医療機関の場合,業務の分担など難しい問題が発生します.栄養剤固形化を行うための行程を大きく分けると,調理,配膳,注入,そして下膳があります(図3).この行程の中で看護師業務は注入のみであり,他の大半の業務は栄養科業務となります.そのため医療機関において栄養剤固形化を始めるときは,栄養科がその目的と有用性について充分に理解し,その上で協力を得る必要があります.業務を円滑に行うためにも,栄養剤固形化の開始にあたっては,医師または看護師の独断専行は出来る限り避けるべきでしょう.

図3 栄養剤固形化の業務分担
栄養剤固形化の業務分担

●全ての医療行為は患者のためにある

 本稿では栄養剤固形化の“やってはいけない”事例について具体例を挙げて説明をしました.ただ,これらは難解なものではなく,患者の立場からすれば当たり前の事のように思います.例えば注入一つをとっても,室温静置により凝固した固形化栄養剤はそのまま注入が可能ですが,冷蔵保存されていた固形化栄養剤はそのまま注入すると腹痛や下痢の原因になります.注入の速度に関しても注入時にムセのある状態で注入を続ければ誤嚥や嘔吐の原因になります.これらは誰かに教えてもらうことではなく,患者の立場になって考えれば容易に察しのつくところです.全ての医療行為は患者のためにあり,栄養剤固形化もそのスタンツで実施していただければよいと思います.

参考文献
(1) 蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック,医学書院,2002,117-122.
(2) 蟹江治郎・他:固形化経腸栄養剤の投与により胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例.日本老年医学会雑誌;39(4): 448-451,2002.
(3) 蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践 - 胃瘻のイロハからよくわかる -.日総研出版,名古屋.2003,p120-140.
(4) 蟹江治郎,鈴木裕介,赤津裕康,各務千鶴子:固形化経腸栄養剤の実施における栄養剤の安定性と安全性の評価 −調理によるビタミンの変化と細菌学的変化− .静脈経腸栄養19(1): 65-69,2004.

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