内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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在宅管理におけるPEGの重要性
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在宅管理におけるPEGの重要性
津軽健生病院 津川信彦(司会進行)
小川医院   小川滋彦
海南病院   蟹江治郎
巨摩共立病院 深沢真吾
在宅医療 1997; 4: 54-64

 在宅医療の現場において発生する様々な問題は,それぞれ深く関連性を持つ.栄養状態の改善も,患者のQOLの向上家族の負担の軽減等,トータルライフケアにおいて欠かせない事柄に,大きな波及効果をもたらす. 本誌は,在宅栄養療法の有効な手段としてPEG(胃瘻)に注目し,一貫して情報を提供してきた.去る,平成9年8月2日(土)大阪南海サウスタワーに於いて第2回HEQ研究会が行われたが,本誌も,研究会にご出席される先生方にお願いして,PEGの普及啓蒙の一助を目指した座談会を開催した.題して,「若手医師 PEGについて大いに語る.」以下に,その一部始終を掲載する.

●司会(津川) 皆様にはお忙しい中を集まっていただきました.今回は,『在宅医療』という雑誌で,私も2・3度書いていますが,「胃瘻」についてわかり得る情報を集められる企画はないかということで,今回私が出席をお願いしたのは,金沢の小川医院の小川先生です.先生は,日本消化器内視鏡学会のほうで,私と早くからいろいろな研究発表をなされて頑張っておられますし,学会のランチョンセミナーの講師をつとめています.
 それから,海南病院の蟹江先生です.蟹江先生は,数年前よりPEGの合餅症や有用性に対しての検討をまとめられ,学会発表や論文投稿を行われている若手の先生です.
 それから,巨摩共立病院の深沢先生です.深沢先生は,昨年の第一回HEQ研究会でも発表されており,地域の中核病院として,在宅医療の中でPEGを活用されている先生です.
 それではまず,PEGの有用性と安定性ということで,小川先生からお話しいただけませんでしょうか?
●小川 私のおります石川県金沢市というのは,まず1つに医療過密地域です.病院もたくさんありますし,開業医もおそらく徳島県に次いで医者の人口密度の多い所だと思います.そんな中で,去年の4月から,これから在宅医療の方へ流れていくだろうということで,親の後を継いで開業いたしました. それではPEGをやっておりまして,これはやはり病院でやっていて
もあまり感謝されないこと.ただ,在宅だとすごく感謝されるような,喜んでいただけるケースがありまして,これは商売になるなというのが正直なところです.有用性,これはよく言われていることですが,非常に扱いが簡便で素人でもできるし,血管に入れるものと違って無菌的に扱う必要がない.要するに,素人である家族がきちんと使っていただけるものであるということで,今までのいろいろな栄養療法と全く違うということがズバリ在宅向けで,有用であると思います.
●津川 深沢先生はどうですか?
●深沢 私が考えている有用性という点でいうと,第一回HEQ研究会のときにも二私のグループの発表の中で挙げているのですが,多くは,経鼻経菅栄養をもともとしている人から胃瘻に移行していってという中で,本人の苦痛の軽減はもちろんですが,それを在宅で看護して支えている家族の人たちの精神的な負担が,ものすごく軽くなっている.「ボディーイメージが良くなる」という言葉で表現しているのですが,家族の方のアンケートを取ってみても,奇異な目で見られないとか,デイサービスで外へ出られても管が無いというだけで非常に出やすくなったとか.
 私が一番言いたい有用性は,そこにあるのではないかと考えております.扱いとか,もちろん経菅栄養でやっている上でのトラブルが解消されるとか,そういう事はもちろんあるのですが,介護者の心の負担というのは表面にはなかなか出てこないもので,PEGを普及させるためには,そういう事がもっと強調されてよいのではないかと思います.
●津川 蟹江先生は,病院での入院治療の中でPEGをやられているそうで,病棟でのPEGのイメージとかがどのように変化したかなどを教えていただきたいのですが.
●蟹江 私は現在海南病院に在籍していますが,名古屋大学老年科の関連施設で施行されたPEGの情報を全て私が管理させていただいております.その中で特に病棟でのイメージの点では,患者さんの外観が改善するという部分を特に強調したいと思います.病棟で経鼻経菅栄養を行っている方が胃瘻に変わると,それだけで随分と病室の風景が変わり,病院自体のイメージも良くなるし,患者さん自体も楽になります.それに有用性も非常に強く感じています.具体的に言いますと,現在までに私が施行したPEG症例のデータは全て保存しておりますが,現在までの施行症例が約290名前後で,そのうち経口摂取が可能になった症例は24名みえます.さらにそのうち経口摂取が可能になった事により胃瘻栄養を中止出来た方も10名あり,この事実は非常に重要な意味を持つものと考えています.
 さらに管理面でも,有用性を強く感じています.一例を挙げますと,私が直接関わらしていただいている病院では,月に一日病棟胃瘻交換日を設けて,一日に病棟内の胃瘻チューブ交換を全て行っています.その際,1病棟24〜25名程度の胃瘻チューブ交換を行うのですが,その所用時間は約30分程度です.これは,経鼻胃管では決して成し遂げれないことです.少ない時間で作業が完了するという事は,如何にその作業が容易なものであるかという事がわかります.
