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かかりつけ医フォローアップ研修
在宅医療で必要な胃ろうの知識 |
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ふきあげ内科胃腸科クリニック 蟹江治郎 |
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岡崎市医師会報,2016;350:16-20. |
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T.はじめに
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胃瘻とは,胃内と体外を結ぶ管腔状の交通路(瘻孔)を指します.胃瘻の造設は当初は開腹的に行われていたものの,1980年PonskyとGaudererにより内視鏡的に造設を行う経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous
Endoscopic Gastrostomy,以下PEG)が報告され,長期にわたる栄養投与法として多くの利点を持つことから,本邦においては胃瘻による経管栄養投与法が一般的に用いられる栄養投与法の一つとなりました.PEGは簡便かつ短時間での造設が可能ですが,対象となる症例が栄養状態の悪い高齢者であることが多く,造設や管理における合併症は稀ではありません.本編においては,よりよい胃瘻管理を行うための,適応,造設法,そして合併症管理に関して解説します.また,合併症管理において必要となる,栄養剤の半固形化についても略説します. |
U.栄養投与法とPEGの適応 |
2−1)PEGの適応,栄養瘻と減圧瘻
PEGの適応には栄養剤の投与を目的とした栄養瘻と,消化管の減圧を目的とした減圧瘻があります.栄養瘻としての適応は,脳血管障害,認知症,神経・筋疾患などによる摂食嚥下障害が一般的な適応となりますが,頭頸部癌,食道癌,噴門部胃癌などの咽頭から胃までの管腔に,不可逆性の狭窄が生じている症例の栄養補給路としても利用されます.
減圧瘻としての適応は,癌性腹膜炎などによる不可逆的な消化管通過障害となります.PEGを用いた消化管減圧は,経鼻挿入によるイレウス管に比較して留置に伴う異物感が少なく,外見上も良く,食品の物性によっては経口摂取が可能になるなど,さまざまな利点があります.
2−2)栄養投与法におけるPEGの位置づけ(図1)
経口摂取が困難な場合の栄養投与法には,経腸栄養法と静脈栄養法があります.静脈栄養法と比較したときの経腸栄養法の利点としては,@腸管を利用した消化吸収による腸管粘膜の維持,Abacterial translocationの回避による免疫能の維持,B代謝反応の亢進の抑制,C胆汁うっ滞の回避などが挙げられます.そのため,栄養投与法の選択の大原則は,「腸管機能に問題が無いのなら経腸栄養法を利用する」ことといえます.経腸栄養投与法における経鼻胃管は長期管理において,様々な問題の原因となります.そのため経口摂取が困難な症例が,長期にわたって経管栄養が必要となった場合PEGの適応となります. |
図1 栄養管理のルートの選択
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V.PEGの造設法 |
3−1)PEG造設手技の基本(図2)
PEGの造設法は,まず内視鏡を挿入して送気を行うことにより胃壁と腹壁の密着をし,用指圧迫や内視鏡の透過光確認により穿刺部位を決めます.穿刺部位が決まったら同部に局所麻酔を行い,カテーテルを通過させる貫通孔を造り,経口ないしは経腹壁的に挿入して留置を行います.開腹胃瘻造設では胃瘻の瘻孔は手術手技により形成されますが,PEGの場合,造設手技によって瘻孔壁を直接形成するものではありません.PEGにおける瘻孔壁は,造設手技により胃壁と腹壁を密着した後に,同部の線維性癒着をもって形成され,瘻孔がカテーテル交換の力学的負荷に耐えられる状態になるには,4−6ヶ月を要するものとされています.
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図2 PEGの造設法
@ 内視鏡を挿入する: |
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通常,胃は虚脱し胃壁と腹壁は,密着していない. |
A 送気により胃を緊満状態にする: |
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内視鏡からの送気を利用して,胃壁と腹壁を密着状態にする.症例によっては,この時点で経皮胃壁固定を行う. |
B カテーテル貫通孔を造設: |
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体表面から胃瘻カテーテルが通過するための貫通孔を作成し,カテーテル留置の準備を行う. |
C カテーテルを留置: |
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カテーテル貫通孔を経由して,カテーテルの留置を行い,造設手技自体は完了.
