内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
業績紹介のページ


Copyright c 2002 ふきあげ内科胃腸科クリニック Allright reserved.
胃瘻
HOME

 
 ■ディベートセッション4 今一度問う 胃瘻の功罪
 “胃瘻の功罪”論の功と罪
ふきあげ内科胃腸科クリニック   蟹江治郎
日本在宅医学会雑誌.2017;19(1),135-136.
 内視鏡を用いた胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy: 以下, P E G ) は人工的水分・栄養補給法(Artificial Hydration and Nutrition:以下,AHN)の一手段であり,腸管機能が保持され長期の栄養管理を要する症例において良い適応がある.しかしながら,「口から食べる事は素晴らしい.」という着眼点が逆の解釈として,「口から食べられなければ生きている価値も無い.」という論理に置き換えられたのが,いわゆる胃瘻バッシングである.この胃瘻バッシングにより,本来ならばAHNの適応としてPEGが選択されるべき事例において正しい選択がされず,PEGの本来の目的である“栄養状態の改善により全身状態を回復し,再び経口摂取を目指す”という機会を与えられる事もなく,尊厳死という名で餓死させられる惨状には目を被うばかりである.
 重度の認知症症例におけるPEGは,その適応とすべきか疑問があるとの報告は確かにある.しかし,その報告は“重度の認知症症例”が対象者であり,また他国における胃瘻管理に基づく成績でもあることから,必ずしもPEGそのものを否定する根拠とはいえない.前述のごとくPEGはAHNの一手段に過ぎない.しかし,その一手段が死生観と混同して比論がなされ,その適否が論じられる”胃瘻の功罪論”は,そもそも議論を行う事が適切なのか疑問を感じざるを得ない.本稿においては以下に我が国におけるPEGの諸問題について取り上げたい.

【“PEGを行ったらもう経口摂取が出来ない”という誤った理解に基づく問題】
 AHNの方法としてPEGを選択した場合,経口摂取には戻れないという認識が患者や家族,時には医療者にもあり,その選択を躊躇させられる事例がある.PEGを行う目的は栄養補給による栄養状態の改善である事は周知の通りである.ただ,栄養状態の改善により経口摂取を再開し,結果として経管栄養から離脱するというPEGの真の目的が,現状,十分啓蒙されているとはいえない.PEGは,術後の全身状態の改善や嚥下リハビリの実施により,経口摂取が可能になり経管栄養剤を減量できる症例や,経口摂取により経管栄養そのものから離脱できる症例が一定の割合で存在する.PEGを功と罪で考え,罪との判断によりPEGを非選択とする事は,経管栄養投与による全身状態の改善により経管栄養からの離脱が出来る可能性を,奪うことになるのではないだろうか.

【AHNを非選択または中止する場合の諸問題】
 AHNの中止は医療行為の中断を意味する.医療行為を中断した場合,患者が医療機関に入院中ならば退院を余儀なくされるが,この場合,看取りが可能な介護施設へ入所するか,在宅介護とするしか選択肢がないのが現在の状況である.しかし,現実的には前者は途方もなく長い入所待ち時間があり,後者は家族に多大な介護負担が強いられることになる.その結果,仮にAHN非選択の希望があった場合においても,家族としてはPEGを選択せざるを得ないのが現状である.AHNなしで看取りを行える施設の整備が十分とはいえない現状において,PEGの功罪を考察できる状況にはないのではないだろうか.

【AHN中止時の法的整備の問題】
 AHNの中止はガイドラインに基づき,患者や家族の意思を尊重しつつ行うべきである.しかしながら,その中止により医療者が訴追を受ける事を避けるための法的ルールが,整備されている状況にない.仮に家族がPEGを選択しない場合,医師に直に接している家族の希望があったとしても、現場に不在の家族が納得しない事も想定する必要がある.非同居家族が納得しないケースでは,死亡に至った後に訴訟となるケースも発生し得る.それ故に現状において,経口摂取が不良となった症例の担当医師は,PEGを実施しない事の責任を負いきれるとはいえず,胃瘻の功罪を問う以前の環境ではないのだろうか.

【PEG非選択により他のANHが選択される事例の問題】
 AHNには静脈栄養と経腸栄養があるが,消化管機能が保たれている症例には経腸栄養が適している事は議論の余地はない.またPEGは経鼻胃管に比較して患者の苦痛が少なく,嚥下リハビリも行いやすい.しかし,胃瘻バッシングの後,胃瘻の施行件数は減少の一途をたどっているが,一方で他の栄養投与法である経鼻胃管,TPNの施行件数が増加している現実がある.これは本来,PEGのよい適応となるべき症例がPEG拒否の名の下に,本来適応とはならない他の栄養投与法が選択されている状況といえる.そのため,PEGの適応があるが,これを拒絶する症例に対しては,安易に他の栄養投与法を選択するのは慎重にすべきである.そして,胃瘻の功罪論の不充分な理解の結果として,不適切なAHNの選択がなされていないか,AHNにかかわる医療従事者は今一度確認をすべきではないだろうか.

【AHN中止時の法的整備の問題】
 AHNの中止はガイドラインに基づき,患者や家族の意思を尊重しつつ行うべきである.しかしながら,その中止により医療者が訴追を受ける事を避けるための法的ルールが,整備されている状況にない.仮に家族がPEGを選択しない場合,医師に直に接している家族の希望があったとしても、現場に不在の家族が納得しない事も想定する必要がある.非同居家族が納得しないケースでは,死亡に至った後に訴訟となるケースも発生し得る.それ故に現状において,経口摂取が不良となった症例の担当医師は,PEGを実施しない事の責任を負いきれるとはいえず,胃瘻の功罪を問う以前の環境ではないのだろうか.
 

【PEG非選択により他のANHが選択される事例の問題】
 AHNには静脈栄養と経腸栄養があるが,消化管機能が保たれている症例には経腸栄養が適している事は議論の余地はない.またPEGは経鼻胃管に比較して患者の苦痛が少なく,嚥下リハビリも行いやすい.しかし,胃瘻バッシングの後,胃瘻の施行件数は減少の一途をたどっているが,一方で他の栄養投与法である経鼻胃管,TPNの施行件数が増加している現実がある.これは本来,PEGのよい適応となるべき症例がPEG拒否の名の下に,本来適応とはならない他の栄養投与法が選択されている状況といえる.そのため,PEGの適応があるが,これを拒絶する症例に対しては,安易に他の栄養投与法を選択するのは慎重にすべきである.そして,胃瘻の功罪論の不充分な理解の結果として,不適切なAHNの選択がなされていないか,AHNにかかわる医療従事者は今一度確認をすべきではないだろうか.
 

このページのトップへ胃ろう

寒天固形化栄養/半固形化栄養/半固形状流動食/PEG/経腸栄養/胃ろう/蟹江治郎/胃瘻