内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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カテーテル早わかりQ&A
特集E 胃瘻・腸瘻,PEGの管理
蟹江治郎*
* ふきあげ内科胃腸科クリニック
INFECTION CONTROL メディカ出版 2007; 16(8): 746-752.

Summary & Keywords
  瘻孔部の消毒は不要であり,その清潔を保つためには清拭が重要である.
A. PEG術後早期のガーゼ保護は,体外ストッパーによる皮膚障害を回避する目的で行う事がある.
B. カテーテルを経口的に挿入する術式で行われたPEGは,創部感染の頻度が高く注意を要する.
C. 経口挿入される術式の際は,術前の口腔清拭が重要である.
D. 経腸栄養投与容器は中性洗浄剤で洗浄後,次亜塩素酸ナトリウムに浸すか熱湯で湯通して感染を防止する.
E. チューブ型カテーテルの場合,栄養剤注入後に酢酸水の充填を行い内腔の汚染を防止する.
F. PEG症例における慢性下痢症では,Clostridium difficile関連腸炎が希でなく留意する必要がある.

●PEG合併症 ●創部感染 ●投与容器洗浄法 ●カテーテル汚染予防 ●Clostridium difficile関連腸炎

Q1 瘻孔部の消毒とガーゼ保護の方法について教えてください
A1 術直後を含め瘻孔部分の消毒を行ってはいけません.ただガーゼ保護に関しては,術直後で創部が安定しない時期は,外部ストッパーの接触による疼痛の緩和を目的として使用することはあります.
■ 瘻孔部の消毒行為は有害
 従来より術後の創部に対しては,創部感染を防止する目的で消毒を行い,ガーゼで保護するという術後処置が常識として行われてきた.しかし,最近は消毒行為自体が無意味であるのみならず,創傷治癒が障害されるという考えが浸透しつつあります(1).そして,この考えはPEGの術後管理においても例外ではありません.PEGの術後に発生する瘻孔周囲炎は皮膚レベルの感染ではなく,瘻孔が完成しつつあるカテーテル貫通孔の皮下レベルが感染源であり,その様な病態にあって感染源とは異なる皮膚レベルへ消毒薬を塗布する従来の消毒行為は,有害なだけであり実施する意義はありません.
■ PEGにおける術後ガーゼ保護の意味
 術後のガーゼ保護については,PEGと他の術創とは多少考えが異なります.一般的な手術創に対してガーゼ保護を行うということは,創面を乾燥させることにより創傷治癒を遅延させ,ガーゼの網目が傷に食い込み,ガーゼをはがす際に創面の一部が剥離し,創傷治癒を遅延するのみならず,出血と疼痛の原因となるため,その必要性は疑問視されています.一方,PEGにおいては術後早期にカテーテルが動くことは,創面をカテーテルが擦過することになり,術後疼痛の原因となることがあります.また術直後は外部ストッパーが皮膚に接触する程度の強さで固定をしますが,その際ガーゼによる保護を行えば,外部ストッパーの接触による皮膚障害を緩和できます.そのためPEGの術後早期においては,ガーゼによる保護は創部の被覆という意味合いではなく,PEGカテーテルの枕としての意味において意義ある行為と考えます.
 PEGの瘻孔は術後2週間程度で完成するといわれています.瘻孔が完成した後は瘻孔部の血流障害を防止する意味で,外部ストッパーを皮膚から1〜2cm離した位置で固定するため,ガーゼによる保護は不要になります.もちろん消毒を行ってはいけません.感染予防のためにと思った消毒も,実は皮膚常在菌を死滅させることにより,新たな病原菌の感染源となったり皮膚環境を変化させることにより,さまざまな問題が生じます.瘻孔とその周囲を清潔に保つためには“消毒ではなく清拭”であることを充分理解することが必要です.また瘻孔完成後症例の入浴時は,そのままの状態で浴槽につかり挿入部も石鹸とタオルでしっかり洗うようにします.入浴時に挿入部をフィルムなどで保護すると,充分な清拭が出来ませんので気をつけましょう.(写真1)

写真1 不適切なケアが行われた瘻孔

 瘻孔感染後も漫然と消毒を続け,不要であるガーゼ保護の結果清拭も不充分となり,瘻孔部分が痂皮化している.不適切なケアが行われている瘻孔の典型例.
不適切なケアが行われた瘻孔/胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天

Q2 PEGの方法によって創部感染の頻度が異なる理由を教えてください.
A2 プル法またはプッシュ法での造設は,口腔内の細菌を創部に運ぶことにより感染の頻度が増すため注意が必要です.
■ プッシュ法,プル法
 PEGは“経皮内視鏡的胃瘻造設術”として報告されていますが,その術式では経皮的に挿入する方法(イントロデューサー法,セルジンガー法)と,経口的に挿入する方法(プッシュ法,プル法)があり,多くの症例は後者で手術を受けます.経口的に挿入する方法の場合,内視鏡挿入後に腹壁からの穿刺針より胃内へガイドワイヤーを挿入し,それを内視鏡で把持したまま抜去することにより,口腔よりガイドワイヤーを誘導します.そして,そのガイドワイヤーを利用してカテーテルを口腔内より挿入し腹壁に設置します(図1).
■ 術前の口腔内清拭を
この方法ではカテーテルは口腔を経由して設置されるため,口腔内に存在する細菌叢が,まずカテーテルに付着してカテーテルにより創部に塗布されることになります.その結果,創部感染が発生しやすい環境になり,実際に経口的に挿入する方法は経皮的に挿入される方法に比較して創部感染の頻度は高くなるのです(2).そのためPEGが予定となった症例においては,術前にどの方法で造設されるかについても確認を行い,経口的に挿入される方法が予定された場合は,術前の口腔内清拭を入念に行い,口腔からの細菌の移送を最小限に留めるよう処置を行うのがよいでしょう.