※ 瘻孔は未だ完成していない |
D 瘻孔が完成: |
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胃瘻カテーテルにより胃壁と腹壁の密着状態が保持されると,カテーテル挿入部周囲に瘻孔が形成される. |
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3−2)PEG造設手技の分類(図3)
PEGの造設法はカテーテルの挿入経路により分類されます.カテーテルが口腔咽頭を経由して挿入され,カテーテルを牽引することにより留置する方法が“Pull法”,カテーテルを押し入れる方法は“Push法”と呼ばれます.一方,カテーテルを腹壁より挿入する方法はIntroducer法といわれ,バルーンカテーテルを留置する方法が“Introducer原法”,バンパーカテーテルを留置する方法は“Introducer変法”として分類されます. |
図3 PEG造設手技の分類
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W.胃瘻カテーテルの構造と種類(図4) |
4−1)胃瘻カテーテルの構造
胃瘻カテーテルは,その位置を正しく保持するため2つのストッパーにより位置が固定されます.胃内に存在するものは「内部ストッパー」,体外に存在するものは「外部ストッパー」と呼ばれます.内部ストッパーはカテーテルの先端である胃内腔に位置し,カテーテルの抜去を防止する役割があります.一方,外部ストッパーは体表面に位置し,カテーテルが胃の蠕動運動に伴って腸へ先進する事を防ぐ役割を持ちます. |
図4 PEGカテーテルの構造
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4−2)胃瘻カテーテルの種類(図5)
胃瘻カテーテルは体表面からのカテーテル突出の有無と,胃内固定板の形状により分類されます.まず,体表面からのチューブ突出の有無では,体表面からカテーテルが出ているものを「チューブ型」とし,突出のないものを「ボタン型」としています.また,胃内ストッパーがバルーン式のものを「バルーン型」とし,バルーンでない形状のものを「バンパー型」としています. |
図5 胃瘻カテーテルの種類
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X.PEGの合併症 |
5−1)胃瘻術後合併症の分類(表1)
PEGの術後合併症は,術後3週間以内で瘻孔完成する前の合併症を“前期合併症”,術後4週間以後の瘻孔が完成した後に発生する合併症を“後期合併症”として分類します.前期合併症はPEGを造設する医療機関で発生する合併症,後期合併症は胃瘻を管理する医療機関や在宅で発生する合併症と考えてよいでしょう. |
表1 胃瘻術後合併症の分類
前期合併症 (瘻孔完成前合併症) |
後期合併症
(瘻孔完成後合併症) |
感染に関連 |
感染に関連しない |
1) 創部感染症
2) 嚥下性呼吸器感染症(肺炎等)
3) 汎発性腹膜炎
4) 限局性腹膜炎
5) 壊死性筋膜炎
6) 敗血症 |
1) 気腹
2) 創部出血
3) 事故抜去
4) バルーン破裂
5) 皮下気腫
6) カテーテル閉塞
7) 胃潰瘍 |
1) 嘔吐回数増加
2) 再挿入不能
3) チューブ誤挿入
4) 事故抜去
5) 胃潰瘍
6) 栄養剤リーク(栄養剤漏れ)
7) バンパー埋没症候群
8) カテーテル閉塞
9) 挿入部不良肉芽形成
10) カンジダ性皮膚炎
11) 体外固定板接触による皮膚障害
12) 胃内固定板による胃腸通過障害
13) 胃-結腸瘻 |
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5−2)覚えておきたい前期合併症
創部感染症:創部感染症は術後創部に発生する細菌感染となります.その発生頻度は術式に関連しており,口腔咽頭を経由してカテーテルを留置するPull/Push法が,Introducer法に比較して頻度が高くなります.その予防策として,Pull/Push法で造設する場合は,口腔内常在菌に対応した抗生剤を選択して投与を行い,造設時には口腔ケアを充分行った状態で手術に入ることが有効とされています.
呼吸器感染症:通常観察の内視鏡は側臥位で操作を行い,口腔内の唾液を流出することにより誤嚥を回避しています.一方,PEGにおける内視鏡操作は仰臥位にて施行されるため,誤嚥の発生しやすい状況となります.PEG術後の呼吸器感染症は,しばしば重篤化し致命的となり得るため,術後は腹部合併症のみならず,呼吸器感染症に関しても充分な経過観察と速やかな対応が必要となります.
気腹:PEGにおいては胃内に送気した状態で手術操作を行いますが,Introducer法の場合,複数の穿刺や拡張操作が必要なため,胃内への送気が腹腔まで及びます.そのためIntroducer法においては,術中の循環動態と腹部の観察は重要であり,循環動態に異常が発生した場合は腹部穿刺を行い,速やかな脱気を行うことにより対処することが重要です.
5−3)覚えておきたい後期合併症
栄養剤リーク:栄養剤リークとは瘻孔より栄養剤などの胃内容物が漏出する状態です.その発生原因としては瘻孔の自然拡張,体外ストッパーによる瘻孔への圧迫が強い場合,後述するバンパー埋没症候群の一症状として発生することもあります.そのため栄養剤リークが発症した際は,その発生原因につき鑑別を行い,原因に応じた対処を行うことが重要です.栄養剤リークの原因で最も頻度の高い瘻孔自然拡張については,栄養剤の粘度増強・固形化による対処が最も推奨され,バンパーによる締め付けは絶対に行うべきではない方法とされています(表3).
嘔吐回数増加:嘔吐は経管栄養を行う上でしばしば経験される合併症であり,その原因に関しては多岐にわたり,まずその基礎疾患について鑑別診断を行うべきです.嘔吐の基礎疾患のない場合,この予防として緩徐な滴下やギャッジアップ下の注入が行われていますが,筆者は栄養剤を寒天により半固形化し,胃内で生理的な形態にすることにより嘔吐の予防を行っています.
カテーテル誤挿入:カテーテル交換時に,その先端が瘻孔壁を破壊穿破し腹腔内へ挿入されることがあり,この様な状態をカテーテル誤挿入といいます.PEGにより造設した瘻孔壁は脆弱な膜様瘻孔であり,カテーテル交換時の力学的負荷により破壊穿破することは,希ではあるが避けることの出来ない合併症となります.そのためカテーテルの交換を行ったあとは,先端が胃内に挿入されているかを確認することが大変重要となります.誤挿入を確認せず栄養剤を注入すると汎発性腹膜炎が発生し重篤な状態になるので厳重に注意する必要があります.
バンパー埋没症候群:バンパー埋没症候群とは内部ストッパーが胃腹壁内へ埋没する状態です.胃瘻カテーテルは内部ストッパーと外部ストッパーによりその位置が保たれていますが,この2つのストッパーの皮膚への接触が密になると,ストッパー同士の圧迫により血流障害が発生し,内部ストッパーが腹壁に埋没することがあります.本症発症の初期はカテーテルの回旋が不自由になり,その後カテーテル先端が埋没すると栄養剤の注入が出来なくなり栄養剤リークが発生します.本症の予防に当たっては,体外固定板を皮膚から1〜2cm程度離して管理し,瘻孔部分への血流障害を防止することが重要です. |
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