●津川 私の所は昨年の末で370名が胃瘻を作っております.1つはPEGをすることによって,咽頭部の開放でリハビリが進んでいるということが挙げられます.そして入院中の脳卒中の患者さんの管理で言えば,看護婦さんが咽頭を開放されることで,リハビリのほうに力を入れるように方向が変わってきました.また在宅で胃瘻を希望される方には,そういうことをきちんと理解することによって,在宅でも生活できるようになったということで,そういう意味では日本の医療の流れが胃瘻が入ることによって大きく変わったというところが,やはりポイントだと思うのです.
 そういうことでは,胃瘻というのは諸先生がおっしゃるように大変いいものだということですが,実際に普及していく過程では,その妨げになる要因というものが出てくると思うのです.そのあたりの事を少しお話して欲しいのですが,小川先生はどうですか?
●小川 私の言いたい事はたくさんあります.私は,去年まで病院にいて開業医に切りかわったわけです.そういう意味で病院の矛盾,開業医の矛盾ということで,いろいろその狭間で感じることがありました.それがどうも基本的に病院医療と開業医の医療のギャップが,例えば栄養療法のところに出ているのだと思います.
 1つは,私は病院の消化器の先生方に時々講演をさせていただくのですが,胃瘻にすると例えば胃食道逆流が減るとか,それによる誤嚥性肺炎が減るとか,いろいろなメリットがあるのです.ところが,そのお話をしますと,それは例えば6フレンチ・8フレンチの経鼻チューブを使えば胃食道逆流なんかは起きないとおっしゃって,細いチューブを非常に大事にして管理していくということを自慢されるわけです.ですから,PEGはいらないよという話をされるのです.ただ,それは病院にいるからできるのです.病院の中で消化器の専門医が,鼻から管を入れて十二指腸まで入れるのはたやすいことだと思いますが,これを在宅医療ということで考えればとてもとても難しいのではないかと.ですから,大病院というのは重装備の医療が好きで,どんどん難しいほうへシフトしていく.それを在宅医療にそのまま持ち込んで,病院医療と同じようなことを受けるのが在宅医凍だという風潮があるのではないかと思っています.それが一つの妨げになっているような気がします.
 もう一つは,開業医のほうの問題です.開業医の先生方を対象にお話しますと,「PEGはこういうことでいいんですよ」とQOLの向上や有用性について話をしますと,最後に必ず年輩の先生が「いや,それでもお年寄りは食べられなくなったら寿命だから,胃に穴を開けてチューブを入れてまで,生かす必要があるんか.」ということを言う先生がいるわけです.これが開業医の一つの考え方なのです.浴風合病院の横内先生が『メディカル・トリビューン』に書いていらしたのですが,高齢者の末期には3つあって,そのひとつに「みなし末期」ということをおっしゃっていました.要するに,ご飯が食べられなくなったら,この人は寿命だとみなして,もうそれは死んでも仕方がないんだよというのを「みなし末期」と言うそうです.癌などで本当に生命が維持できない末期,それからもう老化現象であって本当に寿命である末期,もう一つは嚥下障害イコール末期だとみなすというのが,開業医の先生方に比較的多い考え方なのです.医師会などで話をする時には,栄養管理をしっかりやれば大丈夫だと話をするのですが,「食べられなくなってまで,チューブを入れてまで」とご意見をいただく.それで,その先生方はどうしているかというと,毎日点滴に通うのです.でも,点滴を1日1本打っただけではいずれ死ぬことはわかっているのです.でもそれは,一生懸命毎日1本点滴して亡くなったんだから仕方がないやという,免罪符にはなっています.だから結局,点滴1本打つというのは,「みなし末期」を採用しているのと変わらないのです.だから,家で死なせてあげたい,口から食べられなくなったら寿命で,じいさんにチューブをいれてまで生かすのはかわいそうだという医療老の思い込みが,栄養療法ということが真剣にとらえらることの障壁になっているのだと思います.一つは,ハイテクのほうへ行こうとする病院の先生方と,それから,これはもう死んでも仕方がないんだという開業医の先生方で平行線でいっています.PEGが出現することは,その中間というか両方を兼ね備えている非常に画期的な栄養療法だと思います.それはやっぱり是非普及して欲しいなと思っております.
●深沢 普及の妨げというか普及に不可欠なポイントとして,1番目にはドクター間の連携があると思います.私の病院は,山梨県の甲府の西側にある150床と病院で,地域の中核病院です.私の専門は消化器ですが,高齢化している地域でもあり,脳血管障害が非常に多い.その前までは甲府市内の病院にいたのですが,そのころと比べると消化器の専門ばかりでなく,脳血管障害とか噴下障害の方々を診る機会が多くなる.最初は経鼻胃管で管理していたものを,このままで良いのだろうかと.PEGというよりよい栄養管理の方法があるということで,何回か医局の先生方とディスカッションする中で,PEGを用いた栄養管理を行う方向になって釆ました.しかし,食事がとれないからといって安易にPEGに走らずに,STと協力しながら噴下訓練を行ったりして行くことが必要です.栄養管理面だけでなく,全般的な利点について,医師間で良く話しあうことが必要だと思います.
 2番目は,PEGで栄養管理を行っている方々が病院から施設に戻った時に,当初PEGは困ると言われました.ほとんど経験した事がないので,管理面で不安だということで,受け入れる各種施設の介護職の方々にも,PEGについての知識をお話して理解していただく必要があります.その結果現在では,是非PEGに換えてくださいという施設もでてきています.