図1 
プル法とプッシュ法による経口的カテーテル挿入

胃瘻PEGハンドブック,蟹江治郎著,医学書院,p19より改変し引用)
プル法とプッシュ法による経口的カテーテル挿入/胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天

Q3 PEGで使う注入容器の清潔な管理法とはどの様なものですか
A3 注入容器は中性洗剤で洗浄後,次亜塩素酸ナトリウムに浸すか熱湯で湯通しします.チューブ型のカテーテルでは,栄養投与後に酢酸水の充填を行います.
■ 注入容器の管理
 経腸栄養剤の細菌汚染を予防するためには,その注入容器を清潔に保つための洗浄と管理が重要です.朝倉らの検討によれば,注入容器の洗浄は水洗浄,熱湯洗浄,中性洗剤による洗浄を何れも単独に行うのみでは効果が不充分であり,中性洗剤で洗浄後に次亜塩素酸ナトリウムに浸すか熱湯で湯通しした方法が推奨されるとの結果でした(3).実際の洗浄法としては,中性洗剤を用いて流水洗浄を行った後,投与容器を0.01%次亜塩素酸ナトリウムに1時間ほど浸し,最後に次亜塩素酸ナトリウムを流水で洗浄した後に自然乾燥させます.
■ チューブ型カテーテルの管理
 またチューブ型のPEGカテーテルの場合,長期間の使用によりチューブ内腔に栄養剤が付着し,悪臭や閉塞の原因となります.その様なことの予防のために従来は栄養剤注入後のフラッシュを行っていましたが,近年は酢酸水(食用酢)の充填によるカテーテル汚染の予防が効果を上げ普及しつつあります(4).実際の方法としては,10倍ほどに希釈した酢酸水を5ml程度注入し,チューブの入口をクランプしたまま注射器を外して蓋をしてクランプを解除します.この様にすればチューブ内には酢酸水が充填される事になります.ただこの方法は,一旦汚染されたカテーテルを正常に回復する効果はないので,新しいカテーテルが挿入された時から始める必要があり注意を要します.

図2
 酢酸水(食用酢)を利用したカテーテル管理の方法

胃瘻PEGハンドブック,蟹江治郎著,医学書院,p125より改変し引用)
1.注射器にの酢酸水を注入 2.大きい注入口のフタを閉める 3.小さい注入口に酢水を注入
酢酸水(食用酢)を利用したカテーテル管理の方法/胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天 酢酸水(食用酢)を利用したカテーテル管理の方法/胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天 酢酸水(食用酢)を利用したカテーテル管理の方法/胃瘻/PEG/胃ろう/固形化栄養/半固形状流動食/半固形化栄養/寒天

4.すべての酢水を注入

5.チューブをクランプする

6.クランプしたまま注射器を外す
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7.クランプしたままフタを閉じる

8.クランプを解除する


酢水(酢:水=1:10)

写真中の酢水は、目立たせるために 着色水を使用しています。
 実際の酢水の色ではありません。
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Q4 経管栄養症例では感染性の下痢が多いと聞きましたが,どうしてですか
A4 PEG症例における慢性下痢の原因の多くは,偽膜性腸炎の原因菌による下痢症であることが知られています.
 偽膜性腸炎の原因菌として知られているClostridium difficile(以下CD)によって発症する下痢症をCD関連下痢症といいます.この細菌は抗生剤の使用により正常な常在細菌叢が変動することにより発生することが知られています.また経管栄養剤として成分栄養(エレンタールR,ツインラインRなど)の投与を受けている症例でも,細菌叢の変動によりCD関連下痢症が発生するといわれています.経管栄養症例は,慢性の嚥下性呼吸器感染症などにより抗生剤の使用の機会が少なく,PEGの場合は造設時に抗生剤の使用が行われます.足立らの報告によれば胃瘻症例における下痢患者において,その41%がCD関連下痢症であったとあり,PEG症例に発生する下痢に対してはCD関連下痢症の存在を常に念頭に考えるべきでしょう.よって特に抗生剤使用歴のある症例や成分栄養投与例においては便中CD毒素を判定し,その診断に至った場合は,原因となる抗生剤を中止し,バンコマイシンの経口投与と乳酸菌製剤の内服を行います.
文 献
(1) 夏井睦 著,消毒とそれに関する問題.これからの創傷治癒,東京,医学書院,2003,78-87.
(2) Jiro KANIE, et al. Risk Factors for Complication Following Percutaneous Endoscopic Gastrostomy: Acute Respiratory Infection and Local Skin Infection. Digestive Endoscopy. 1998, 10(3), 205-210.
(3) 朝倉佳代子ほか.経腸栄養ボトルおよび経腸栄養剤の細菌汚染に関しての検討.JJPEN,19,1997,157-159.
(4) 加藤幸枝ほか.PEGカテーテル内腔汚染の対策.在宅医療と内視鏡治療,5(1),2001,9-13.
(5) 足立聡ほか.胃瘻下経腸栄養患者における下痢症の検討 ―Clostridium difficileの関与について―.日本消化器病学会雑誌.102,2004, 484-485.

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