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経腸栄養へのアプロ−チ D.栄養剤の選択 |
ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
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在宅栄養管理 −経口から胃瘻・静脈栄養まで−,南山堂,2010;117-112. |
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T.経腸栄養剤の分類 |
経腸栄養剤とは調理を必要としない栄養素の混合物である.その名称に関しては,医薬品から発展したものに関しては経腸栄養剤とされ,食品として扱われるものに関しては濃厚流動食と呼ばれる.経腸栄養剤は異なった角度からみることにより,各種の分類がなされる.本項においては,栄養成分からみた分類,医療保険制度からみた分類,そして形状からみた分類について解説する. |
図1 栄養剤の分類
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天然濃厚流動食 |
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栄養成分による分類 |
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半消化態栄養 |
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人工濃厚流動食 |
消化態栄養 |
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成分栄養 |
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医薬品扱いの濃厚流動食 |
保健医療制度からみた分類 |
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食品扱いの濃厚流動食 |
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粉末状栄養 |
形状からみた分類 |
液状栄養 |
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半固形化栄養 |
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U.栄養成分からみた栄養剤の種類 |
1.天然濃厚流動食
A.栄養成分
天然濃厚流動食は自然の食品を粉砕し,流動性を持たせた食品である.そのため窒素源は蛋白質となり,脂質はコーン油などで他の栄養剤に比較して含有量も多い.
B.消化吸収,味覚
天然濃厚流動食の場合,通常の食品と同様に窒素源は蛋白質となる.蛋白質は高分子化合物であるため,そのままの大きさでは体内へ吸収できない.蛋白質の消化は胃や小腸における消化酵素により分解されて吸収が可能となる.そのため天然濃厚流動食においては正常な消化吸収能が必要となる.味覚に関しては良好である.
C.適応症例
栄養剤を消化する必要があるため,消化吸収能が正常な症例が投与の対象となる.しかし一般に半消化態栄養に比較して浸透圧が高く,浸透圧性下痢の原因となり得るため適応は限定される.また粘稠度も高いため細い管腔の通過が困難であり,経鼻胃管の症例に関しては不適となる.
D.主な商品
オノクス(ホリカフーズ),セルティ(ホリカフーズ),ファイブレン(明治乳業)など
2.人工濃厚流動食@:半消化態栄養
A.栄養成分
半消化態栄養は自然食品を人工的に処理し,ある程度消化された状態になっている栄養剤である.窒素源として大豆蛋白やガゼインなど蛋白質が配合されている.脂質は必須脂肪酸の補給のため長鎖脂肪酸を中心に用いられ,吸収のよい中鎖脂肪酸も用いられるものもある.製品によっては食物繊維が添加されているものもある.
B.消化吸収,味覚
腸管からの吸収にあたっては,一般の食餌と同様で消化という過程を必要とする.小腸は消化を行わないと粘膜が萎縮し,腸管免疫能が低下することが知られている.半消化態栄養投与時における小腸粘膜の萎縮は,食物繊維入りの製品に関しては一般の食餌と差はなく,食物繊維の添加のないものにおいても萎縮は軽度に認める(1).味覚は比較的良好で経口摂取にも適する.
C.適応症例
栄養剤を消化する必要があるため,消化吸収能が正常な症例が投与の対象となる.液状の製品については天然濃厚流動食と異なり経鼻胃管からの滴下注入も可能で,経管栄養投与の対象症例の多くが半消化態栄養の適応といえる.
D.主な商品
エンシュアリキッド(アボットジャパン),ラコール(イーエヌ大塚製薬),ハーモニック(味の素ファルマ)など多数.
3.人工濃厚流動食A:消化態栄養,
A.栄養成分
消化態栄養は食品を直接の材料とせず,全ての成分が科学的に合成された栄養剤である.窒素源としては,アミノ酸やジペプチド・トリペプチドからなり,小腸からの吸収が容易である.脂質は長鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸とも使用されるが,製品によっては脂質濃度の低いものもある.
B.消化吸収,味覚
腸管からの吸収にあたっては,消化という過程はほとんど必要としない.そのため小腸の萎縮による腸管免疫能への影響に注意をする必要がある.味覚に関しては良好とはいえず,経口摂取に際してはフレーバー等が利用される事が多い.
C.適応症例
消化態栄養は消化が不要なため,短腸症候群,吸収不良症候群,放射性腸炎などの消化機能が低下している症例が適応となる.また腸管の安静を目的として炎症性腸疾患でも使用されることがある.
D.主な商品
ツインライン(イーエヌ大塚製薬),エンテルード(テルモ)
4.人工濃厚流動食B:成分栄養
A.栄養成分
栄養成分は消化態栄養と同様に食品を直接の材料とせず,全ての成分が科学的に合成された栄養剤である.窒素源として蛋白質は含まれておらず結晶アミノ酸が使用される.脂質に関しては全エネルギーの1〜2%しか含まれておらず,投与にあたっては脂肪乳剤の投与を行う必要がある.
B.消化吸収,味覚
腸管からの吸収にあたっては,消化という過程は不要である.そのため栄養療法による小腸粘膜に対しての影響に関しては,半消化態栄養に比較して小腸粘膜の萎縮が高度となる.小腸粘膜の萎縮が発生すると腸管免疫能の低下を来たし,様々な問題の原因となるので注意が必要である(2).味覚に関してはアミノ酸臭などの影響のため不良であり,経口摂取に際してはフレーバー等が利用される事が多い.