 3番目は,PEGを導入するにあたって,家族の方々に十分な説明をする.よく言われる「胃に穴を開けてまで」という意味合いのものを解消してあげる.そこを乗り切ると,経鼻胃管でみていた場合の困難な面が改善され,精神的にも介護する家族の気持ちが楽になれる.そこのところをきちんと乗り越えられるような丁寧な説明が必要だということです.
●津川 蟹江先生はどうですか? 先生の地域でのPEGの普及は順調に進んでいますか?
●蟹江 私がPEGを始めた当時,新しい医療手技であったPEGについて医者に理解を求め,看護婦さんに理解を求めていくには,大変な労力を必要としました.私自身,「老年医学を発展させる」という志が無かったら,到底ここまで成し遂げられなかったように思います.PEGを始めた当時は,手術をやってまで延命の必要があるのかという考えを,多くの皆さんが持っておられました. しかし,それは,経鼻胃管の長期留置に対しての問題点を,あまりにも認識されていないと言う点から出てくる発想のように思います.つまり,経菅栄養に関わる消化器科・神経内科・脳外科等のいずれの科においても,栄養アセスメントの問題は専門分野の中心には無く,正直なところあまり医学的興味の対象になりにくい分野ということもあって,今まではやや関心が薄かったように思っています.
●津川 私はよく思うのですけれど,消化器内視鏡を扱えるような内視鏡医であれば,胃瘻は学会等から情報がはいってくるからよろしいと.それから,脳外科の先生も,そういう状態の方には胃瘻を造ったほうがいいだろうと,それもわかりますと.リハビリの先生も胃瘻はあったほうがいいですと,みんなイエスなのです.ただ,胃瘻を造ったほうがいいと言う人と,造る人と,それから在宅医療部で術後で管理する人と,この胃瘻に関わるグループが同じ考え方で物事が動いているかが,やはり一番大切なポイントだと思うのです.医師の間では,そういった連携の重要性をいろんな場所で訴えていく事が大切だと思うのです. それから,看護婦さんのなかでも実際に胃瘻患者を管理する方が増えてきましたが,今度はいろんなトラブルが起きた時に,従来の知識だけで対応しようとすると上手くいかず,また,複数の看護婦さんが関わった場合に混乱が生じて,看護プランに統一が図れなくなってきます.看護婦さん方も,PEGの看護マニュアルをきちんと作成して,PEG患者のケアを進めていく必要があると思います. あともう一つは,市民レベルの話でPEGの理解がどの辺まで進んでいるかというところです.地域によってかなり差があると思うのです.胃にいきなり穴を空けてどうするんだというレベルから,あとは先生から胃瘻をつくったほうがいいですよ,中心静脈栄養のほうがいいですよ,鼻からのほうがいいですよと一気に3つ言われて,患者さんと家族は,どの話がどういうことかというのはほとんど理解できないと言う事です.それは,私が最近パソコン通信のニフティの「在宅ケアフォーラム」で,一般の方はそういうイメージがあるということを知って,すごくびっくりしました.私どもがこうやって胃瘻を普及させるというのは,市民講座みたいな市民レベルでの普及を図っていかないと,進んでいかないのではないかと感じております.
●小川 以前に,富山県小矢部市で講演させていただいた時に,たまたま一般の主婦の方が聞きにいらしていて,とても良くわかったと言うのです.「これだったらもし私が脳卒中になったら,PEGをやってもらう」と言っていました.PEGは理屈がシンプルだし,一般人の理解を得やすいのです.だからホスピスと一緒で,PEGはホスピスと似ていると思うのです.つまり,医者のほうから与えるものでは無くて,そういう一般の方々からニーズが出てこないといけない.病院のお医者さんは,やっぱり高度医療に走りたがるのです.難しいことのほうがなんとなく尊いような気がして,経鼻の人はどんどんチューブを細くすることにかけているでしょう.それは,どんどん管理を難しくしているのです.その難しいことを管理する事が素晴らしい事というか,ハイテクだと思っているのです.市民が求めているのはそういうことではない.津川先生がおっしゃったように,ぜひ市民フォーラムをやって行きたいと思います.
●津川 あとはPEGを用いて在宅管理をして素晴らしい成果があったという事例があれば,お聞きしたいと思います.先ほど,リハビリが順調にすすんだり,経口摂取が可能になったりなどとお話がありましたが.
●蟹江 在宅で特に喜ばれるのは,寝たきりの方でもむしろALSの様な神経疾患の方です.ですから,神経疾患で特に嚥下障害を持つ呼吸麻痺の症例に関しては,積極的に医者の方から薦めていきたいなと思います.在宅管理においても経鼻胃管に比べて管理が容易だし,事故やトラブルもほとんどないし,見栄えは良くなり苦痛も軽減するし,そういう所を特に強調したいと思います.
●津川 私どもの例では,今回の第2回HEQ研究会のうちのスタッフが発表するのですが,胃瘻を最初のころにつけられて9年6ヶ月生存したという症例をだしてみました.この方は,家に帰りたいという希望があって,たまたまお向かいに入院されている方がPEGをつくっていたということで,本人が判断できる段階でPEGの導入となった方です.
