内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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レクチャー:経腸栄養剤固形化の実際
ふきあげ内科胃腸科クリニック  蟹江治郎
胃瘻のケアQ&A 第1版,照林社,49-51,2005. 

T なぜ経腸栄養剤を固めるのか
1.経腸栄養剤が液体であるゆえの問題点
 現在,日常的に使われている経腸栄養剤は液体であることが半ば常識となっています.しかし経腸栄養剤が液体である理由は,医学的に液状形態が優れているというエビデンスがあるためではありません.近年,経管栄養投与法はPEGを含め多様な選択肢が可能になってきましたが,20年ほど前までの経管栄養投与法は経鼻胃管以外の選択肢がほとんどありませんでした.この経鼻胃管はPEGチューブに比較して細く長いため,注入する栄養剤は液状である必要があったのです.しかし流動性の高い液状形態は,胃食道逆流や下痢の原因となり,PEGの症例においては瘻孔部からの栄養剤漏れ(栄養剤リーク)の原因にもなります.

図1 液体経腸栄養剤の問題点
液体経腸栄養剤の問題点
蟹江治郎:胃瘻(PEG)ハンドブック,第1版,医学書院,東京,2002,P117より転載

2.固形化経腸栄養剤とは何か

 固形化経腸栄養剤とは液状経腸栄養剤を固形化し“重力に抗してその形態を保つ硬さ”としたものです.人は食事を摂取するとき,食物を咀嚼して適度な硬さの固形物とした後に嚥下して胃内に移送します.固形化栄養剤は胃瘻チューブから注入が可能で,胃内においては咀嚼嚥下でした食物と同様の硬さの固形物として存在します.そのため液状経腸栄養剤に比較して生理的な形態で流動性も低く,液状経腸栄養剤のもつ問題点である胃食道逆流,下痢,栄養剤リークの改善が期待されています.

図2 固形化栄養剤の効果
 固形化栄養剤の効果
3.なぜ寒天で固形化するのか
 液状物を固形化するためには,図3の示す様々な食品があります.その中で最も固形化栄養剤の目的に合う食品は“寒天”と考えます.寒天には多くの利点がありますが,その中で特に強調できるのは粘度を増さない事と,体温で溶解しない事の2点です.誤嚥性肺疾患は,いったん誤嚥した物を咳反射で喀出できないと発生しますが,粘稠度の高いものは喀出が困難になります.そのため寒天のように粘度を増さずに固形化することが重要になります.またゼラチンのように体温で溶解する物は,注入するときには固形でも胃内では液状化しますので,固形化の意味がありません.そのため寒天のように胃内でも溶解しないことが重要です.

図3
 経腸栄養剤の固形化剤の選択

粉末寒天 ゼラチン 全 卵 トロミ剤

 重力に抗し形態を保持 ×
 安 価 × ×
 入手が容易
 調理が容易 調理不要
 硬度調節が容易 × ×
 低カロリー ×
 粘度を増さない × ×
 体温で溶解しない ×


U 固形化栄養剤の調理法
1.固形化栄養剤調理の実際
 経管栄養投与法を受ける症例の多くは経腸栄養剤原液のみの注入では栄養過多となるため,必要となるカロリー分の経腸栄養剤に,必要とする水分量を補充して注入を行う事になります.固形化経腸栄養剤の調理では,この補充する水分を寒天溶液として経腸栄養剤と混合し,固形化を行った後に注入を行います.原則として液体は注入しません.調理は加熱する前の水と粉末寒天を混合し,混合後加熱し2分間煮沸して寒天溶液を作り,経腸栄養剤を混合してプラスチックシリンジなどの投与容器に注入します.寒天は40度以下で固形化が得られるため,容器を室温で静置するのみで固まります.

図4 固形化経腸栄養剤調理の実際
1.栄養剤を人肌程度に加温
固形化経腸栄養剤調理の実際
6.寒天溶解液と栄養剤を混合
固形化経腸栄養剤調理の実際
2.栄養剤をボールなどに注ぐ
固形化経腸栄養剤調理の実際
7.シリンジに経腸栄養剤を吸引
固形化経腸栄養剤調理の実際
3.粉末寒天を準備
固形化経腸栄養剤調理の実際
8.口の部分をラップで封印
固形化経腸栄養剤調理の実際
4.水を熱する前に寒天を入れ撹拌
固形化経腸栄養剤調理の実際
9.室温静置で凝固は得られる
固形化経腸栄養剤調理の実際
5.2分間の煮沸で寒天を溶解
固形化経腸栄養剤調理の実際

2.固形化栄養剤調理時の注意
 まず,経腸栄養剤は人肌程度にします.煮沸した寒天溶解液を経腸栄養剤に混合するとき,経腸栄養剤が冷えた状態だと,不均一な固形化が起こり,液体成分が残ってしまいます.また,熱湯に粉末寒天を入れないようにします.粉末寒天は水道水程度の温度ならよく水になじみますが,熱湯に直接入れると必ずダマになります.一端ダマになってしまうと,なかなか溶解せず,固形化失敗の原因にもなります.最後に寒天溶解はしっかりと行うようにします.粉末寒天は「煮沸した」熱湯で「2分間」撹拌して溶解します.この時間が守られるようタイマーなどを利用するようにしましょう.

V 固形化栄養剤の投与法
1.固形化栄養剤投与の実際
 まず,経腸栄養剤の入った容器を準備します.この時,経腸栄養剤が冷蔵保存されている場合は室温に戻すようにします.次に経腸栄養剤の入った容器をPEGチューブに接続します.接続は左手で接続部を,右手で容器をしっかり把持するようにします.そして症例の状態を診ながら2〜3分程度かけ注入を行います.1回の注入量は300ml〜500mlで,経腸栄養剤も水分も全て固形化して注入し,嘔気があるようなら注入を中断します.最後に投与が終了したら少量の空気でフラッシュし基本的に水分は入れないようにします.

図5 固形化栄養剤投与の実際
固形化経腸栄養剤投与の実際

2.固形化栄養剤投与時の注意

 固形化栄養剤が冷蔵保存されている場合は,そのままの温度で注入を行う下痢などの体調不良の原因となります.そのため注入前には室温ないしは人肌程度に温度を戻し,患者負担が生じないような状態で注入するようにします.また胃は食物などの内容物が入ると,内圧が上昇しないように胃壁を弛緩させる”受容性弛緩”という反射があります.しかし固形化経腸栄養剤の注入が受容性弛緩より早い場合や,噴門機能が低下している症例では嘔吐を起こすおそれがあります.そのため注入時は患者の状態を診ながら,慎重に“食事介助をするかのごとく”注入するようにしましょう.

参考文献
(1) 蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック,医学書院,2002,117-122.
(2) 蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践 - 胃瘻のイロハからよくわかる -.日総研出版,名古屋.2003,p120-140.

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