C.適応症例
消化が必要のない成分栄養の適応は,消化態栄養とほぼ同様である.ただクローン病の活動期に関しては成分栄養がよい適応となる.また膵液の分泌刺激がないため,膵炎の症例にも用いられる.
D.主な商品
エレンタール,エレンタールP(味の素ファルマ)
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V.医療保険制度からからみた濃厚流動食の種類 |
1.医薬品扱いの濃厚流動食
A.医薬品の濃厚流動食とは
医薬品の濃厚流動食とは,処方薬と同様に医師の処方により処方される栄養剤であり,個人での購入は出来ない.費用は薬価として請求されるため,患者の負担は保険上の自己負担費のみとなる.既出の消化態栄養と成分栄養に関しては全ての製品が医薬品扱いの栄養剤となる.一方,半消化態栄養に関しては,薬品扱いのものと食品扱いのものがあるので注意が必要である.
B.医療コストから考える医薬品濃厚流動食の選択
消化態栄養と成分栄養の場合,全ての製品が医薬品のため,その適応症例に関しては薬品として処方を行う.そのため,入院中に医薬品半消化体のみで栄養補給を行うと,入院時食餌療養費の請求が出来ないため,病院経営から考えると不利である.一方,在宅管理を行う場合は,保険負担分の支払のみで栄養剤が入手できるため,患者負担を考えると有利となる.
2.食品扱いの濃厚流動食とは
A.食品の栄養剤とは
食品の濃厚流動食とは,食品として扱われるため医師の処方は必要なく,個人での購入も可能である.既出の天然濃厚流動食に関しては全ての製品が食品扱いのなる.一方,半消化態栄養に関しては,薬品扱いのものと食品扱いのものがあるので注意が必要である.
B.医療コストから考える食品濃厚流動食の選択
入院中においては,食事箋により給食として提供すると入院時食餌療養費の請求が可能となり,医薬品半消化態栄養剤より病院経営から考えると有利となる.ただし,給食で経口摂取を行っている症例の補食として提供する場合は,薬剤費として算定が可能な薬品栄養剤の方が有利となる.一方,在宅管理を行う場合は,食品濃厚流動食はあくまで食品扱いとなるため,費用は全額負担となり薬品のものより費用負担は大きくなる.一方,食品の場合は通信販売か利用出来るため運搬の手間はないなどの利点もあり,薬品のものと比較して一長一短といえる.
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W.形状からみた栄養剤の種類 |
1.粉末状栄養
A.粉末状栄養とは
文字通り粉末状になった栄養剤で,水に溶解して投与を行うものである.溶解にあたっては容器の移し替えが必要で,その後さらにイルリガードル等に移し替える必要がある.
B.利点と欠点
利点としては粉末のため重量が軽く,収納場所も多くを必要としない点があげられる.欠点としては,溶解や詰め替えの作業が必要となり,手間がかかるとともに感染の機会が増える点である.液体栄養の合併症である胃食道逆流,下痢,胃瘻からの栄養剤漏れも発生し得る.
2.液状栄養
A.液状栄養とは
溶解の必要のない液状になった栄養剤である.イルリガードル等に移し替える必要があるものと,専用のバッグに包装されたものがある.
B.利点と欠点
利点としては溶解の必要が無く,感染の機会も少ない点が挙げられる.欠点としては,収納の場所を必要とする点と,液体栄養の合併症である胃食道逆流,下痢,胃瘻からの栄養剤漏れの頻度が高くなる点があげられる.
3.半固形化栄養
A.半固形化栄養とは
半固形化栄養とは液体と固体の両方の物性を持ち,液体より固体に近い半流動体であり,栄養の問題点を軽減すべく,粘度や硬度を保持させたものである.粘度増強剤剤を使用し効果を得る方法や(3),寒天を使用し粘弾性で効果を得る方法などがある(4).
B.利点と欠点
利点としては,液体栄養の高い流動性によって発生する胃食道逆流,下痢,胃瘻からの栄養剤漏れを軽減する効果が得られることが挙げられる.欠点としては,経鼻胃管などの細径のカテーテルからの注入が困難な点が挙げられる. |
表1 濃厚流動食の種類と特徴 |
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天然濃厚流動食 |
人工濃厚流動食 |
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半消化態栄養 |
消化態栄養 |
成分栄養 |
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窒素源 |
大豆蛋白
乳蛋白 など |
蛋白質
製品により,アミノ酸や
ポリペプチドを添加 |
アミノ酸
ジペプチド
ポリペプチド |
アミノ酸 |
脂 質 |
多 い |
やや少ない |
やや少ない |
ごくわずか |
消化の必要性 |
必 要 |
多少必要 |
ほぼ不要 |
不 要 |
小腸粘膜萎縮による
腸管免疫の低下 |
な し |
繊維無添加のものは少ない
繊維添加のものはなし |
あ り |
あ り |
保険上の取り扱い |
全て食品 |
医薬品と食品 |
全て医薬品 |
全て医薬品 |
味 覚 |
良 好 |
比較的良好 |
不良 |
極めて不良 |
血管内浸透圧との比較 |
高 い |
ほぼ同じ |
高 い |
高 い |
剤 形 |
高粘稠度の液体 |
粉末/半固形/液体 |
粉末/液体 |
粉末/液体 |
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文 献 |
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