 それから,病院としても往診したり訪問看護したりして,在宅栄養管理をしてきました.10年間を振り返ってみますと,日本の在宅医療はずいぶんと変わったなあと思う反面,在宅医療に冷たい医療制度だったなあ,ということを逆に実感します.いまですと,訪問看護ステーションとかで,過に2・3回在宅ケアができているわけです.それから,耳鼻科や歯科の先生の往診も今なら出来るようになりましたが,10年前にはそういう希望があったとしてもどうしたらいいかと.福祉の介護支援制度など今はありますが,以前はなかったですから.在宅で過したいという希望を貫くには,かなりの壁がありました.ですから,そういうことを振り返りながら,在宅医療の症例で貴重な体験をされている方がいらしたら,出してもらいたいのですが.深沢先生は何かありますか?
●深沢 経過が長い痘例というのはあまりありませんが,特別な症例としては,前の病院でやったのですが,筋ジストロフィーの子供で肺炎を起こして入院し,食事が充分に摂れず入院中にPEGを行いました.その後,経口摂取ができるようになったのですが,静脈栄養だけでは摂取量が足りず,内服も不十分になってしまうため,胃瘻を施したまま在宅としました.ちょっと具合が悪くなってなかなかうまく飲み込めないという時には,胃瘻より栄養を摂って薬を投与して,病状をできるだけ重くしないですごしています.ボタンになっていますから活動性は非常に高くて,いろいろな所へ出かけているようです.約5年間たっていますが,長い期間で言うとそういう例があります.
●蟹江 あと,これは今後のことなのですが,現在私が関心をもっているのは,末期癌の手術不能例に対してIVHにかわる栄養投与法としてPEGがどのように利用できるか,そして,在宅PEGに如何にいかせるかということです.
 最近経験した手術不能で,下部食道狭窄を釆たしている胃噴門部癌の症例に,胃瘻を造設して在宅管理とし,家で最期の時を迎えたという例がありました.私自身は,末期の癌で消化機能が保てていれば,すぐにPEGの適応であるとまでは思いませんが,医療従事者や患者さんはどのように考えているか,今後聞かせていただきたいと思っております.
●小川 私のところは無床診療所で,先ほども申し上げたように医療過密地域です.私の所から車で5分以内の所に金沢大学病院,国立金沢病院,金沢市立病院があり,他にも病院が沢山あって年寄りが寝たきりになれば,どこかの病院に頼み込めば入れてもらえるという状況です.うちで往診しているのは,本当に在宅をして欲しくてPEGになっている患者さんです. 症例を紹介しますと,去年はじめたばかりで1年ちょっとなのですが,いままでの在宅の症例というのは14例です.その中でPEGは4例,現在も訪問診痺しているケースは7例で,その中でPEGは2例です.これは,私のほうからPEGの患者さんがいたら回してくれとアピールしているのと,最近では神経疾患を扱っている病院の先生から,電話で相談を受けるのです.たまたま近所の患者さんだったので,私が胃瘻を造って往診しましょうということになりました.PEGの症例の割合はなるべく維持していきたいなと思います.
 私は開業医になるまでは,病院にいて「胃瘻は在宅にいい」と言っていたのですが,ちょっと後ろめたくなってしまったんです.私のおりました済生合金沢病院は250床なので,在総診を取れないのです.だから新築移転した時に,訪問診療部を閉鎖したのです.在総診を取れるのは200床以下でしょう.それで在宅医療を全然やっていなかったのに,PEGは在宅医療にいいんだと言うのはまずいのではないかという後ろめたさがあり,それなら自分でやって証明すべきであると思い,開業を決意しました.なるべくPEGの症例は,自分で持つようにしたいと思っています.
 それで,うちでPEGをやっている人は,どうしても家ですごしたいと本人・家族が意思表示した人です.ある病院で,経鼻胃菅栄養で老人病院に行かされる予定だったけれども,本人はどうしても家に帰りたいと希望された方がいらっしゃいました.たまたまご家族の方がうちの患者さんで,うちは他に宣伝する物がないので「PEG・PEG」とPEGのポスターばかり貼ってあるのですが,それを見て「うちのおやじにいいんじゃないか」ということで相談を受けました.これはさきほども出たお話ですが,大病院の先生方がPEGを全然知らない事があるのです.「そこの病院でPEGをやってもらいなさい.」と相談してくるように勧めたら,「PEGなんてやってないし,できないんや.」ということで一蹴されたと言うのです.それならということで,恨まれるのを覚悟で私がいた済生会病院に無理矢理その患者さんを転院させました.そこは開放病床でして,私と済生会の先生で胃瘻造設をして,その時は自分が副主治医ですから経腸栄養剤も全部指定しまして,一時期が過ぎたら退院させて自分が往診する.こうなるともう患者さんの横取りですね.要するにPEGを知らないばっかりに不幸な目にあっている患者さんを何とかうちで診たい.経鼻やTPNばっかりで家に帰れない人で,本当に家に帰りたい人の相談窓口になって,そういう人を一生懸命自分の患者として横取りしているぐらいの気持ちで,PEGはいいんだとアピールしています.そんなふうに十分に話し合ってPEGをやっている患者さんだし,非常に大事にされている方々だから,ものすごく感謝してもらえるのです.やっぱり鼻から管が取れてよかったとか,家で診れてよかったとか,痘例数は少ないですが,1例1例をエッセイに書けるような感じで,ちょっとしたドラマがあるのです.
●津川 私どもの在宅医痺部では,6月の時点で129名の在宅往診の患者さんがいます.それを専任ではないですが,兼任の先生5人がいろいろな立場で行うわけです.その中で,胃瘻で診ている人が29名いるのです.地域の中で長い間,基本的には患者さんの家族の要望にできるだけ応えるという意味で,そういう形になったのです.
 さきほど在総診の話がありましたが,在宅成分栄養経菅栄養指導管理料がやっと昨年月2300点に上がってきました.そうなるまでには経腸栄養研究会のほうで,盛んにそういう炎症性の胃腸疾患以外にも噴下障害の患者さんがたくさんいて,こういう人にはきちんと保険点数を付けるべきであるというような研究発表をしてきました.やっとこの辺まで釆たのかなというのが私の実感です.
 今回,昨年の4月に経腸栄養剤のほうは,それまでエレンタールが主として炎症性腸疾患の症例のみで使用されていましたが,このたびエンテルードとツインラインが加わりまして,3種類が一応使われるようになったわけですが,実際に皆さんが使われてみてどうでしょうか.栄養剤について何か意見はございますか.
●蟹江 私が思うには,各製剤には剤形・剤質ともにそれぞれ特徴があり,ケースパイケースで選択するのがよいと思います.例を挙げますと「PEJ」といって,胃瘻を経由して空腹までチューブ挿管する方法があって,現在までに3人在宅で診た経験があります.そのように直接空腸に栄養剤を投与する場合は,エンテルードの様な低分子ペプチドを利用した完全消化態栄養剤を選択するのが望ましいと思います.また,包装も重要な点で,在宅では缶に入った経腸栄養剤よりも可燃物のソフトパックに入ったものの方が,便利かと思います.
●小川 これは病院にいた時の話ですが,TPN長期になって相談されたり,いまでもよその病院から依頼を受けてPEGをしに行くのですが,やっぱり中心静脈栄養で長期になっている人が多いのです.それは,最初から長期にするつもりはなかったでしょうが,2・3ヵ月たって胆泥もたまっていてちょっと消化管は使えないなという感じの人が,そろそろ退院だ,じゃあ経腸栄養だ,胃瘻だという事になるわけです.そういう人には消化態栄養剤が多いです.はっきり言って医原性の消化不良症候群は多いですね. だから,もしかしたら最初の段階でPEGにして経腸栄養を少しでも始めていれば,食品の栄養剤でもいいのかもしれませんが,そういう状態になっているので,結局低濃度から1〜2ヵ月かけて濃度を上げていくのです.もうそういうものになると,消化態栄養剤でないと駄目だと思っています.
●津川 深沢先生の所はどうですか.
●深沢 うちでは,ずっと長期にIVHのみになっているというのは割と少ないですね.基本的には一時的に経鼻胃管に移行して1200カロリーぐらいまでとれるようにして,それから胃瘻に移行しています.最近では,だいたいそういう方針でやっています.症例で本当にどの栄養剤が一番いいのかなというのは,具体的な結論を出しているわけではないので,何ももっていないのですが,うちではエンテルードを使うことが多いです.最初に導入していく時には,やはりゆっくりと濃度をうすくしてやっていきます.スライディングハヘルニアが強くて,経鼻胃管で逆流性食道炎を起こすのですが,胃瘻を造ってしばらエリスロマイシンを使ったりして,いろいろとやっていました.それでも半年ぐらいは良かったと思います.その後で,胃空腸瘻に変えることになりました.
●津川 昨年,第1回HEQ研究会のときに少し話をしたのですが,たまたま私がクローン病の研究をされている先生にお会いした時に,クローンの血中濃度を測ったら血中の微量元菜セレンが足りないということを,その先生がおっしゃっていたのです.私どもも,脳卒中の患者さんでクローンのような炎症が無い患者さんについて,どうだろうかと調べてみたのですが,やっぱり血中セレン濃度が下がっていたのです.そこで,セレンを補充してやる方法はないかという事で,日本全国の先生方と連絡を取り合ったのです.日本で現在市販されている栄養剤の中で,エンテルードが一番セレンが入っているということを教えていただいて,それを実際に患者さんに使用して,6ヵ月ぐらいですべて正常に近いものにした経験があるのです.長期で管理する場合は,そういう栄養代謝の部分は,みんなでつめていく必要があるのではないかと実感しています.
●小川 先生はいつもその辺の大事な話をしてくださるのですが,いまの日本の経腸栄養剤はだいたい1600カロリーから2000キロカロリーを入れた時に,ちょうどいろいろな栄養素をまかなえるようになっているけれども,高齢者はだいたい1000から1200キロカロリーになりますね.そうだとどうしても理論的に欠乏するという話をよく発表していらしたので,その辺のことをもう少し詳しくお願いします.
●津川 最初はただ私も栄養剤の成分表の比較だけを見ていたのですが,実際は成分構成をデザインした時点で,2000から3000カロリーの至通濃度で多量に入れれば微量元素がちょうど入るという前提のもとで作られた製品を,使う立場の者が逆に減らした状態で投与する.医原性にそういうものを作ったという事がわかったのです. 米国では,そういう微量元素のデザインはどういう感じになっているかというと,1人の個体に対してはセレンを必要量100%入れなさいとか基準ができているのです.ですから,3000カロリーのデザインをした食品でも100%入れましょう,それから,1500カロリーをデザインした栄養剤でも100%入れましょうという感じで,そのカロリーが異っても総量の微量元素の量はきちんと個体の必要量になるようにデザインされているのが大きなことで,日本のデザインとはちょっと違うというところがあります.
●小川 やっぱり日本の経腸栄養療法というのは,外科術後管理から始まったからでしょうかね. 食品は食品衛生法で,微量元素をあまり添加できないですよね.私が医薬品を使う理由は,食品のものだと患者さんの自己負担になって大変だという事と,もう1つは微量元素の添加が食品だとできない.今のエンテルードはセレンが多いというようなお話を参考にして,消化態のものを使っているのです.
●津川 食品はやっぱり微量元素を添加できないということで,栄養剤はエンテルード等の消化態の物を多く使いますね.
●小川 保険点数の話をしてもよろしいですか?
●津川 どうぞ.
●小川 開業医ですから要するに往診するのが商売ですが,いまの在宅成分栄養経管栄養指導管理料は2300点あるのですよね.やっぱり高くて,なんかもらっては悪いなと思いながら,あれはセット加算とか他に2000点付いてくる.胃瘻のチューブとか接続チューブとか,輸入品で結構高くつくんですよね.今までそういうことを知らなかったから自己負担していただいたのですが,本当は保険が適応になるのでやっぱりセット加算を使いたいをと思うのです.本当なら入院してTPNになっていた患者さんを,在宅でローコストで管理して,それだけのことを家族に指導してあげているんだし2300点ぐらい欲しいなということで.実際,TPN長期のために消化不良みたいなことになっている患者さんが対象ですから,私は必ず「TPNによる消化不良症候群」とレセプトに書いているのです.一応逃げとして,やっぱり高くなれば切ってこられる可能性があるかもしれないので.多分,みんなが胃瘻栄養をやりだして,2300点を取り出したらパッと切ってくるのでしょうね.いまのところ厚生省も,在宅への指導期間ということで多少大目に見てくれているみたいですが.それでも入院より安いから.在総診プラス2300点支払っても高が知れているもの.入院だったら,TPN・人工呼吸器・ありとあらゆるチューブを使って,高齢者でも出来高だからとことんやるでしょう.それを在宅に誘導すにはまだ何年もかかると思うから,その間は在宅をやる先生は多少おいしい思いをしてもいいのではないかと思いますけれども,駄目ですか.
●津川 そのとおりだと思います.
●深沢 それは在宅医療のとらえ方だと思いますが,1つは在宅医療というのはあくまでも患者さんが主体で在宅で過ごしたいという希望がありますから,それを叶えるのにどう周りがサポートするかという話です.自己負担が多いものより少ないほうがよろしいでしょうし,それに一生懸命やってくれる先生にはきちんとした診療報酬を付けるというのも大切でしょう. 在宅医療というのは,実際の現場をみると,介護する家族への負担がものすごく大きい.ですから介護保険の導入で,さらに介護者の負担が増えることの無いように,在宅栄養療法の実績を積んで,その良い面を世間にもアピールしていくことが一番だと思うのです.患者さんのQOLを上げていけば,介護者も以前より楽になってゆくと思うのです.
●蟹江 経腸栄養と在宅栄養のことですが,経腸栄養を家にもってゆく時に,缶でできている製剤もあるのですが,それは非常に負担になります.おじいちゃん おばあちゃんだけだと持って行くのも大変です.家に持ってゆき易いようなパッケージとか,可燃物であるとかどんどん工夫して,製薬会社の方々にはなお一層努力していただきたいと思います.
●小川 以前,パウダーの時にはそんなに輸送方法にお金はかからなか
ったけれども,液状タイプの場合ですとタクシーで家まで運ばなければならない.2週間に1度タクシー代がかかるという具体的な問題が出てくる.そういう事もあるので,開発の段階で少し使う側に立って考えていただきたいと思います.
●津川 経腸栄養剤の話が出ましたが,PEGの造設手技のお詰もお聞かせいただきたいと思います.蟹江先生のところでは,どの様な手扱が好まれていますか?
●蟹江 私どもの施設では,胃内固定板がドーム型とかマッシュルームチップ型とか言われている型の胃瘻造設キットが好んで使用されています.具体的にはバード社の製品です.
 私自身は日本に輸入されている全ての胃瘻造設キットの使用経験があり,その中で最も理想的な方法となる可能性を感じたものは,腹壁からチューブを挿入する,いわゆるイントロデューサー法でした.しかし現段階で存在するイントロデューサー法の製品は,実際に使用してみますと,やれ内腔閉塞だ,やれバルーンパーストだなどとカテーテルトラブルが非常に多すぎて,使用に耐えうるものではないと判断せざるを得ませんでした.そのため最近は,イントロデューサー法頑張れという気持ちを内心で持ちながら,プル法とプッシュ法ばかり使用しています.
 プル法とプッシュ法なのですが,これは基本的にほぼ同じ方法だと考えます.しかし,プッシュ法は,チューブがプル法のものに比較して,生検紺子での把持がやや困難な点が問題点だと思います.老人病院の内視鏡室では,スネアーは無く生検紺子が頼りなので,プッシュ法の太いガイドワイヤーは非常に把持がしにくいのです.プッシュ法にはそのようなプル法にないような問題がありますので,結局プル法に落ち着いたわけです. プル法の中でもいろいろありますけれども,やはり現在最も優れていると考えられるものは,胃内固定板の形状がマッシュルームチップ型である(バード社)のものではないかと考えています.このマッシュルームチップ型のものは,胃壁に対しての侵襲が少ない形状ですが,最大の問題はPEG施行後急性期の自己抜去です.
●蟹江 特に老人病院などで胃瘻をやると,不穏状態の症例が多くて,たとえ抑制処置を行っていても上手にひもを解いて,PEGチューブを引っ張ってしまう時があるのです.また,そもそも抑制しなければいけない状態自体が問題ですので,症例によっては,あえて経皮交換が出来ないタイブの胃瘻造設キットを選択するなど,造設キットを使い分けることも重要ではないかと考えています.
●津川 深沢先生はいかがですか?
●深沢 イントロデューサー法は今はやっていません.最初はバード社のキッドを使用していたのですけれど,最近は交換キットとの関係で,ガードワイヤーを用いたプッシュ式のものを使っています.入れ換えが簡単という意味で,交換は医者がやらなくても在宅で看護婦さんができるように,バルーン式のボタンを使用しています.
●小川 交換をいまどうしようかなと,いろいろ因っているのです.最近退院してきた患者さんなんで,いまのところうまくいっているのですが,交換の時に,体外的交換を病院だからと平気でやっていた.何かあっても院内なら対処できるからと,以前は私もやっていまして在宅でもやれるなと思っていたのですけど,本当にやれるのかなと.
 要するに,バンパーを変形させて瘻孔を通すタイプで,結構瘻孔を壊してしまったという報告もありますので,どうしたらいいかなと.ただ,バード社のドーム型のやつというのは詰まらないというか,1年以上もつのです.ただ,定期交換が必要になるのは,結局シリコンでしょう.シリコンで固〈なってカチンカチンになると経皮交換できないから,6ヵ月とか4ヵ月に1回交換しまようということですけれど,僕が今考えているのは,チューブは1年以上かうまくすれば2年ぐらい保ちますね.だからとにかく詰まるまで使って,交換になったらしょうがない.自分の医院に連れて来るか,切り落として内視鏡で回収して入れ替えたほうが安全かなと,その辺どうするか.
 内山クリニックの内山先生は,在宅でみるならバルーンでなきゃ駄目だと書いてましたね.でも,最初からだとやっぱりブル法がいいと思うでしょう.そのチューブが入ってとりあえず退院してきますね.だから一遍は抜かなければいけないですね.その交換はどうしたら良いかと考えています.つまり,患者さんに入院していただき,チューブを交換すべきか,在宅で抜くだけならできるかどうか.
●蟹江 一回日の交換は,在宅においても容易に可能と思います.チューブ交換の際に起こりうる最大の問題は,挿入時に瘻孔を損傷することによって,腹腔内へチューブ先端が誤って挿入されてしまう事です.このような事はなさそうで意外にあるものなんです.そのため初回の交換の際には,万全を期す意味でガイドワイヤーを利用して交換をしています.
●小川 それ以後の,つまり2回目の交換の暗からバルーンチューフ〜を使うわけですね.チューブの先端が胃内に挿入出来ているかの確認を,家にいる時にするにはどの様な方法がありますか.
●蟹江 胃内への挿入の確認には,いろいろな方法があります.まず最も簡単な確認方法は,挿入後胃液の逆流を見ることです.ただこの方法は,胃内に確認可能な量の胃液がないと確認作業が行えないため,確実に確認をしたい場合は,チューブを抜去する前に胃内にメテレンブルーなどの色素を混入した液を100ml程度注入しておき,その後交換してチューブからの逆流液の有無と,その逆流液の色調の確認をするといった方法も有効であとどうしてもその方法で確認ができない場合は,同時に経鼻胃管も挿入して空気を入れ,胃瘻からの排気がないかを確認するという方法です.我々の施設では,交換時に瘻孔損傷を引き起こす可能性のあるチューブの交換の時のみ,その様な確認方法を行っています.
●小川 要するにレントゲン下でなくてもできる.
●蟹江 できます.
●小川 それは開業医にとって非常に心強いことですね.
●蟹江 ただバルーンチューブでも,若干の瘻孔損傷はあります.
●津川 そうですか.
●蟹江 バルーンチューブでも瘻孔損傷はありますが,他の交換チューブに比べてその程度はずっと軽いの
で,ぼくはバルーンが一番いいと思います.自己抜去の頻度も少ないし.
 あと少し話がそれますが,最近ボタン式のものが流行の様ですが,私自身はあまり使用していません.ボタン式はボタン式で色々なメリットがありますが,ペット上の生活が主体の患者さんにとって,その利点は稀薄に思います.反面,ボタン式は4ヵ月に1度の交換しか認められていないため衛生上の問題に疑問があり,介護者にとっても経腸栄養投与の工程が増えます.更にボタン式には専用の接続チューブがあって,またそれが高価でおまけに自己負担となっています.
●小川 高いですねあれは.
●蟹江 そのような理由から,僕はボタン式の適応となる症例が多いとは考えていません.もちろんクローン病の方々の様にボタン式がいいと思う状態の方もいますが,その様な痘例はPEGの適応となる症例のごく一部で,大多数の人は腹壁から伸びたチューブがいいと思っています.そして,伸びたチューブの中では,バルーン式が望ましいと考えています.それも太経のもの.
●小川 北陸中央病院の小市先生が今度発表するんですけど,介護者のおばあちゃんがリウマチのため指が不自由になって,ボタンで苦労したというお話がありました.三度,三度蓋を開けてはめるというのは目も悪いので大変でしょう.だから,蟹江先生がおっしゃったように介護者のニーズを考えてからやらないと駄目ですね.
●蟹江 そうですね.たとえば癌性腹膜炎に対しての減圧胃瘻を行うときなどは,当然本人は痴呆老人とかと違って正常な判断力があるわけですが,ぼくの場合,本人に胃瘻のカタログを全部見せちゃって本人に選んでもらう時があるんです.
●津川 なるほど.
●蟹江 状況を告知して,それで話した上でもボタンを選択する方は,意外に今のところ見えません.というのは,チューブ式の方が患者さん自身にとっても管理が容易に見え,反面ボタン式は「接続チューブを直接腹壁にさす」行為に抵抗があるようです.医療従事者にとっても,ボタン式の縛りである4ヵ月に1度のみの交換に関しても,チューブ内腔の細菌増殖の問題も不安を感じます.また,挿入時に柔らかかったチューブも,挿入してから4ヵ月ぐらい後には胃内固定板が硬化してしまう場合があり,交換時に瘻孔損傷が助長されてします.
●津川 柔らかいうちの交換が望ましいですよね.
●蟹江 特にシンメトレルやカマなどのシリコンを硬化させるような薬を使っている場合は,できれば内視下鏡での交換が望ましいと思います.
●津川 ええ,そうなんです.
●蟹江 ちなみに,その様なときの交換方法ですが,まず内視鏡を挿入して胃内から胃瘻チューブに生検紺子を挿入する.その後,胃瘻チューブと生検紺子を糸で結紮して,カメラごと抜去すれば容易に交換が可能です.
●津川 そうですか,なるほどね.
●小川 先生,バルーンの話ですけれど,僕は1回済生会病院時代に昔のダィナポットの古いザックスパインのやつで瘻孔損傷があったもんで,それで全部一時期バルーンに替えたのです.ところが,バルーンに替えたら日曜に破れたとかとんでもない時に呼び出されてしまった.家族に電話ガイドでこうやってごらんというふうにするか,新品のバルーンを1つ渡しておいて,抜けたら,ふくらまさなくていいから入れといてというふうには教えてはあるんですけれど.実際,夜中に抜けたって呼ばれていくのは大変ですもんね.
●蟹江 そうですね.それがバルーンチューブの持つ最大の問題だと思うんです.しかし,それは今後解決されていく問題ではないかと思います.今の,胃瘻交換用バルーンチューブというのは,所詮,尿道用からの流用なんです.ですから太さも20Frとか18Frとか,その程度の太さのものしかない.しかし,実際に必要とされているものは更に太径のものなのです.ただ,残念ながらいま太径の胃瘻用バルーンチューブがない.仕方ないので私自身はオーダーメードのチューブを作ってもらっています.太径のバルーンチューブなら交換も非常に容易ですし,誤挿入の可能性も少ない.また,在宅で不意に抜けても,太径で管理されていれば挿入が容易なので介護者でも挿入が出来ます.また,仮に挿入が出来なくてもすぐに病院に来てもらえば,太径なら瘻孔閉鎖までのタイムラグが長いから再挿入が容易と思います. あと,最近バード社から新しいボタン式チューブのジェニーシステムが発売されましたね.これは,非常に良いものだと思うんですけど,私は,経口摂取が可能になった胃瘻施行症例の,瘻孔保持用に使用しています.一旦食べれるようになったため胃瘻チューブを抜いてしまったが,
その後また食べなくなっちゃったという患者さん,そういう方,確かにいるようです.そういう方の瘻孔保持には,ボタン式がすごく良いのではないかと思っています.
●津川 なるほど.
●蟹江 特に,脳血管性痴呆のように症状が動く様な方は,食べたり食べなかったりする.複数回の胃瘻造設により胃排泄能低下を来す場合があり,食べれなくなったらその都度PEGを行うということには問題を感じます.そのため胃瘻造設後.経口摂取が可能になりPEGが不要になった場合には,ジェニーシステムのようなボタン型で,瘻孔を管理していくのが良いと思っています.また,誤喋性肺炎を時々起こすような方は,発症したときだけ胃瘻栄養を使うという方法もあります.
●津川 時間となりました.日本消化器内視鏡学会誌に掲載されていた論文によると,海外では1年間7万件,胃瘻が盛んに造られているという事ですが,日本では現在延ベ2万件ぐらいになるのですか.そういう意味で日本でも,今日お集まりになった先生方がいろんな機会があるごとに胃瘻の普及に努めていただくことが,日本の在宅医療並びに地域医療の活性化に,大きく貢献することになるのではと思います. 今日はみなさま,ありがとうございました.

このページのトップへ在宅管理におけるPEGの重要性

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